解説:文葉

天井桟敷 (てんじょうさじき)

(英/paradise 仏/paradis)

1945年、マルセル・カルネ監督がナチ占領下のもと制作した不朽の名作、1840年代のパリ・犯罪大通りが舞台の恋愛絵巻「天井桟敷の人々」は、原題がLes Enfants du Paradis。パラダイス?! 舞台から最も遠く天井に近い客席層を天井桟敷と呼びます。英語・仏語では楽園に当たるパラダイスが当てられているのは、言い得て妙でしょう。

 ミラノ、パリ、そしてフランス宮廷文化が輸入され花開いたロシアなど、ヨーロッパの伝統的なオペラハウスは馬蹄型の劇場です。客席は、平土間の席と、壁面を5層にも6層にも区切ったバルコニー席とに区分され、なかでも最上層が天井桟敷。ここはチケット代も安いし、自由席で、連日通い詰めるような、耳の肥えた客が集う場。もちろん情報通も集まっておもしろい話が飛び交い、上等の席で行われるのとはまた別な社交場になります。舞台から遠いと言うことは耳をよく使うため耳を鍛えられるし、聴き所がわかるようになるし、情報が得られるし、たちまちに通になれるそうです。オペラ好きにはたまらない場所に違いありません。出演者たちは、天井桟敷の客に気を遣うそうです。なぜなら、彼らの反応で作品の出来、自分の出来を計ることができるから!

 日本語でいうと桟敷とはそもそも、物見のために高く構えた床のことで、上等の見物座席をさします。今でも、歌舞伎座の桟敷席はお高いです(が、断然観やすい!)。しかし、ヨーロッパの劇場に存在するボックス席、ギャラリー、バルコニーの訳語としても用いられています。浅草や大阪で江戸時代の芝居小屋を再現し、当時の大衆娯楽の賑わいを楽しんでしまおうという、2000年から始まった中村勘九郎さんの企画による歌舞伎「平成中村座」公演では、松・竹・梅席の他に、桜席という席種があります。ここは、舞台の真横上部に席が設けられています。なんと、定式幕が閉まると、幕裏に一緒に入ってしまう席! そこにあえて座った友人は、スタンバイする役者さんに手を振ってもらっただの、話しかけてくれただの、なんだか、楽しそうでした。天井桟敷とは違うけれど、芝居好きにはたまらないおいしい席ですよね!