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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2018.05.10]
♪バレエ昔も今も♪ BALLET OLD AND NEW♪
ウィーン国立バレエ団の来日公演のために芸術監督のマニュエル・ルグリが、記者会見と公開リハーサルを行ったことは最新ニュース欄でもお伝えした。ルグリは2020年にはウィーン国立バレエ団の芸術監督を退くことを発表しているので、どうしてもその後のことに関心が集まる。もちろん具体的には明言しなかったが、退任後は4つの柱を中心として活動していくとして「ダンサーとして現役続行」「ディレクター」「振付」「教育」を挙げた。舞台に立つ自信はある、という。今回の来日公演でも「ヌレエフ・ガラ」が上演されたが、ルグリは伝説的ダンサー、ルドルフ・ヌレエフに常に敬意を払ってきた。そのヌレエフも1983年にパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督に就任したのちにも、しばしば舞台に立っていた。元エトワールのシャルル・ジュドなどとともに、「ヌレエフと仲間たち」といったグループ公演を各国で行っていた。日本公演も行われたので、私も観たが、映像などに残されている「黒豹」と言われた精悍な姿は既に失われていた。
マニュエル・ルグリもヌレエフがオペラ座の芸術監督を辞めた年齢とほぼ同じになった。しかしもちろん、ルグリの舞台姿には安定感があり身体壮健に見える。Dance Cubeでも写真を掲載すると「立っているだけでステキ」といった声が寄せられる。ウィーンの芸術監督の職務から解放されたら、舞台でも大いに活躍してほしい。ルグリが舞台に立つことが、多くの観客に幸せをもたらすばかりでなく、そのまま若いダンサーたちに範を示すことになり、生きた「教育」となるからだ。

新たなコンセプトで踊られダンサーたちがいっそう輝いた「Ballet Rose in Love Stories」

「Ballet Rose in Love Stories〜バラで綴るバレエの恋の物語」
伊藤範子:演出・振付 チャコット株式会社:主催・企画制作

2016、17年の「Ballet Princess 〜バレエの世界のお姫様たち〜」に続いて、今年は新たに制作された「Ballet Rose in Love Stories〜バラで綴るバレエの恋の物語」が上演された。
この「バレエ・ローズ・イン・ラヴストーリーズ」では、小野絢子/福岡雄大(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、佐々部佳代(松岡伶子バレエ団)/清水健太(ロスアンゼルス・バレエ団ゲストプリンシパル)、池田理沙子(新国立劇場バレエ団ソリスト)/井澤駿(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、永橋あゆみ/三木雄馬(谷桃子バレエ団プリンシパル)、織山万梨子(牧阿佐美バレヱ団)/キム・セジョン(東京シティ・バレエ団)という5組のペアによって、バラに因んだバレエのラヴストーリーを紡いでいくという舞台で、前回に続いて伊藤範子の演出・振付。『眠れる森の美女』第2幕の幻影のパ・ド・ドゥ〈出会い〉に始まり、『ロミオとジュリエット』のバルコニーのパ・ド・ドゥ〈熱愛〉、『白鳥の湖』第3幕の黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ〈誘惑〉、『ジゼル』第2幕のパ・ド・ドゥ〈別れ〉、『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ〈結婚〉と展開していく。

tokyo1805a_0026.jpg 織山万梨子/キム・セジョン tokyo1805a_0811.jpg 池田理沙子/井澤駿
tokyo1805a_0049.jpg 永橋あゆみ/三木雄馬 tokyo1805a_0083.jpg 佐々部佳代/清水健太
tokyo1805a_34-0858.jpg 「Ballet Rose in Love Stories〜バラで綴るバレエの恋の物語」小野絢子/福岡雄大
撮影:瀬戸秀美(すべて)
tokyo1805a_0228.jpg『ロミオとジュリエット』永橋あゆみ/三木雄馬

プロローグには1950年代パリの街角の場景が設定され、花売り娘に扮した中島耀が登場。中島の清新な若々しい踊りは、たちまち観客の心を幸せにしてしまう天から与えられた力があった。憂いを秘めたバンドネオンの音色が流れ、華やいだダンサンブルな気分が舞台に溢れる。5組のカップルが、これから踊るそれぞれのパ・ド・ドゥの恋のモティーフをバラとシャンソンで描いてみせる。衣裳も良く工夫された、なかなか洒落たオープニングだった。
そしてその映像を中幕に写して『眠れる森の美女』の〈出会い〉が始まる。このシーンにはローズピンクのバラが鮮やかにあしらわれている。織山はオーロラの気品を表す堂々とした踊りで、初めて組んだとも思えないようにキムとも息が合っていた。アンサンブルのフォーメーションも変化があり、ソリストの踊りを際立てた。
『ロミオとジュリエット』の〈熱愛〉を象徴するのは紅色のバラ。しばらくぶりの舞台となった永橋は愛する喜びを全身で表し、三木のロミオにすべてを投げかけるように踊った。このシーンは、バルコニーに立ちロミオとの初めての出会いの喜びを反芻するジュリエットと、彼女への憧憬を胸に秘めて見上げるロミオとの愛の交歓を描く。従来の描写はバルコニーの上と下の地上の高さの違いが、始まりと終わりに生かされ、ドラマティックに心理が表されている。しかしここでは二人に高さの違いはなく、お互いに同じ地平に立ち、手に持ったバラに二人の愛を象徴させて描いている。この舞台の愛のシーンは、すべて素の舞台にバラだけを持って踊り、背景には半ば抽象的な映像を写す、というスタイル。このシーンも良く雰囲気が出た演出だった。ただこの作品は、これまでにはいくつもの歴史的名シーンが物語の重要なポイントとして作られてきている。今後はさらに音楽の深部とも多くの対話を重ねて、こうしたオムニバス的演出をさらに発展させて、心理的にもドラマティックな物語を演出振付けてほしいと思った。
そして『白鳥の湖』〈誘惑〉は深紅のバラ。オディールはあまり踊ったことがないという池田だが、きっちりと細部まで曖昧な所がない、スタッカートな表現を作った。ジークフリートの井澤の安定感のあるサポートと踊りも見事だった。ここで休憩。

tokyo1805a_0089.jpg プロローグ「パリの街角」より 中島耀 tokyo1805a_0903.jpg 『眠れる森の美女』 織山万梨子/キム・セジョン
tokyo1805a_0318.jpg 『白鳥の湖』井澤駿 tokyo1805a_0329.jpg 『白鳥の湖』池田理沙子
tokyo1805a_0396.jpg 『ジゼル』佐々部佳代/清水健太

第2部は『ジゼル』の〈別れ〉は白いバラ。佐々部のジゼルはほんとうに軽やか。まさに軽さを表すことにより、逆に深く大きな存在感を表すことに成功していた。そして清水のアルブレヒトの落ち着いた踊りと素適な均衡が生まれ、良いパートナーシップが現れた。パートナーシップといえば、次のシーンでは小野、福岡の日本一のペアの堂々としたグラン・パ・ド・ドゥが踊られ、『ドン・キホーテ』にはなくてはならない赤いバラで〈結婚〉を祝祭した。第1ヴァリエーションの塩谷綾菜(スターダンサーズ・バレエ団)、第2の松本佳織(東京シティ・バレエ団)、ブライズメイドもまた豪華にセレブレーションを盛り上げ、愛し合うことの美しく爽やかな印象を一段と際立てた。こうして色とりどりに描かれてきた愛の舞台はフィナーレを迎え、ヨハン・シュトラウスII世の「南国のバラ」にのせて全員が次々と踊り、「バラで綴るバレエの恋の物語」は終幕し、会場は万雷の拍手とスタンディング・オベーションで沸き返った。
(2018年3月26日 新宿文化センター 大ホール)

tokyo1805a_1409.jpg 『ドン・キホーテ』小野絢子 tokyo1805a_1446.jpg 『ドン・キホーテ』福岡雄大
tokyo1805a_0558.jpg 『ドン・キホーテ』塩谷綾菜 tokyo1805a_1428.jpg 『ドン・キホーテ』松本佳織
tokyo1805a_1525t.jpg 「Ballet Rose in Love Stories〜バラで綴るバレエの恋の物語」撮影:瀬戸秀美(すべて)