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審査員レポート/越智 久美子 
[2013.07.10]

「第12回モスクワ国際バレエコンクール」
日本代表審査員:越智 久美子より現地レポート

2013年6月10日から19日まで、モスクワ国立ボリショイ劇場にて 「第12回モスクワ国際バレエコンクール」と「振付家コンテスト」が開催されました。
10日はオープニングセレモニーの後、スヴェトラーナ・ザハロワ主演による「ジゼル」全幕が上演され、翌日からボリショイ劇場のニュー・ステージに会場を移して、コンクール各部門の1stラウンド、2ndラウンド、振付家コンテスト(2演目を発表)が6日間で行われました。そして、18日からボリショイ劇場のヒストリカル・ステージにて、オーケストラ演奏によるコンクールの3rdラウンド、最終日(19日)に表彰式とガラコンサートというスケジュールでした。

審査委員長はユーリー・グリゴロビッチ(モスクワ国立ボリショイ劇場バレエマスター)、シャルル・ジュド(フランス)、リュドミラ・セメニャカ(ロシア)、スヴェトラーナ・ザハロワ(ロシア)、
ユリアナ・ロパートキナ(ロシア)ほか、世界で活躍するバレエ芸術家16人が審査を行いました。
モスクワ国際バレエコンクールは1969年にグリゴロビッチの提唱により開催され、第1回の審査委員長はガリーナ・ウラノワが務めました。以後4年ごとに開かれ、今回が12回目となります。
私は1977年の第3回に出場し、女子部門の銅メダルをいただきました。当時は、男女各1部門と入賞は非常に狭き門であり、世界中から集まったダンサーが競い合っていました。今回の審査は、シニア・ジュニア部門の各男女、さらに「ソロ」「デュエット」と8部門に分かれ隔世の感がありました。また、各部門の参加人数とレベルに差があり、それにより審査会議で議論となりました。
参加者はシニア女子ソロ部門9名・デュエット部門20名、シニア男子ソロ部門20名・デュエット部門17名。ジュニア女子ソロ部門36名・デュエット部門7名、ジュニア男子ソロ部門12名・デュエット部門2名。日本からは14名が参加しました。

シニアの金メダルは、女子デュエット部門オクサナ・ボンダレワ(ロシア)、男子デュエット部門ティムール・アスケロフ(アゼルバイジャン)と男子ソロ部門・デイビッド・ザレーブの3名(女子ソロ部門は該当者なし)。ミハイロフスキー劇場<旧レニングラード国立バレエ>に所属しているというボンダレワは1stラウンドで高度なテクニックを披露し、審査員に強い印象を与えました。2ndラウンドでやや崩れたものの、3rdラウンドでは、アダジオ、ヴァリアシオンを的確に踊り、コーダのフェッテでは最初から最後までダブルで決め、高得点を獲得しました。

1306moscow_9154.jpg オクサナ・ボンダレワ
イゴール・ザハルキン撮影
1306moscow_8789.jpg オクサナ・スコリク&ティムール・アスケロフ
イゴール・ザハルキン撮影
1306moscow_6996.jpg デイビッド・ザレーブ イゴール・ザハルキン撮影

ジュニア女子デュエット部門では、金メダルを獲得したボリショイバレエ・アカデミー在学中というクセニア・リシコワが唯一人飛び抜けていました。そもそもこの部門の参加は7名と非常に少なく、2ndラウンド出場者4名がそのまま3rdラウンドに進出するということにジュニア女子ソロ部門に比べ、レベルが低すぎ、不公平であるという審査員の意見がありました。しかし、コンクール委員会の規定により、4名が進出し、第2位銀メダルは該当者なし、第3位銅メダルはハタト・リエコ(日本)、ディプロム(認定)2名という結果となりました。
ジュニア男子ソロ部門はティモフェイ・アンドレアシェンコ(ラトビア)が金メダルを獲得、女子ソロ部門・ボリショイバレエ・アカデミーのエルビナ・イブライモワ(ロシア)とともに金メダルを獲得したミコ・フォーガティ (スイス)は日本人の母を持ち、現在はインディアナ・バレエ音楽学校に通っているとのこと。ロシア人特有のバレエ向きなスタイルの出場者の多い中、彼女は正確にアンデオールされたアカデミックなクラシックバレエの基礎とクリアで強いテクニックを舞台で見せました。また1stから3rdラウンドまで強いテクニックを正確に踊り続け、輝きを放っていました。また、第2位銀メダルのジゼル・ベセア(アメリカ)も14歳ながらユース・アメリカ・グランプリの実力を発揮し、確かな将来性をアピールしました。

1306moscow_4702.jpg クセニア・リシコワ イゴール・ザハルキン撮影 1306moscow_1395.jpg ティモフェイ・アンドレアシェンコ イゴール・ザハルキン撮影

振付家コンテストでは「金メダルの該当者なし」という結果でした。しかし、グリゴロビッチが記者会見で「ロシアではコンテンポラリーが乏しいと言われた時代があったが、今回は優れたコンテンポラリー作品がいくつかありました」と語ったように、ロシア勢によるインパクトのあるコンテンポラリー作品も見受けられ、明るい兆しを感じました。
今回、スター性を持ったスーパーなダンサーが現われず、審査員は「グランプリ」を選出しませんでした。

そして、一番印象に残ったことは、審査委員長ユーリー・グリゴロビッチが、彼の年齢とは思えないほど、今現在も活躍をしていたことです。その活力、バレエに対する情熱と愛情は、昔と変わらず本当に素晴らしいと感じました。また会場内での彼への拍手、歓声がひときわ大きく、彼がモスクワの人々から尊敬されていることがうかがえました。
「グリシコ」はじめ、多くの企業がサポートして国民も後押しているモスクワの現状を見ると、こういう環境の中で育まれるクラシックバレエは未来も明るいと思う半面、日本における芸術の現状を非常に残念に思いました。それでも、昔から交流のあるダンサーたちとお互いが審査員という立場で関わり、彼らが日本のバレエに対して興味を示してくれていることによって、微力ながらバレエ芸術の振興に力を注ぎこんでいきたいと強く感じました。

私は、コンクールに参加するダンサーは“ダイヤモンドの原石”だと思っております。同じものは一つもなく色、大きさ、すべて異なります。それをカットし加工することがダンサーの育成であり、コンクールもその育成の一環です。コンクールは決して最終目標ではなく、スタートラインです。また、競い合うことよりも“世界中(日本中)のダンサーとの交流”することによって得られる経験と発見こそコンクールの意義であると思っています。そして、光り輝くダイヤモンドになってゆく・・・私はこれからもコンクールに出場するダンサーを応援していきます。

1306moscow01.jpg 表彰式後に