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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.08.10]

ワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーを迎えて、日本のバレエの将来を担うバレエダンサーたちが踊った

「バレエ・アステラス 2017〜海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて〜」
新国立劇場バレエ研修所

今年の夏も「Ballet Asteras 2017 バレエ・アステラス〜海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて〜」が開催された。第8回目となる今年は、ワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーが特別参加した。
開幕は、牧阿佐美が19世紀フランスの作曲家シャルル・グノーの音楽に振付けた『シンフォニエッタ』。踊ったのは新国立劇場バレエ研修所の牧の教え子たちだった。音楽、特にメロディーと良く親和した振付で、心地よく安心して見られる舞台だった。

tokyo1708d_1089.jpg 『シンフォニエッタ』
撮影・瀬戸秀美(すべて)

第1幕の始まりは、カナダ・ロイヤル・ウィニペグ・バレエのペア、上草吉子とルーゼンバーグ・サンタナが『エスメラルダ』より グラン・パ・ド・ドゥ。上原はハワイでバレエを始め、サンタナはブラジル出身だが、ともにロシア人教師に師事した経験を持っている。安定したテクニックで見せた。
続いてともに大阪出身のスロヴェニア国立マリボル歌劇場のソリストのペア、中島麻美と大巻雄矢が、『海賊』第2幕より、グラン・パ・ド・ドゥを踊った。このペアはともに、昨年のヴァルナ国際バレエコンクールでシニアの銅賞を受賞している。解放感の感じられる踊りだった。
ジョージア国立バレエのプリンシパル、高野陽年は、ヨルマ・エロ振付、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン音楽による『Still of King』を踊った。これはマルセロ・ゴメスなどの当代一流の男性ダンサーだけを集めて開催されたガラ・コンサートで初演されたもの。ヨルマ・エロはABT、NYCBなどに作品を提供し、ローザンヌ国際コンクールのコンテンポラリー・ダンスのヴァリエーションにもなった。古典派のハイドンの曲に振付けられているが、若い王の内面の会話を想わせる動きで、なかなか興味深いダンスだった。
第1部の最後の演し物は『ドン・キホーテ』第3幕より グラン・パ・ド・ドゥ。ロシア・クラシノヤルスク・オペラバレエ劇場でリーディング・ソリストとして踊る、桑原万奈と金指承太郎のペアだった。ともにボリショイ・バレエ・アカデミーに留学した経験を持っている。リフトも高く、堂々とした踊りだった。

tokyo1708d_1117.jpg 『エスメラルダ』 tokyo1708d_1164.jpg 『海賊』
tokyo1708d_1294.jpg 『ドン・キホーテ』 tokyo1708d_1339.jpg 『人形の精』

第2部は、ニコライとセルゲイのレガート兄弟が振付け、ワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーの生徒たちが踊る、定番作品『人形の精』で開幕した。音楽はヨーゼフ・バイヤーの同名のバレエ曲で、アカデミーの現校長、ニコライ・ツィスカリーゼが改訂振付けている。うさぎ、中国人形、フランス人形、日本人形、スペイン人形が可愛らしくヴァリエーションを踊り、二人のピエロが愛らしい人形の精の関心を惹こうと競い合う。衣装はレオン・バクストの原画に基づいて復元したという。目に鮮やかでカラフル、輝くばかりに美しかった。ワガノワ・バレエ・アカデミーの生徒たちはみんなスタイルが素晴らしく、小顔の美人、そしてじつに優雅に踊る。見映えの良さは圧倒的だった。ただ、ゆっくりとしたテンポでラインを描いていて、闊達さや生命力は充分に顕てはおらず、見事なまでの美しさを充分に活かしきっていないようにも感じられた。次の機会には卒業公演で踊られるハチャトリアンの『剣の舞』をみせて欲しい、とも思った。

tokyo1708d_1225.jpg 『Still of King』 tokyo1708d_1347.jpg 『人形の精』 tokyo1708d_1366.jpg 『人形の精』
tokyo1708d_1385.jpg 『人形の精』 tokyo1708d_1394.jpg 『人形の精』 tokyo1708d_1421.jpg 『人形の精』

続いて深川秀夫振付の『ソワレ・ド・バレエ』。新国立劇場バレエのソリスト、池田理沙子とプリンシパルの井澤駿が踊った。これは新国立劇場バレエのレパートリーに入っており、二人ともしっかりと踊り、華やかなしかし落ち着いた大人の雰囲気を醸していてとても良かった。
次はJ.S.バッハの音楽にナチョ・ドゥアトが振付けた『Multiplicity』より チェロのパ・ド・ドゥ。バッハへのオマージュとして振付られたもの。バッハとおぼしき人物が登場し、チェロの弓とともに現れたダンサーの演奏するような動きによって奏でられる、という作品。上村文乃のチェロ演奏とともに演じられた。音楽を奏でる弓の動きが、美しい身体の動きに還元されて、音楽と重奏される素敵な舞台だった。奏でる動きを踊ったのはベルリン国立バレエのソリスト、菅野茉里奈。音楽の父ともいわれた大バッハを想わせる人物を演じたのは、やはりベルリン国立バレエのドゥミソリスト、リシャト・ユルバリゾフだった。

tokyo1708d_1723.jpg 『ダイアナとアクティオン』

アグリッピーナ・ワガノワ振付、チェザーレ・プーニ音楽の『ダイアナとアクティオン』はモスクワ国際バレエコンクールで入賞し話題を集めた、寺田翠(デュエット第3位)と大川航矢(デュエット第1位)が踊った。ともにタタールスタン国立ロシアカザン歌劇場のソリストを務めるペアである。スケールの大きさを感じさせるパ・ド・ドゥだったし、これが『エスメラルダ』の中で踊られる一曲であることも感じさせる演舞で見事。とりわけ寺田翠の良く伸びる身体に感心した。
最後の演し物は、ポーランド国立バレエでソリストとして踊る影山茉以とプリンシパルのダヴィッド・チェンツェミエックによる『眠れる森の美女』より、グラン・パ・ド・ドゥ。振付マリウス・プティパ、音楽はチャイコフスキーである。チェンツェミエックは、ダンスールノーブルらしく落ち着いた演舞を見せた。影山茉以は、来シーズンにはプリンシパルに昇進することが決まっているそうだ。そのことを納得させる格調の高い堂々とした踊りだった。
フィナーレは、アレクサンドル・グラズノフ作曲の『バレエの情景』にのって全員が華やかに登場し、大きな喝采を浴びた。
(2017年7月22日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1708d_1471.jpg 『人形の精』 tokyo1708d_1605.jpg 『ソワレ・ド・バレエ』
tokyo1708d_1637.jpg 『Multiplicity』 tokyo1708d_1802.jpg 『眠れる森の美女』
tokyo1708d_1895.jpg カーテンコール
撮影・瀬戸秀美(すべて)