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[2008.08. 9]

第23回ヴァルナ国際バレエ・コンクール速報

 ブルガリア・ヴァルナで、7月15日から30日、第23回ヴァルナ国際バレエ・コンクールが行われ、ジュニア女性1位=金子扶生(地主薫エコー ル・ド・バレエ)、シニア男性3位=福岡雄大(K★チェンバーカンパニー)、また福岡が決選で踊ったコンテンポラリー作品『Bourbier』の振付者、 矢上恵子が振付賞2位に入賞した。
もっとも古い歴史を誇り、ワシリエフ、マクシモワ、森下洋子、パトリック・デユポン、シルヴィ・ギエムら大スターを輩出してきたヴァルナ国際バレエ・コ ンクール。ソ連が崩壊し、ブルガリアの社会情勢も大きく変化したことに伴う経済的な問題は大きく、またソ連が国の威信をかけて出場者を送り込むということ もなくなったが、やはり、その権威は変わっていない。
会場は、海岸沿いの大きな公園の中に位置する野外劇場。蔦が絡まるアーチの後方には、木々がそびえている。数々の伝説を生み出してきた、独自の雰囲気が漂う舞台だ。
そこで踊ることは「言葉に出来ないほど感動的」(福岡雄大談)、であるらしく、杉山聡美(92年銀賞)をはじめ、ここで踊った経験のあるダンサーが、今回は指導者としてその生徒を連れてきているケースも多かった。
決選(7月26、27日)から見たが、韓国、中国、日本の出場者が目立っていた。今回、大きなカンパニーからの出場者は極く少数。「以前、この期間は大 カンパニーの夏休みだったので、そこからの参加者もいたが、現在は大カンパニーのツアー・シーズンと重なっているため、出場は不可能。参加者に偏りがあ る」ことを指摘する審査員もいた。
数ある国際コンクールのなかでもヴァルナは過酷だ。コンクール開始時刻は日没後の午後9時。舞台でのリハーサルは、日差しが強い日中はほとんど不可能なの で、コンクール後の深夜から明け方にかけて行われる。昼と夜の気温差も激しく、また今回は予選時、雨のためにスケジュール変更もあったらしい。ヴァルナは 結局、肉体と精神の力が試される場でもある。「アジアのダンサーは努力家」という声を、ヨーロッパなどのバレエ学校できくことが多いが、過酷なヴァルナを アジアのダンサーが目指すのは、その辺りにも理由がありそうな気もする。

クリスターナ・テレンテイエフ クリスターナ・テレンテイエフ ハン・ソへ

 さて、シニア女性第1位となったのは、モルダビア国立バレエのプリマ、クリスティーナ・テレンテイェフ。モルダビアはソビエト連邦から独立した国 で、首都キシニョフのバレエ学校もバレエ団もロシア・スタイル。決選で踊った『くるみ割り人形』はグリゴローヴィチ版でバレエ団のレパートリーだという。 バレエ団で活躍しているプリマらしい落ち着きを持ち、どのポーズや動きにも狂いはない。息のあったパートナー、アレクセイは彼女の夫。年齢のためコンクー ルは不参加だったが、パートナー賞を贈られた。また2次、決選のコンテンポラリー作品を振付けたモルダヴィア出身のラドゥ・パクリタルーも振付賞一位を受 賞した。旧ソ連には、まだまだ日本では知られていない大カンパニーが存在するようだ。
2位のハン・ソヘは韓国芸術総合学校の学生。この学校では、元キーロフ・バレエのマルガリータ・クリークも教えていて、今回も引率していた。「韓国人は 日本人同様に努力家で礼儀正しい。だから教えるのが凄く楽しい。ソウルに教えにきて5年半。ずっと教えてきたハン・ソヘの入賞はとても嬉しい」と現役時代 と変わらない笑顔で話してくれた。
3位は、やはり韓国のイ・サンウン。ユニバーサル・バレエのドゥミ・ソリスト。長身と脚の長さで、まず目を引くダンサーだ。

ハン・ソへ イ・サンウン
イ・サンウン ジェン・ユイ ジェン・ユイ

 シニア男性1位は中国、遼寧バレエ団のジェン・ユィ。きれいな体のラインをもちテクニックにも優れていて『バヤデルカ』のソロは美しかった。だ が、コンテンポラリーの『TAI JI』は、太極拳とカンフーをそのままデモンストレーションしているようでダンスとしては物足りなさを感じた。
2位は、やはり中国、上海出身で広州バレエ団のホアン・イー。『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥをていねいに踊っていた。
3位は福岡雄大。ソロでの参加で、『くるみ割り人形』と『エスメラルダ』のアクテオンを堂々と踊った。体の隅々にまで神経を行き渡らせ、でも余裕のある 動き。肩の力が抜けているとでも言おうか、それこそ大人の演技だ。1次予選、2次予選は見ていないが、その「安定感」を評価する声は多かった。前述したよ うなハードな環境のなかでは、優れたダンサーでも、思わず調子を崩すことがあるが、福岡にはそれがなかったようだ。
コンテンポラリーは、『Bourbier』。恩師、矢上恵子の作品だ。テンポの速い現代音楽での前半、激しく、スピーディな動きに圧倒された。凄まじい 速さだが、動きに甘さや乱れは全くない。そして、音楽は、オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』の間奏曲にスイッチ。いままで、見えない敵と必死で戦 い、傷つき、ささくれ立っているような心が、どんどん癒されていくよう。自然に治癒されるのではなく、今までの経験から心が広く大きくなっていく。ジュニ ア時代から活躍してきた福岡の、その過程が描かれているようにも思えた。
ラストは、両手で包んだ球を真上に捧げるようなジェスチャー。「魂を磨いて、神に返す」と振付の矢上は語る。私には、福岡が様々な経験から育み、あるい は見つけた、とても綺麗な何かが、天空に飛んでいくように思えた。演技が終わると大きな拍手とブラボーの声。と同時に最後のジェスチャーを真似る観客の姿 も目に付いた。大きな感動を与えるとともに、見る者の想像力を喚起する、振付賞に相応しい作品だった。
3位はもう一人。キューバ出身でドイツで活躍中のロドリゴ・アルマラス・ゴンザレスが受賞した。

ホアン・イー ホアン・イー 福岡雄大
福岡雄大 ロドリゴ・アルマラス・ゴンザレス

 ジュニア女性では、アメリカのウィットニー・ジェンセンが特別賞に輝いた。シルヴィ・ギエムやローランド・サラビアら、飛びぬけた成績を収めたダンサーに贈られる賞。抜群の回転力とキープ力は確かに凄い。だが決選を見る限りでは、くせのある動きが気になった。
第1位の金子扶生は、奥村康祐と『グラン・パ・クラシック』を踊った。ジュニアらしい清潔感と落ち着いた色気を感じさせる不思議な魅力ある。一次予選で の『くるみ割り人形』を表彰式後のガラでも踊ったが、終演後、ロシアの教師たちから、「正確なロシア・スタイル」と絶賛されていた。また審査委員長のワシ リエフと同行していたマクシモアからは細部に渡っての注意を受けていた。「彼女は素晴らしい。さらに細かなニュアンスを理解すると、さらに素敵になる」 と、マクシモワは語っていた。ジュニア女性2位は該当者なし。3位はやはりクリークの教え子の韓国人、イ・ウンウォン。
ジュニア男性1位は該当者なし。2位はキューバ国立バレエ学校のオシエール・ウラジミール・グニュ・マルティネス。キューバン・ダンサーならではの回転 力と、独特の自己アピールを楽しませてくれた。3位は、美男子という言葉がぴったりの中国人、マ・シャオドンと、ボリショイ・バレエのドミトリー・ザグレ ビン。ザグレビンは足先が美しく、動きは基本に忠実。コンテンポラリーでは、ラトマンスキーの『ボルト』の一部を軽やか&ドラマを感じさせながら踊ってい た。
審査員は薄井憲二、エリザベット・プラテル、レオニード・マシーン(「パリの喜び」の振付などで知られるマシーンの息子)ほか。

ウィットニー・ジェンセン 金子扶生
金子扶生 イ・ウンウォン
オシエール・ウラジミール
・グニュ・マルティネス
ドミトリー・ザグレビン マ・シャオドン
(桜井多佳子)