終わってしまうのが惜しかった、パリ・オペラ座バレエと英国ロイヤル・バレエの夢の共演<バレエ・スプリーム>

〈Ballet Supreme〉

The dancers from the Paris Opera Ballet & the Royal Ballet
パリ・オペラ座バレエ団 & 英国ロイヤル・バレエ団〈バレエ・スプリーム〉
Program B: The Sleeping Beauty Divertissement/ Choreography: Marius Petipa
Bプログラム:『眠れる森の美女』ディヴェルティスマン/マリウス・プティパ:振付 ほか

世界に冠たるバレエ団、パリ・オペラ座バレエ団と英国ロイヤル・バレエ団の精鋭たちが共演する夢の企画〈バレエ・スプリーム〉が実現した。パリ・オペラ座バレエ団には世界最古のバレエ団という歴史と伝統があり、英国ロイヤル・バレエ団は"演劇の国"イギリスならではの個性と伝統を誇りにしている。異なるスタイルを持つバレエ団の選り抜きのダンサーたちがそれぞれ得意の演目を上演するだけでなく、両団によるコラボレーションも試みるという。真に興味をそそられる企画である。パリ・オペラ座バレエ団チームは芸術監督のオレリー・デュポンがダンサーと演目を決め、英国ロイヤル・バレエ団チームは、自身も出演するプリンシパルのスティーヴン・マックレーがリーダーとして演目とダンサーを決めた。全体のスーパーバイザーはデュポンが務めた。選ばれたダンサーをみてみると、目立つのは、両チームとも今後が期待される若手である。プログラムはAとBの2種。このうちBプロの初日を観た。

『グラン・パ・クラシック』 Photo:Kiyonori Hasegawa

『グラン・パ・クラシック』
Photo:Kiyonori Hasegawa

『ロミオとジュリエット』 Photo:Kiyonori Hasegawa

『ロミオとジュリエット』
Photo:Kiyonori Hasegawa

第1部はオペラ座チーム。幕開けを飾ったのは、昨年ブノワ賞を受賞して脚光を浴びたプルミエール・ダンスーズのオニール八菜と、3月のオペラ座バレエ団の東京公演でエトワールに任命されたばかりのユーゴ・マルシャンのフレッシュ・コンビ。演目は『グラン・パ・クラシック』(グゾフスキー振付)だった。この正統派の古典作品で、八菜は安定感良くバランスやフェッテをこなし、マルシャンはしなやかなジャンプや細かい足さばきをみせた。『ロミオとジュリエット』(ヌレエフ振付)の"バルコニーのパ・ド・ドゥ"を踊ったのは、レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェ。共に昨年末にエトワールに任命されたばかりのペアである。ルーヴェは恋する青年の雰囲気を、ボラックも夢見心地の雰囲気を漂わせて登場。細かい動きが詰め込まれたヌレエフの振りを卒なくこなしていたが、情熱的で若さあふれるデュエットにしては、少し地味に感じられた。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』(バランシン振付)を典雅に踊ったのは、エトワールとして中堅のミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマン。ウルド=ブラームは一つ一つのステップを端正に優雅にこなし、エイマンは目を奪うような鮮やかな跳躍や回転技を披露し、これぞオペラ座というべき洗練されたパフォーマンスで楽しませた。ただ、ユーモラスな現代作品『レ・ブルジョワ』を踊る予定だったフランソワ・アリュが背中をいためて参加を見送ったため、プログラムは結果として古典中心に偏ってしまった。

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』 Photo:Kiyonori Hasegawa

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
Photo:Kiyonori Hasegawa

『真夏の夜の夢』 Photo:Kiyonori Hasegawa

『真夏の夜の夢』
Photo:Kiyonori Hasegawa

『ドン・キホーテ』Photo:Kiyonori Hasegawa

『ドン・キホーテ』
Photo:Kiyonori Hasegawa

第2部はロイヤル・チーム。トップバッターは、昨年プリンシパルに昇進したばかりの高田茜と2017/18シーズンにソリスト昇進が決まっているベンジャミン・エラ。演目はロイヤルゆかりの『真夏の夜の夢』(アシュトン振付)から妖精の王と女王のパ・ド・ドゥ。高田は華奢な体型のようだが、たおやかな表現と的確な身のこなし。エラも卒のない演技だったが、妖精の王としては少々物足りなさを感じた。それにしても短いパ・ド・ドゥだった。『タランテラ』(バランシン振付)を踊ったのは、昨年プリンシパルに昇進したフランチェスカ・ヘイワードと、17/18シーズンにファースト・ソリストに昇進するマルセリーノ・サンベ。ヘイワードは柔らかな笑顔で切れの良い軽快な足さばきをみせ、サンベもバネの利いた跳躍をみせ、二人そろって若いエネルギーを発散させた。ケガで不参加になったサラ・ラムに代わり出演したソリストの金子扶生は、ベテランのフェデリコ・ボネッリと組んで『白鳥の湖』よりオデットと王子の出会いのパ・ド・ドゥ(イワーノフ振付)を踊った。

金子は終始、丁寧な身のこなしだったが、はかなげというよりは存在感のあるオデットを印象づけた。ボネッリは見るからにノーブルな王子で、親切かつ紳士的なパートナリングが光った。『ドン・キホーテ』(プティパ振付)のパ・ド・ドゥで超絶技巧を連発したのは、ゲスト・アーティストのヤーナ・サレンコとスティーヴン・マックレー。サレンコはしなやかに脚を振り上げ、気持ちよくバランスを保ち、トリプルを入れたフェッテや優雅で大胆な跳躍をみせた。マックレーも高速のシェネや鮮やかな開脚ジャンプ、強靱なピルエットで圧倒した。身体のコントロールが巧みで、例えばマネージュでは、飛び出す角度や、空中での背を反らせ方や脚のラインがコピーしたように寸分違わず繰り返されるのに息をのんだ。どのような大技も、この上なくエレガントにこなしていたのもさすがだった。最後は盛り上がったものの、ラムの不参加によりマクミランの『コンチェルト』がなくなったため、ロイヤルならではの特色が薄れてしまったのは仕方ないのだろう。

『白鳥の湖』Photo:Kiyonori Hasegawa

『白鳥の湖』Photo:Kiyonori Hasegawa

『タランテラ』Photo:Kiyonori Hasegawa

『タランテラ』Photo:Kiyonori Hasegawa

第3部は合同チームによる『眠れる森の美女』(プティパ振付)ディヴェルティスマン。幾組ものオーロラ姫とデジレ王子が顔見世のように登場した後、オペラ座のオニール八菜がリラの精のソロを踊った。"ローズ・アダージオ"のオーロラはロイヤルの高田が務めたが、マックレー、エラ、ルーヴェ、マルシャンという両チーム混成の贅沢なキャスティングの求婚者たちに緊張したのか、硬さがとれず今一つだった。ルーヴェがバラの花を落としてしまう一幕もあった。オーロラのヴァリエーションはオペラ座のウルド=ブラームが愛らしく表情豊かに踊った。森のシーンの王子のソロはロイヤルのボネッリが端正に踊り、オーロラと王子のパ・ド・ドゥはオペラ座のウルド=ブラームとルーヴェが引き継いだ。結婚式では、青い鳥とフロリナ王女のパ・ド・ドゥをロイヤルのヘイワードとサンベが爽快に踊ったが、コーダでオペラ座のマルシャンが青い鳥で加わり、ヘイワードを真ん中に3人で仲良くジャンプしてみせたのが面白かった。オーロラと王子のグラン・パ・ド・ドゥはロイヤルのサレンコとマックレーによる格調高いアダージオで始まったが、ヴァリエーションはオペラ座の受け持ちで、王子のエイマンは鮮やかな跳躍や回転技をみせ、オーロラのボラックは丁寧な踊り。コーダでは全員がペアを組んで次々に登場し、それぞれの持ち味を活かした技でアピールし、会場を沸かせて賑やかに幕を閉じた。〈バレエ・スプリーム〉は確かにオペラ座とロイヤルの夢のような共演で、終わってしまうのが惜しかった。もし「次回」があるなら、合同チームの上演作品では、より緊密なコラボレーションがみてみたいと思う。
(2017年7月29日昼 文京シビックホール)

『眠れる森の美女』Photo:Kiyonori Hasegawa

『眠れる森の美女』Photo:Kiyonori Hasegawa

『眠れる森の美女』Photo:Kiyonori Hasegawa

『眠れる森の美女』Photo:Kiyonori Hasegawa

ワールドレポート/東京

[ライター]
佐々木 三重子

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