解説:文葉

はねる

その日一日の興行が終わること。
国語辞典にも載っていますので、ある程度耳なじみのある言葉でしょうか。終演の俗称です。一日の公演が終わった後に打たれる大太鼓を歌舞伎では「打出し」と言って、歌舞伎の世界では終演を打出しと言ったりもするそうです。
舞台がはねる。芝居がはねる。寄席がはねる。改めて読んでみると、変ですね。jump、hopといった動詞を想像すると違和感が…。

舞台用語の「はねる」は、江戸の大衆文化のひとつ、芝居小屋が起源となっているようです。巡業のためのテントのような簡易小屋では出入り口に「筵(むしろ)」を掛けていて、本番中は垂れ下げておき、終演後はお客様が帰りやすいように上げておいたのでした。にぎにぎしい終演を告げる鳴り物が筵の向こうから聞こえてくると、パンッと筵が跳ね上がる。これを合図にどっとお客さんが流れ出てくる…。

高揚した面もちの人々が生き生きと帰っていく様は、「はねる」が持つ軽快なイメージととても良い相性ではないでしょうか。でも、センチメンタルで悲しくって苦手です。確かに息づいていた劇場が急に灯火を消されたように静まりかえってしまうのですから。それでも、私は、劇場というものは、一つの終演を迎えるごとにゼロに戻ってしまうような無機的なものではないと思うのです。すべてを分かち合った旧友というか。喜怒哀楽を壁床から吸収して。人達が感動を胸に閉まって、ときに口々に感想を言い合って去っていくのを見送りながら、一期一会で生まれた感動と拍手を記憶に刻み成熟していく。劇場にいるだけで感じる興奮と安心感は、そんな歴史がもたらすものなのでしょう。

舞台がはねて、席を立つとき。素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた人だけでなく劇場にも感謝して。劇場好きとして、私なりのマナーにしようと思います。