寒くて雪がふりしきったこともあった今年の冬。しかし土の中かどこかで、春が「萌え」始めているのを感じませんか。今年の春はドドッと来日公演が続きますね。ピナ、フォーサイス、トリシャ・・・そのほかもいろいろなカンパニーが来るし、日本の舞踊家の意欲的な公演企画もさまざま。また、春が巡りダンスの舞台が盛り上がります。
ルジマートフ、ファジェーエフが出演したレニングラード国立バレエ団
レニングラード国立バレエ団は、もう10年以上も定期的に冬の日本公演を行っている。その間に、古典からモダンまでレパートリーを増やし、美術・衣装なども一新し、多くの若いプリンシパル・ダンサーが育ってきた。目をみはるような発展である。それはこのカンパニーが、一回限りのツアー公演ではなく、東京を本拠地と思って一心に舞台を行っているためである。むろんプロフェッショナルのバレエ団であれば、ツアー公演だからと言って気が緩むというわけでは決してない。しかし定期公演となればダンサーの力の入れ方もおのずと違ってくる。そして大ホールの公演回数も多く観客もよく入るために、若いダンサーたちがしばしば登用されて育っていく環境が備わっているのである。
しかし若いダンサーが主体であるだけに、ゲストのダンサーが重要であることはいうまでもないだろう。その点ルジマトフは、あれこれ言う前に舞台で踊ってその範を示す、というタイプ。レニングラード国立バレエ団の若いプリンシパル・ダンサーたちは、ルジマトフの舞台から学び自身で努力する目標を作ることができたはずである。
今回の公演では、ルジマトフが出演した『ラ・シルフィード』『バヤデルカ』と、キーロフ・バレエのプリンシパル、アンドリアン・ファジェーエフがバジルを踊った『ドン・キホーテ』を観た。 |

※画像をクリックすると拡大写真がご覧になれます。 |

※画像をクリックすると拡大写真がご覧になれます。 |
レニングラード国立バレエ団がブルノンヴィル版の『ラ・シルフィード』を、日本で上演するのは今回が初めて。よく知られているように『ラ・シルフィード』は、フィリッポ・タリオーニが娘のマリーに振付けたものを、現在残されている資料を元に復元したピエール・ラコット版。それからタリオーニ版のパリ初演(1832年)後に、コペンハーゲンで再演したブルノンヴィル版が忠実に継承されたものが、現在踊られている『ラ・シルフィード』の主なヴァージョンである。物語の展開は、どちらのヴァージョンも似たようなもの。ただブルノンヴィル版のほうが、細かいマイムを使って物語をわかりやすく丁寧に説明しようと気を配っている。例えば、魔女のマッジが大きな鍋を煮立ててスカーフに魔法をかけるシーンなどは、念入りにおどろおどろしく、バレエに深い関心をもっていない人々にも興味を起させるように描いている。
タータン・チェックのスカートを翻してブルノンヴィルの細かいステップを踏むルジマトフ。これがまたじつに似合っている。誘うシルフィード(オクサーナ・シェスタコワ)と婚約者エフィ(ヴィクトリア・シンシコワ)の狭間でこころが揺れるジェームズもまた、たいへんに魅力的である。 |
同時に、プティパの一幕物バレエをグーセフが復元した『騎兵隊の休息』が上演された。同じ作品でボスクレシェンスカヤが復元した版は『騎兵隊の休止』というタイトルで日本でも上演されている。騎兵隊が休憩した農村の一齣を、若い恋人たちと隊長や兵士たちのキャラクターをダンスでスケッチした舞台。ちょっと皮肉を利かせたユーモアが、ほのぼのとしたヒューマンなタッチで描かれたなかなか楽しい作品である。
(1月5日、オーチャ−ドホール)
同じくプティパの大作『バヤデルカ』では、ルジマトフがソロルを踊り、ニキヤをシェスタコワ、ガムザッティをエレーナ・エフセーエワが踊った。ルジマトフはしなやかさのみならず、典雅さを感じさせるまことに美しい舞台姿だった。シェスタコワも見事なプロポーションを生かして、悲劇的感情をうまく吐露していたし、エフセーエワもしっかりとした踊りであった。コール・ド・バレエもきれいに調えられていてフォーメーションの眺めも心地良かった。全体的にはやや名場面集的な展開ながら、物語はヴァラエティの富んだシーンをテンポよく繰り広げていた。しかしまた、少々テンポが速すぎたのか、音楽が行進曲のように聴こえたのは些か残念だった。また、ラストの寺院崩壊の後、大僧上が登場する。これは神の裁きが下ったことを告げる場面なのだろうか。しかし大僧上はそれまで、ニキヤに横恋慕して謀を巡らしていたのだから、神の意志を告げるのはどうか、と感じてしまった。
(1月29日、オーチャ−ドホール)
『ドン・キホーテ』はキーロフ・バレエのプリンシパル、アンドリアン・ファジェーエフがバジルを踊った。
ニコライ・ボヤルチコフの『ドン・キホーテ』は、彼の解説によると、ドン・キホーテ自身の騎士道精神を物語展開の軸としている。まずプロローグでは、「騎士ドン・キホーテ」は騎士道精神にのっとりドルネシア姫に忠誠を誓う。第2幕では風車と闘って敗れた後に、ドン・キホーテの純粋な美しい心が白いバレエによって表される。そして彼は、キトリとバジルの愛の成就のために力を貸す。しかしガマーシュとの決闘には敗れ、潔く、サンチョ・パンサを伴って再び旅立っていくのである。
ここでは、クチュルクの奔放なキトリの魅力とファジェーエフの非常に優雅で濃やかな動きが、いい具合のコントラストを描いて大いに楽しめた。ファジェーエフはキーロフ・バレエのプリンシパルらしく、一分の動きもあだやおろそかには決してしない。よくコントロールの利いたしかし優しい踊りであった。
(2月1日、オーチャ−ドホール)
今までのレニングラード国立バレエ団は、主役級とコール・ド・バレエは整えられてきたが、ソリストクラスが今一歩という印象だった。しかし今回の公演では、若いソリストクラスにいいダンサーが散見されたように感じる。ぜひさらに発展してもらいたいと思っている。 |