吉田都と堀内元がバレエの尊い美しさを伝達していく、Ballet for the Future 2017
- ワールドレポート
- 東京
掲載
吉田都×堀内元 Ballet for the Future 2017
『Haydn Cello Concerto』堀内元:振付、『And My Beloved』エメリー・ルクローン:振付、『タランテラ』ジョージ・バランシン:振付、『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より〜 マリウス・プティパ:振付、『Passage』堀内元:振付
吉田都と堀内元、と言う世界に誇る日本人ダンサーを中心にして、古典からコンテンンポラリーまでバレエ芸術の美を伝達していく「Ballet for the Future」も今年で3回目を迎え、次第に評価を高めている。今回は、大阪、東京、札幌で公演が行われ、どこも盛況だった。そして公演パンフレットにも工夫が凝らされていて、直木賞・本屋大賞W受賞の作家でバレエを題材にした小説を構想中の恩田陸を迎え、吉田都、堀内元がそれぞれ、バレエについて語り合う、読み応えたっぷりの対談が掲載されていた。
幕開けは『Haydn Cello Concert』。堀内元がフランツ・ヨーゼフ・ハイドンのチェロ協奏曲ハ長調に、2016年、自身が芸術監督を務めるセントルイス・バレエに振付けた曲。4組の男女のペアと3人または4人の女性ダンサーが踊る。白を基調としたクラシカルな衣装を着け、清潔感のあるなめらかの動きを構成したダンスだった。
全体に動きの速さには大きな変化をつけず、流れるように優雅な心地良いシーンが連ねられていく。フォーメーションはペアと組み合わせたり、ペアを崩したり、変化に富んでいて飽きさせない。観客の心を包み込むような優しさのある堀内元らしい振付だった。寺田亜沙子(新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト)他が踊った。
t『Haydn Cello Concert』 撮影:瀬戸秀美
続いて上演されたのは、オレゴン・バレエ・シアター、ノースカロライナ・ダンス・シアター、コロラド・バレエなどに作品を提供しているニューヨークの振付家、エメリー・ルクローンの『And My Beloved』。やはり、2016年にセントルイス・バレエに振付けられた作品だ。『アメリア』などで、ラ・ラ・ラ・ヒューマンステップスの音楽も担当したデイヴィッド・ラングが、旧約聖書の「雅歌」にインスピレーションを受けて作詞作曲した「Just(After Song of Songs)」に振付けられている。曲はいくつかのフレーズが流麗なメロディの中で繰り返されていくもの。高窓から光が差し込んでいるような照明の中、森ティファニー(セントルイス・バレエ団)、上村崇人など3組の男女のペアが踊った。女性ダンサーはシースルーのロングパンツを着け、柔らかく身体にまとわりつくような衣装。モダンダンスの動きの美しさも巧みに採り入れたバレエだった。女性の身体の柔らかく優美な魅力が強調されて、曲想とも融合してフェエミニンなラインが舞台に流れた。爽やかな印象を残す瀟洒なダンスだった。
『And My Beloved』撮影:瀬戸秀美
『And My Beloved』森ティファニー、上村崇人
撮影:瀬戸秀美
『タランテラ』撮影:瀬戸秀美
『タランテラ』撮影:瀬戸秀美
『タランテラ』は言うまでもなく、ルイス・モロー・ゴットシャルクの曲によるバランシンの傑作バレエだ。ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルだった堀内元の得意演目で、今までに59回踊ったと自身で語った。この曲を塩谷綾菜(9月よりスターダンサーズ・バレエ団に入団)と末原雅広(スクール・オブ・アメリカン・バレエ出身)に直伝した舞台。しっかりと音楽に乗って踊り、あふれでるような踊るよろこびが現れた。 『タランテラ』の舞踊のルーツについての解説はhttp://www.chacott-jp.com/magazine/dance-library/character/1401chara-ja.html を参照。
『タランテラ』塩谷綾菜、末原雅広
撮影:瀬戸秀美
『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より〜、はもう圧巻だった。吉田都のゆるぎない古典バレエへの信念が舞台の基本となって、福岡雄大(新国立劇場バレエ団プリンシパル)の明快な動きが躍動感のある流れを作り、バレエの黄金時代を築いたプティパ作品の精髄を明快にみせた。グラズノフの軽快で美しい音楽に乗せて、『ライモンダ』の力強いステップと、吉田と福岡が舞台に刻んだリズムが、しばらくは脳裡を駆け巡って離れないだろう。めくるめく酔いにも似た忘れがたい気分に陥った。
『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より〜 吉田都、福岡雄大 撮影:瀬戸秀美
『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より〜 撮影:瀬戸秀美
吉田都 『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より
撮影:瀬戸秀美
吉田都、福岡雄大 『ライモンダ』〜第3幕(結婚の祝典)より
撮影:瀬戸秀美
休憩を挟んでイタリアのポップス、映画音楽、ダンス音楽など多くの分野で活躍している、ルドヴィコ・エイナウディの音楽に堀内元が振付けた『Passage』が踊られた。米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)と堀内元、寺田亜沙子と岡田兼宜(元米国ダズル・ダンスカンパニー)が、赤と黒を基調色としたそれぞれのグループと様々に交錯していく。軽快で色彩感覚豊かなミニマルミュージック風の音楽とともに、日常的な情景の中、出会いと感情の交流が次々と現れて変幻していく。そしてそこに、一つの道かが見えてくるだろう、と作者は語っているようだった。
(2017年8月28日 新宿文化センター)
『Passage』米沢唯(右)
『Passage』
『Passage』寺田亜沙子、岡田兼宜
『Passage』米沢唯、堀内元
『Passage』堀内元(中央) 撮影:瀬戸秀美(すべて)
ワールドレポート/東京
- [ライター]
- 関口 紘一