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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2018.04.10]

原作のバイロンの物語詩に立ち返り、時代背景を加味した久保版『海賊』、NBAバレエ団

NBAバレエ団
『海賊』久保綋一:演出・振付

NBAバレエ団が芸術監督の久保綋一の演出・振付による『海賊』全幕を世界初演した。作曲は新垣隆、指揮・音楽監修は冨田実里、振付助手は宝満直也、剣術指導に新美智士というスタッフ。ゲストダンサーは新国立劇場バレエ団プリンシパル、奥村康祐でアリを踊った。コンラッドは宮内浩之、メドーラは峰岸千晶、ギュルナーレは佐藤圭、ビルバンドは大森康正というキャストだった。全幕を新しい物語と振付、音楽、衣裳で新たに創作し初演したことは、チャレンジングな試みで大いに賞賛したい。

tokyo1804d_0001.jpg NBAバレエ団『海賊』撮影/吉川幸次郎(すべて)

従来の『海賊』が男性の冒険的なロマンを描いているのに対して、久保版は主人公のコンラッドは海賊ではあるが、オスマン帝国からの独立を目指す指導者として描く。奴隷として売り買いされる立場であったメドーラとギュルナーレは、コンラッドを愛する女性として対立し、異なった愛を生きる女性である。アリはコンラッドの忠実な部下だが、仄かな想いをメドーラに寄せているという従来版と同じ立ち場だが、ザイードは金満デブではなく、自らも積極的に戦う武将のパシャ(太守)。ビルバンドは理想を持たない海賊で、コンラッドに憎しみを感じて裏切る、といったキャラクター構成により物語が展開している。従来のバレエ『海賊』から、原作のバイロンの物語詩に立ち戻り、さらに時代的背景を加味している。その点、なかなか興味深い試みである。特にコンラッドをオスマン帝国に支配されていたギリシャの独立運動の指導者に設定したことは、コンラッドに具体的な理想を与え、部下のアリやギュルナーレさらにはビルバンドとの関係にリアリティを確保させている。
ただ、表現の面では全体にやや弱い面も見られた。男性ダンサーはみんながんばって踊ったが、少し力み過ぎていて、脱力がないためにやや一本調子に感じられてしまったのは残念だ。ギュルナーレとメドーラの確執もギュルナーレの一方的な思い込みのようにも見えてしまう。同時に『ラ・バヤデール』のニキヤとガムザッティの対立を連想する。指揮者もタクトに力入っているように見えた。もちろん、それだけ新しい全幕バレエを創造することは難しいことであり困難が伴い、大きなプレッシャーもかかってくる、ということである。これだけの構成をこしらえたのだから、今後、再演を重ねて表現に磨きをかけていけば、一段とおもしろいバレエに発展していく可能性大である。
ラストシーンは原作のイメージを活かして、パシャのザイードを刺し、命果てたギュルナーレの墓にコンラッドとメドーラが花を手向けるシーンだった。前方には大海原が広がっていて、余情の漂うエンディングであった。
(2018年3月17日 東京文化会館大ホール)

tokyo1804d_0005.jpg 峰岸千晶、奥村康祐 tokyo1804d_0008.jpg峰岸千晶、宮内浩之
tokyo1804d_0009.jpg 峰岸千晶、宮内浩之、奥村康祐 撮影/吉川幸次郎 tokyo1804d_0017.jpg 宮内浩之、宝満直也 撮影/吉川幸次郎
tokyo1804d_0013.jpg NBAバレエ団『海賊』撮影/吉川幸次郎(すべて)