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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2018.02.13]

ウクライナらしさを感じさせる多彩なプログラムを上演、キエフ・バレエ「150周年バレエ・ガラ」

キエフ・バレエ「150周年バレエ・ガラ」
『フィガロの結婚』よりV.ヤレメンコ:振付、『森の詩』よりV.ポロンスキー:振付、『ポロヴェッツ人の踊り』A.レフレアシヴィリ:振付ほか

ウクライナのキエフ・バレエが年末から年始にかけて日本公演を行った。今回は、本拠地のウクライナ国立歌劇場が2017年11月8日に創立150周年を迎えたのを記念する来日公演フェスティバルとして、キエフ・バレエのほかキエフ・オペラとウクライナ国立歌劇場管弦楽団も来日し、それぞれが相前後して公演を行った。
キエフ・バレエは、古典の全幕ものや〈新春特別バレエ〉といった定番のプログラムに加え、〈150周年バレエ・ガラ〉と銘打った特別公演を催した。日本初演となる作品や上演機会の少ない演目を織り交ぜた多彩なプログラム、しかもウクライナ色を濃厚に打ち出した公演である。古典全幕ものも上演されたが、ここでは一回限りのガラ公演について報告したい。なお、ゲスト・ソリストのレオニード・サラファーノフとアナスタシア・マトヴィエンコは出演せず、バレエ団のダンサーだけで行われたことも記しておきたい。

tokyo1802b_0023.jpg 「リレーヤ」アンナ・ムロムツェワ
撮影/瀬戸秀美(すべて)

第1部は歌劇場管弦楽団によるルイセンコ作曲のオペラ『タラス・ブーリバ』序曲で始まった。勇壮なコサックを思わせる力のこもった演奏だった。
次の『リレーヤ』は、劇場に名を冠されているショフチェンコの物語詩に基づき、コフトゥンがダンケヴィッチの音楽を用いて振付けた2003年の作品。今回は、第1幕より夢の中で村娘レリーヤが妖精に導かれるようにして恋人ステファンと再会するシーンが日本初演された。レリーヤのエレーナ・フィリピエワはたおやかな村娘で存在感を示し、ステファンのデニス・ニェダクはしなやかに跳び、妖精のアンナ・ムロムツェワは端正な回転技をみせた。次はシェケロ振付の『スパルタクス』で、為政者に立ち向かおうとするスパルタクスが奴隷仲間を集めながらアッピア街道を進む場面が上演された。スパルタクスのドミトロ・チェボタルが気迫のこもった跳躍を繰り返し、男性群舞も勇猛に呼応したが、小さな乱れもみえた。

tokyo1802b_0031.jpg 「リレーヤ」エレーナ・フィリピエワ tokyo1802b_0041.jpg 「リレーヤ」エレーナ・フィリピエワ
tokyo1802b_0073.jpg 「リレーヤ」撮影/瀬戸秀美
tokyo1802b_0122.jpg 「フィガロの結婚」オレシア・シャイターノワ

ヤレメンコが2003年にモーツァルトのオペラをバレエ化した『フィガロの結婚』からは、フィガロとスザンナの結婚式当日のシーンが日本初演された。婚礼衣装で着飾ったフィガロのニキータ・スハルコフと花婿よりシンプルな衣裳のスザンナのオレシア・シャイターノワによるパ・ド・ドゥは軽やかでキュートだった。傑作だったのはマルチェリーナの演技。借金の形にフィガロとの結婚を目論んだものの、彼が実の息子と分かって祝福する母親の役である。派手な衣裳で登場し、大胆に脚を振り上げ、でんぐり返しもやってのけ、猛女振りを発揮したのはヴィタリー・ネトルネンコ。最後に挨拶でカツラを取ってみせたので、男が演じていたと分かった次第。ケルビーノのマラト・ラギモフは軍服姿で仲間の兵士たちと縄跳びしながら現われ、爽快に飛び回った。繋いで長くした縄が大きく回される中で、ケルビーノと仲間たちが一緒に飛ぶ一コマもあった。様々に楽しめる工夫が凝らされており、ヤレメンコの洒脱なセンスが光る作品だった。
『瀕死の白鳥』で再登場したフィリピエワは、波打つような腕の動きを際立たせたが、思ったより淡々とした演技だった。第1部の締めはウクライナの民族舞踊『ゴパック』。まず男性4人がそれぞれアクロバティックな大技を豪快に披露し、後半では男女の群舞が民族色豊かな踊りを繰り広げた。

tokyo1802b_0138.jpg 「フィガロの結婚」ヴィタリー・ネトルネンコ tokyo1802b_0167.jpg 「フィガロの結婚」
tokyo1802b_0296.jpg 「森の詩」
カテリーナ・ガザチェンコ、ヤン・ヴァーニャ

第2部の幕開けはボロンスキー振付『森の詩』(1946年初演)。1972年の初来日で取り上げた作品で、今回は約40年振りの上演になるという。森の妖精マフカは青年ルカーシュと愛し合うが、彼がキリナに心を移したため森に戻る。ルカーシュはキリナとの結婚式でマフカの面影を見て森に行く。すべてを失ったルカーシュは雪の精に囲まれてマフカの幻と踊り、やがて倒れ込む。今回はこの終盤の幻想的なシーンのみが上演された。マフカのカテリーナ・カザチェンコとルカーシュのヤン・ヴァーニャは共に長身で舞台映えがする。カザチェンコの透明感をたたえた演技や安定したフェッテ、ヴァーニャの小気味よい跳躍やピルエットが冴えた。様々にフォメーションを変えながらステージを飛び回る雪の精の群舞が美しく、澄んだ森の冷気を感じさせた。
舞台は一転、『ラ・フィーユ・マルガルデ』(振付:ヴィノグラードフ)より「木靴の踊り」。リーズの母のマルチェリーナが農夫らにおだてられて木靴の踊りを披露するコミカルな場面だが、振付のせいなのか、女装したルスラン・アヴラメンコは威勢の良い農夫たちに押され気味。もっと弾けても良かった。

tokyo1802b_0298.jpg 「森の詩」 tokyo1802b_0331.jpg 「森の詩」

『白鳥の湖』からはオデットとジークフリード王子が出会う湖畔の場面。オデットのムロムツェワと王子のニェダクをはじめ、白鳥の群舞も卒のない演技だった。シェケロ版『ロミオとジュリエット』(1971年初演)からのバルコニーの場面では、ロミオのゲンナジー・ペトロフスキーとジュリエットのマルガリータ・アリアナフのみずみずしい演技が匂い立った。ペトロフスキーはジャンプも含めて的確な足さばきをみせ、アリアナフはしなやかな身のこなしで初々しさを印象づけた。恋人たちの高揚する心は繰り返されるリフトでも表わされ、爽やかに恋の炎を燃え上がらせた。

tokyo1802b_0500.jpg 「ポロヴェッツ人の踊り」

最後は『ポロヴェッツ人の踊り』で、このガラ公演のために現芸術監督のアニコ・レフヴィアシヴィリが新たに振付けたもの。ボロディンの歌劇『イーゴリ公』より、ポロヴェッツの首領が、捕らえられた勇敢な敵のイーゴリ公のために催した酒宴のバレエ・シーンである。チャガのフィリピエワは囚われの身を悲しむような憂いを滲ませた演技で印象づけ、ペルシャの踊りのカザチェンコはしなやかな長身をいかしたダイナミックなジャンプで目を引き、クメンのスハルコフやスルチャンのネトルネンコはパワフルで強靱なジャンプで宴を盛り上げた。兵士たちの勇ましい群舞に娘たちの群舞が彩りを添えるといった具合で、ガラ公演を締めくくるにふさわしい舞台だった。
それにしても、普段はなかなか見られない作品に触れることができたのは収穫で、レパートリーの多彩さを改めて実感させられもした。キエフ・バレエ団が多くの個性的で魅力的なダンサーを擁しており、若手も育っているようで、まことに頼もしい。ただ、群舞のダンサーにはスタイルやテクニックに多少バラツキがあるようで、それが今後の課題に思えた。
(2017年12月26日 東京文化会館)

tokyo1802b_0508.jpg 「ポロヴェッツ人の踊り」カテリーナ・ガザチェンコ tokyo1802b_0521.jpg 「ポロヴェッツ人の踊り」
エレーナ・フィリピエワ、ニキータ・スハルコフ