ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.11.10]
Kバレエ カンパニーが熊川哲也振付の『クレオパトラ』全幕を創作し世界初演した。今年、日本のバレエ団が新たに題材により創作したバレエ作品は、谷桃子バレエ団の『狩月記』と新国立劇場バレエ団の『ベートーヴェン・ソナタ』くらいだろうか。他に牧阿佐美バレヱ団が、橘秋子が創った『飛鳥物語』を改訂した『飛鳥 ASUKA』の再演を富山で行った。また、松山バレエ団では清水哲太郎が改訂を加えた新『白毛女』を再演した。古典バレエとして上演してきた作品の振付を改訂して上演するのではなく、まったく新しい題材と音楽により、新作バレエを創作するということは、大きな予算と非常な労力と経験と技量が必要とされる。そのためなかなか実現することができない。実現できたとしても、その作品を再演し、定着していくことはさらに困難だろう。
先日のある大新聞の記事によると、新国立劇場の舞踊部門は有料入場率が、他部門を抑えてトップだという。それは所属の多くのダンサーが力をつけ、バレエファンの動員に結び付いているからだと思われる。そうした現実については、「民業圧迫」、などと言う声も紹介されていたが、それはまた別の問題だろう。もちろん、観客動員は多いほうがいい。とはいえ、新国立劇場はバレエによって経済活動をしているわけではないはずだ。
日本の国立のバレエ団としては、どのようなバレエを創り、どのような舞台活動を展開していくのか、その基本となるしっかりとした芸術観にもとづいた展望を持っているか、それが問われるはずである。決して経済的効率の良さによって評価がくだされるわけではない。しかし、芸術観が乏しければ、展望を拓くことができなければ、結局、経済的な指標によってしか存在感を示すことができなくなり、悲しいかな寂しいかな、話題はそれに終始していくこととなる。

古代エジプトとローマを巡り、絶世の美女クレオパトラの悲劇を描く、熊川哲也による最新作『クレオパトラ』

K BALLET COMPANY K バレエ カンパニー
『クレオパトラ』熊川哲也:演出・振付・台本

熊川哲也が演出・振付けた『クレオパトラ』全2幕が世界初演された。題材としてクレオパトラを扱ったバレエは、フォーキンの『エジプトの夜』が思い浮かぶ。1908年にサンクトペテルブルクで初演され、翌年には『クレオパトラ』と改題され、音楽や演出も改訂されてパリのシャトレ座で上演された。これはクレオパトラと奴隷の恋を描いた1幕物。
クラシック・バレエの全幕物を中心に活動しているK バレエ カンパニーの芸術監督である熊川は、クレオパトラを題材とした全幕バレエを創作する構想を直感的に得たという。それは当然、中村祥子と浅川紫織という優れたダンサーが、実力・人気とも絶頂を迎えつつあることなどが心中にあったからだろう。そしてその構想が決定的となったのは、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したデンマークの作曲家、カール・ニールセンの音楽と出会ってからだ。新しい題材によるバレエを創作する場合、音楽との出会いが決定的となる。ダンスは音楽と命を共有するからである。

tokyo1711a_0D00620.jpg 撮影:小川峻毅

バレエ『クレオパトラ』は、古代エジプトの類稀な美貌の女王の物語を追っていく。弟王との相克、エジプトとローマをめぐる権力闘争に関わり合う恋愛遍歴が、比較的シンプルな構図でドラマティックに描かれる。ニールセンの音楽の哀調と独特のリズムが、古代の美女の苦悩と喜びと悲しみを観客の心に映す。
エジプトとローマという二つの文明の世界が、美術、振付などによって描き分けられる。そしてその二つの世界を結びつけ、また戦わせるのは、クレオパトラという「美」であり、「美」であるがゆえに二つの世界の融和を願う自身が破滅していく、というアンビバレンスな悲劇が姿を現してくる。熊川の演出はポピュラーな題材によって、スピリチアルなテーマに迫っている。古典的な舞踊構成ではなく、直裁に人物の内面を表す動きを使って、ドラマを表出しいく描き方で、キャラクター・ダンスの動きなども巧みに組み込んでいるようにも見えた。
クレオパトラを演じ踊った中村祥子は、長身を生かして全身を使った見事な表現を見せ、古代と現在を行き来するかのような存在感を見せた。とりわけ、宮尾俊太郎のアントニウスとの再会のパ・ド・ドゥは素晴らしく、もう少し見ていたいと思った。宮尾も宿命的な悲恋を踊っているような表現が見え感心した。また、夫に一方的に去られてしまったオクタヴィアを踊った矢内千夏の表現力も目を惹いた。もちろん、カエサルを堂々と演じたスチャート・キャシディも優れた演技だった。男性ダンサーを振付けることが巧みな熊川の勇壮な群舞の展開も期待したが、それよりも彫像的な身体による表現の印象が強く残っている。
近年のK バレエ カンパニーは、『海賊』『ラ・バヤデール』などのスペクタキュラーな舞台が際立っているように感じられる。それはもちろん、素晴らしい舞台が作られているのだが、私個人としては次回は、世話物風というか、情感の表現に主眼を置いたバレエも見たいなどと感じている。これもまた、齢を重ねたゆえだろうか。
(2017年10月20日 東京文化会館)

tokyo1711a_0D00044.jpg 』撮影:小川峻毅 tokyo1711a_1326.jpg 撮影:瀬戸秀美
tokyo1711a_1518.jpg 撮影:瀬戸秀美