パ・ド・フィアンセ(仏/Pas des Fiancees)

『白鳥の湖』ほど、改訂が重ねられ、版によって結末がハッピーだったり悲恋だったり観念的だったりするバレエ作品はないのかもしれません。1875年の初演は大ブーイングだったのに、1895年のリバイバルからは殿堂入り。演出・振付をする側も演じる側もこの作品に特別の想いを寄せ様々にアプローチしてきています。パ・ド・フィアンセはその探求心が生んだ副産物のひとつです。

直訳すれば「婚約者たちの踊り」。実は同じ名前の曲、踊りは、『白鳥の湖』第三幕に登場しています。湖畔で愛を誓った美しい捕らわれの姫に心を奪われ、浮かないジークフリート王子と各国の姫6人がワルツを踊って、王妃様にどの姫がいいか答えを促される。ファンファーレとともに美しい姫がお輿入れできますように!と王子の前に現れるあそこです。

しかし、「パ・ド・フィアンセ」単体の作品があるのです。英国の振付家ジャック・カーターが構成・振付したもので、ブルメイステルの原曲の研究、原曲に沿った構成があってこそなのではないかと私は思います。それは、この「パ・ド・フィアンセ」で使われる曲は、プティパ版ではカットされる「パ・ド・シス」の音楽(パリ・オペラ座上演でよく知られるブルメイステル版や、カーター版の『白鳥の湖』では採り入れられている原曲第3幕の曲)を基に、ブルメイステルがチャイコフスキー博物館で発見した『白鳥の湖』のために作曲されたのに、お蔵入りになった曲「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」の女性ヴァリエーションの曲をプラスしたものになります。婚約姫ではないのですが、6人の女性が研を競うように一人一人ヴァリエーションを踊りコーダで終わる構成になっています。最後6人目のソロは、黒鳥のパ・ド・ドゥで聞いたことがある曲でした。
「パ・ド・シス」は、黒鳥の華やかさを強調するためにカットされてしまったようです。『眠り』の精たちのパ・ド・シスを思うと確かに華やかですものね。全て演奏されたら第3幕はお腹いっぱいになりそうです。

 

[解説]
文葉

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