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審査員レポート/左右木健一 
[2012.08. 3]

黒海に面する美しい野外劇場で開催された第25回ヴァルナ国際バレエコンクール

今年で第25回目の開催を迎えたブルガリア・ヴァルナ国際バレエコンクール。今回はコンクール創設者の故エミール・ディミトロフに哀悼の意を表すると共に、ディミトロフのご子息ディートマー・ディミトロフを後継者として開催されました。
私は、長年に渡り審査員を務めてこられた薄井憲二の推薦により、日本から審査員として招かれ、世界13ヶ国、計16名の審査員に混じり、15日間に渡る審査を初めて行ってきました。

このコンクールは黒海に面する海洋公園内にある美しい野外劇場で開催されます。野外の素晴らしさは言うまでもありませんが、日没の関係上、夜の9時から審査が開始されます。そして舞台リハーサルは審査終了後の12時から朝4時。参加者は、まずこの過酷なスケジュールをこなさなくてはいけません。
しかも、ソロで参加する者はクラシカル・ヴァリエーション6曲、コンテンポラリー2曲。パ・ド・ドゥで参加する者はクラシカル3曲、コンテンポラリー2曲というたくさんの審査曲を準備する必要がある、たいへん厳しいコンクールです。
この参加条件のなか、今年の日本人参加者は海外組を含む14名。最多出場国として審査前の記者会見でも大いに注目されておりました。

1208varna01_miki_w.jpg 涌田美紀

そのなかで、見事にシニア女性銀賞に輝いた涌田美紀(サンホセ・バレエ団、ソウダバレエスクール出身)。金賞該当者なしの、総合点では第1位という素晴らしい結果でした。過酷な状況でラウンドを重ねるごとにパートナーシップが崩れていくカップルが多いなか、パートナーの末原雅広と共に最終ラウンドまで疲れを見せず、作品の理解力、音楽性、コーディネーション、技術、観客へのアピール度、すべてにおいて、常に高レベルを維持できたことが受賞に繋がったと思います。末原雅広は残念ながら、ファイナリストに選ばれませんでしたが、パリ・オペラ座バレエ団のバレエミストレスでもあるフランスの審査員、クロティルド・ヴァイエから「品があり、インテリジェントで、素晴らしいアーティスト」と絶賛されておりました。
シニア男性銀賞の宮川新大(坪田バレエ団)は、クラシカル・ヴァリエーション、コンテンポラリーのどれもが素晴らしく、常に高得点で金賞受賞者とは僅差でした。特に第一ラウンドで踊ったブルノンヴィルの『ナポリ』は、コンクール向きでない作品にも関わらず、観客を感動させ、なおかつ審査員から高い評価を受けました。超絶技巧でアピールをする必要が全くない確固たるアンドゥオールを基礎としたコーディネーションの良さ、シンプルで力強い質の良さで観客を圧倒させることの出来る数少ない男性ダンサーです。13歳で単身ドイツに渡り、モスクワでもプロとして踊っており、国際的なセンスが既に備わっているのも強みでしょう。

1208varna02_ws.jpg 涌田美紀、末原雅広 1208varna03_m.jpg 宮川新大

近年、世界コンクールで顕著に見られる「アジアン・コンペティション」の傾向は、今回のコンクールでもはっきり見られました。日本、韓国、中国。この三カ国は第一ラウンドから注目されており、特にジュニアのグランプリ受賞の中国のへ・タイユーは、これから世界のバレエ界をリードしていくに相応しいスターである、と審査員満場一致で授与が決まりました。中国からの参加者は、ジュニア金賞のワン・ツィンシン/ヅァン・ツァオイ組を含め、三名とも遼寧バレエ学校の生徒。以前からレベルの高い生徒を輩出していることで有名でしたが、今回の受賞により、更に注目されることでしょう。
韓国勢は、涌田美紀と共にシニア女性銀賞を受賞したチェーウン・ヤン、ジュニア女性銅賞のミンジュン・キム。共に容姿に恵まれ、またプレゼンテーションにとても好感が持てました。特にチェーウン・ヤンの第一ラウンド『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』は正統なロシアンスタイルを忠実に守り、愛らしいリーズを表現していて非常に好感が持てました。ジュニア男性銅賞のジューウォン・アンも、テクニック面ではまだ弱さが見られますが、アジア人でプリンスを演じられる数少ないダンサーに成長することは間違いないでしょう。
メダリスト以外の日本人参加者の中で注目を集めたのは、惜しくも受賞こそ逃しましたが見事ファイナリストとして第三ラウンドまで進出したオランダ国立バレエ団の奥村彩、アメリカのグランドラピッド・バレエ団の吉田恭平でした。両者ともプロとしての貫禄は十分。今回の経験を積んで次へのステップに繋げて行ってもらいたいです。また、カナダのゴー・バレエアカデミーから出場の上草吉子も強いテクニックと個性が買われており、将来が楽しみです。

1208varna04.jpg へ・タイユー 1208varna05.jpg へ・タイユー
1208varna06.jpg ヅァン・ツァオイ 1208varna07.jpg ワン・ツィンシン 1208varna08.jpg ワン・ツィンシン、ヅァン・ツァオイ
1208varna09.jpg チェーウン・ヤン 1208varna10.jpg ミンジュン・キム 1208varna11.jpg ジューウォン・アン(右)
1208varna12.jpg 奥村彩 1208varna13.jpg 吉田恭平 1208varna14.jpg 上草吉子
1208varna15.jpg デニス・シェレヴィチコ

ヴァルナのシニア部門は「プロのためのコンクール」でもあります。シニア男性金賞を分け合ったウィーン国立歌劇場バレエのプリンシパル、デニス・シェレヴィチコ、ワシントン・バレエのブルックリン・マックは、共にプロとして歩んで数年。次への新たな可能性を探しにヴァルナにやってきたとのこと。プロとは言え、このコンクール期間中に開催されるサマーアカデミーのクラスにも彼らは顔を出し、パリ・オペラ座バレエの重鎮、ジルベール・メイヤーのクラスを熱心に受講しておりました。
サマーアカデミーはコンクール出場者以外でも受講可能で、クラシック、キャラクター、ジャズ、モダン、など一日5クラスを受講出来ますし、もちろん夜からの審査も観覧可能。このコンクールが教育、情報交換、国際交流に非常に力を入れていることを肌でしっかりと感じました。

EU統合後から、ヴァルナの街は急速な発展を遂げています。私自身が参加・受賞をした18年前とは違い、コンクール自体も旧社会主義体質は感じられず、随分と状況は変化しています。今回、私を含め3人の新たな審査員が加わりました。ベルリン国立歌劇場バレエにて数年前までマラーホフのパートナーを務めたヴィアラ・ナチェーヴァ、アルゼンチンのマキシミリアーノ・グエラです。その新たなメンバーに対して「このコンクールに出場経験のあるあなた方の観点で、審査して欲しい」と、主催者のディミトロフは言葉をくれました。
次回のコンクールは2年後の2014年。創設50周年にあたる年なので「ぜひ日本からもたくさんのダンサーたちにチャレンジして欲しい」とのこと。この歴史あるコンクールが、ますますバレエの歴史に意義深いコンクールとして引き続き開催されることを願っております。(文中敬称は略させていただきました)

1208varna16.jpg デニス・シェレヴィチコ 1208varna17.jpg デニス・シェレヴィチコ 1208varna18.jpg ブルックリン・マック 1208varna19.jpg ブルックリン・マック
1208varna20.jpg アイゲリム・ベカタエヴァ 1208varna21.jpg クリスティーナ・チョチャノヴァ 1208varna22.jpg ミコ・フォガルティー 1208varna23.jpg ナタリー・ブラタノヴァ