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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2017.08.10]

男性ダンサーのパワフルな踊りが際立った『海賊』、タマラ・ロホ率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエ

English National Ballet イングリッシュ・ナショナル・バレエ
“Le Corsaire”: Staged by Anna-Marie Holmes after Marius Petipa and Konstantin Sergeyev
『海賊』アンナ=マリー・ホームズ:復元振付(マリウス・プティパ、コンスタンチン・セルゲイエフに基づく)

英国ロイヤル・バレエ団のスターだったタマラ・ロホを芸術監督に迎えて躍進めざましいイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)が来日した。ENBの前身は、1950年に創設された「フェスティバル・バレエ」で、「ロンドン・フェスティバル・バレエ」に改称後、国内外で精力的に公演活動を行ってきた。現名称に改められたのは1989年で、ペーター・シャウフスやデレク・ディーンらが歴代芸術監督を務めてきた。ロホは2012年に就任すると、アクラム・カーン振付の『ジゼル』やピナ・バウシユの作品を導入するなど、バレエ団の活性化と意欲的に取り組んでおり、2017年度のローレンス・オリヴィエ賞でダンス部門の業績賞を受賞した。今回の演目は、30年以上も親しまれている『コッペリア』(ロナルド・ハインド振付)と、ロホが監督就任の翌2013年に新制作し、英国で初の全幕上演となった『海賊』の2作品。話題性が高い『海賊』の、ロホが主演する初日を観た。

tokyo1708b_2Y8A1104.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

この『海賊』は、アンナ=マリー・ホームズが、マリウス・プティパとコンスタンチン・セルゲイエフの振付に基づき、ENBのために復元振付したもの。映画『バットマン』の衣裳を担当したボブ・リングウッドが装置・衣裳を手掛けたのも注目された。2016年にはパリ・オペラ座でも上演し、評価を得ている。プロローグ付き全3幕で、登場人物や大まかなストーリーは従来の版と同じだが、構成に手が加えられている。通常は嵐で難破する海賊船の様子をプロローグで伝え、第1幕では首領コンラッドと彼を介抱したメドーラの恋の芽生えと、メドーラらが奴隷商人に連れ去られるまでが描かれる。ENB版では、コンラッドとメドーラは既に恋人同士という設定で、嵐が起きるのは最後。プロローグは、コンラッドらが奴隷商人ランケデムにさわられたメドーラを救出するため海賊船でオスマン帝国に向かうシーンで始まり、奴隷商人が娘たちを連行する様も挿入された。これを受けて、第1幕では奴隷市場でコンラッドたちがメドーラを助け出すまでが描かれる。
第2幕の海賊たちの洞窟の場や、第3幕のパシャの宮殿でのメドーラの救出劇は、幻想的な「花園」のシーンを含め、おおむね通常の展開だった。コンラッドとアリはメドーラとギュルナーラを連れて海賊船で脱出するが、嵐に遭い難破。生き残ったコンラッドとメドーラが抱き合うシーンで静かに幕が下りた。ホームズ版ではパワフルな踊りが随所に盛り込まれていて飽きさせず、特に男性陣の踊りが迫力で圧倒した。要所に織り込まれたマイムは物語や人間関係を分かりやすく伝え、ドラマをリアルに息づかせていた。なお、音楽構成がかなりユニークだったこと、カラフルな衣裳が目を楽しませたことも付け加えておきたい。

tokyo1708b_2Y8A1184.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1708b_2Y8A1227.jpghoto:Kiyonori Hasegawa

ENBのダンサーたちは粒ぞろいで、総じてレベルが高かった。メドーラ役のロホは芸術監督兼務の重責を感じさせない卓越した演技だった。得意のフェッテでトリプルを入れても技を誇示するようなことはなく、バランスも安定していた。コンラッドはメキシコ出身のイサック・エルナンデス。長身で見栄えも良く、コンラッドの踊りが増やされていることもあり、首領としての風格を漂わせ、おおらかなジャンプをみせた。
アリは、キューバ人の両親は共にバレエダンサーという長身のセザール・コラレス。首領の忠実な奴隷の役だけに劇中での存在感は薄かったが、洞窟での見せ場のパ・ダクシオンでは、少しの乱れもない高速のピルエットや鮮やかなジャンプで魅了し、余裕で技の追加もしてみせた。公演終了後の舞台上で、ロホは彼をプリンシパルに任命すると発表したが、それを納得させる会心の演技だった。

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Photo:Kiyonori Hasegawa

ランケデムはしばしばENBに客演しているブルックリン・マック。逞しいテクニックを披露した。コンラッドを裏切るビルバントはキューバ生まれのヨナ・アコスタ(カルロス・アコスタの甥)で、アクの強い演技と踊りを見せた。ギュルナーラのローレッタ・サマースケールズは恵まれた容姿の持ち主で、エレガントに脚を振り上げ、端正に舞った。オダリスクや花園での女性たちの踊りはあるものの、全体に男性陣の荒々しい、エネルギーに満ちた踊りが見応えがあった。
ダンサーはそれぞれに個性的で、それは自体は結構なことだが、群舞になると、統一性というか一体性が今一つ欠けているように映った。今後の課題かもしれない。それにしても、日本人を含め、国際色豊かな伸び盛りのダンサーを多く擁しているのは強みだろう。ロホは芸術監督になっても舞台に立ち続けているが、それは、ルドルフ・ヌレエフが芸術監督を務めていた時のパリ・オペラ座バレエ団や、ミハイル・バリシニコフが率いていた時のアメリカン・バレエ・シアターのように、現役のダンサーが率いることでENBに新たな輝かしい時代を築きたいからだろう。それを可能と思わせるような『海賊』の公演だった。
(2017年7月14日 東京文化会館)

tokyo1708b_2Y8A1221.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa