ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.10.10]
20世紀後半を代表するバレリーナと言えば、シルヴィ・ギエムとニーナ・アナニアシヴィリではないか、と私は思う。この二人のバレリーナは、圧倒的なスピードや超絶的な柔軟性といったアスリートの身体性をバレエ表現の中に見事に活かして、刮目すべき舞台を作った。そして同時代の観客の心をしっかりと捉えた。しかしこの二人は、言うまでもなくパリ・オペラ座バレエ学校とボリショイ・バレエ・アカデミーでバレエ教育を受ける、という王道を歩んだバレエダンサーである。ところが近年は、この王道の真ん中のバレエ教育の部分が少し変わってきている。デヴィッド・ホールバーグが、アメリカ人として初めてボリショイ・バレエ団のプリンシパル・ダンサーになった時も大いに話題となったが、現在は、マリインスキー・バレエには韓国で教育を受けたキミン・キムと英国ロイヤル・バレエで学んだザンダー・パリッシュがいる。そしてパリ・オペラ座にもアルゼンチンでバレエ教育を受けたリュドミラ・パリエロがエトワールとして活躍している。ぞれぞれ研修期間などを設けてバレエ・スタイルの調整は行っているとはいえ、ギエムとアナニアシヴィリが活躍してきた時代とは大いに様相が異なってきている。そうした21世紀のクラシック・バレエのダンサーの変貌について、フランスの舞踊・音楽評論家ジャクリーヌ・チュイユーに執筆していただいた。ご興味のある方はご一読いただきたい。
http://www.chacott-jp.com/magazine/news/other-news/post-207.html

吉田都と堀内元がバレエの尊い美しさを伝達していく、Ballet for the Future 2017

吉田都×堀内元 Ballet for the Future 2017
『Haydn Cello Concerto』堀内元:振付、『And My Beloved』エメリー・ルクローン:振付、『タランテラ』ジョージ・バランシン:振付、『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より〜 マリウス・プティパ:振付、『Passage』堀内元:振付

吉田都と堀内元、と言う世界に誇る日本人ダンサーを中心にして、古典からコンテンンポラリーまでバレエ芸術の美を伝達していく「Ballet for the Future」も今年で3回目を迎え、次第に評価を高めている。今回は、大阪、東京、札幌で公演が行われ、どこも盛況だった。そして公演パンフレットにも工夫が凝らされていて、直木賞・本屋大賞W受賞の作家でバレエを題材にした小説を構想中の恩田陸を迎え、吉田都、堀内元がそれぞれ、バレエについて語り合う、読み応えたっぷりの対談が掲載されていた。

幕開けは『Haydn Cello Concert』。堀内元がフランツ・ヨーゼフ・ハイドンのチェロ協奏曲ハ長調に、2016年、自身が芸術監督を務めるセントルイス・バレエに振付けた曲。4組の男女のペアと3人または4人の女性ダンサーが踊る。白を基調としたクラシカルな衣装を着け、清潔感のあるなめらかの動きを構成したダンスだった。
全体に動きの速さには大きな変化をつけず、流れるように優雅な心地良いシーンが連ねられていく。フォーメーションはペアと組み合わせたり、ペアを崩したり、変化に富んでいて飽きさせない。観客の心を包み込むような優しさのある堀内元らしい振付だった。寺田亜沙子(新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト)他が踊った。

tokyo1710a_01.jpg 『Haydn Cello Concert』
撮影:瀬戸秀美(すべて)

続いて上演されたのは、オレゴン・バレエ・シアター、ノースカロライナ・ダンス・シアター、コロラド・バレエなどに作品を提供しているニューヨークの振付家、エメリー・ルクローンの『And My Beloved』。やはり、2016年にセントルイス・バレエに振付けられた作品だ。『アメリア』などで、ラ・ラ・ラ・ヒューマンステップスの音楽も担当したデイヴィッド・ラングが、旧約聖書の「雅歌」にインスピレーションを受けて作詞作曲した「Just(After Song of Songs)」に振付けられている。曲はいくつかのフレーズが流麗なメロディの中で繰り返されていくもの。高窓から光が差し込んでいるような照明の中、森ティファニー(セントルイス・バレエ団)、上村崇人など3組の男女のペアが踊った。女性ダンサーはシースルーのロングパンツを着け、柔らかく身体にまとわりつくような衣装。モダンダンスの動きの美しさも巧みに採り入れたバレエだった。女性の身体の柔らかく優美な魅力が強調されて、曲想とも融合してフェエミニンなラインが舞台に流れた。爽やかな印象を残す瀟洒なダンスだった。

tokyo1710a_02.jpg 『And My Beloved』 tokyo1710a_03.jpg 『And My Beloved』森ティファニー、上村崇人
  tokyo1710a_05.jpg 『タランテラ』   tokyo1710a_06.jpg 『タランテラ』
tokyo1710a_04.jpg 『タランテラ』塩谷綾菜、末原雅広

『タランテラ』は言うまでもなく、ルイス・モロー・ゴットシャルクの曲によるバランシンの傑作バレエだ。ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルだった堀内元の得意演目で、今までに59回踊ったと自身で語った。この曲を塩谷綾菜(9月よりスターダンサーズ・バレエ団に入団)と末原雅広(スクール・オブ・アメリカン・バレエ出身)に直伝した舞台。しっかりと音楽に乗って踊り、あふれでるような踊るよろこびが現れた。
『タランテラ』の舞踊のルーツについての解説はhttp://www.chacott-jp.com/magazine/dance-library/character/1401chara-ja.html を参照。

『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より〜、はもう圧巻だった。吉田都のゆるぎない古典バレエへの信念が舞台の基本となって、福岡雄大(新国立劇場バレエ団プリンシパル)の明快な動きが躍動感のある流れを作り、バレエの黄金時代を築いたプティパ作品の精髄を明快にみせた。グラズノフの軽快で美しい音楽に乗せて、『ライモンダ』の力強いステップと、吉田と福岡が舞台に刻んだリズムが、しばらくは脳裡を駆け巡って離れないだろう。めくるめく酔いにも似た忘れがたい気分に陥った。

tokyo1710a_07.jpg 吉田都、福岡雄大
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tokyo1710a_09.jpg 吉田都 tokyo1710a_10.jpg 吉田都、福岡雄大
『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より〜

休憩を挟んでイタリアのポップス、映画音楽、ダンス音楽など多くの分野で活躍している、ルドヴィコ・エイナウディの音楽に堀内元が振付けた『Passage』が踊られた。米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)と堀内元、寺田亜沙子と岡田兼宜(元米国ダズル・ダンスカンパニー)が、赤と黒を基調色としたそれぞれのグループと様々に交錯していく。軽快で色彩感覚豊かなミニマルミュージック風の音楽とともに、日常的な情景の中、出会いと感情の交流が次々と現れて変幻していく。そしてそこに、一つの道かが見えてくるだろう、と作者は語っているようだった。
(2017年8月28日 新宿文化センター)

tokyo1710a_11.jpg 『Passage』米沢唯(右) tokyo1710a_12.jpg 『Passage』
tokyo1710a_13.jpg 『Passage』寺田亜沙子、岡田兼宜 tokyo1710a_15.jpg 『Passage』米沢唯、堀内元
tokyo1710a_14.jpg 『Passage』堀内元(中央)
撮影:瀬戸秀美(すべて)