ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2017.07.10]

カマルゴが客演し、海外公演の成果を見せた東京バレエ団のマカロワ版『ラ・バヤデール』

東京バレエ団
『ラ・バヤデール』ナタリア・マカロワ:振付・演出(マリウス・プティパ版による)

東京バレエ団がマカロワ版『ラ・バヤデール』を上演した。バレエ団としての初演は2009年で、その後、再演を重ねてきた。今回は2年振りだが、この4月に第32次海外公演としてシュツットガルトで上演し、高い評価を得てきたばかり。それだけに、今回の海外公演の成果を問う舞台でもあった。話題は、ダニエル・カマルゴを戦士ソロル役に迎えたことだろう。ブラジル出身のカマルゴは、シュツットガルト・バレエ団の新鋭プリンシパルとして注目されていたが、2016/17シーズンにオランダ国立バレエ団に移籍し、11月にはマカロワ版『ラ・バヤデール』のソロルを踊っている。日本では、シュツットガルト・バレエ団の公演や昨年の〈バレエの王子さま〉に出演し、古典から極めて独創的な現代作品まで幅広くこなしていた。東京バレエ団に客演するのは今回が初めてという。公演は3日連続で、ソロルと舞姫ニキヤは、初日と最終日をカマルゴと上野水香が務め、2日目は川島麻実子と柄本弾が組んだ。ラジャの娘ガムザッティは、奈良春夏、伝田陽美、川島麻実子が順に踊った。初日の公演を観た。

tokyo1707d_9856.jpg 東京バレエ団『ラ・バヤデール』
Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)

『ラ・バヤデール』は、愛し合う勇壮な戦士ソロルと美しい舞姫ニキヤに、ソロルを婿にと望む国王ラジャと娘ガムザッティや、聖職にありながらニキヤに横恋慕するハイ・ブラーミンが絡んで悲劇を招くという、古代インドを舞台にした異国情緒あふれる作品。マカロワ版『ラ・バヤデール』は、1980年、アメリカン・バレエ・シアターに振付けたもの。全体は3幕構成だが、第1幕は拝火の儀式やソロルとニキヤの逢い引きに始まり、ガムザッティとソロルの婚約披露宴でニキヤが陰謀により命を落とすまでのドラマティックな展開が、休憩なしで一気に描かれる。第2幕は静謐な雰囲気の「影の王国」。第3幕では神殿での婚礼にニキヤの幻影が現れて騒然となり、神々の怒りで神殿も崩壊するが、最後にニキヤとソロルの魂が結ばれるところまで描いて終わる。練り上げられた構成で、登場人物の心の動きも的確に描き込まれているが、物語の進行のためか、「太鼓の踊り」などの民族色豊かな踊りが省かれているのは寂しい気もする。
 
さて、話題のカマルゴ。しなやかな、鍛えられた身体の持ち主で、パワフルなテクニックには定評がある。冒頭で登場する戦士たちの中にあって、カマルゴはひときわスケールが大きくみえた。ニキヤの上野水香とのプロポーションの釣り合いも良く、初めは緊張気味に思えたが、滑らかにリフトし、流れるようなデュエットを紡いだ。婚約披露の宴などの見せ場では、高く蹴り上げた足先にまで力をみなぎらせ、空中でのポーズも美しく躍動感あふれる跳躍をこなし、力強い回転技も爽快だった。ただ、ラジャの権力に逆らえず、ガムザッティの美貌にも魅せられ、彼女との婚礼を承諾するソロルの身勝手な側面は、もっと掘り下げる余地がありそうだ。婚約披露の宴でニキヤの祝いの舞いをガムザッティと見ている時や、瀕死のニキヤを見捨ててガムザッティと去る時の心情など、もう少し細やかに伝えて欲しかった。上野との演技のやりとりに比べて、ガムザッティの奈良春夏とのやりとりには、まだ硬さが残っていたようだ。

tokyo1707d_0089.jpg tokyo1707d_9824.jpg

上野にとってニキヤは初演時から踊り込んできた役。仏像のような独特の腕や手のポーズも板につき、つま先まできれいに高く脚を振り上げ、端正な脚さばきや安定したバランスなど、こなれた演技だった。ソロルとの逢瀬でリフトされた時の至福の表情、ハイ・ブラーミンへの毅然とした態度、ソロルとの別れを執拗に迫るガムザッッティに刃物を向けてしまうなど、感情表現も自然だった。特に、婚約披露の宴で祝いの舞いからは絶望的な哀しみがこぼれ出て、秀逸だった。奈良にとっても、ガムザッティは踊り込んだ役。ニキヤとの確執は真に迫っていたし、ソロルとの婚約披露のパ・ド・ドゥでは、一つ一つの振りを丁寧にこなし、堂々と誇らしげに回り続けたフェッテが際立っていた。王女という身分は分かるが、ソロルに対して上から目線で接していたようで、そこに彼の心からニキヤを閉め出したいという思いが滲めばとも思った。
 
ほかに、苦行僧の長マグダヴェーヤの入戸野伊織は宙を切るような豪快なジャンプをみせ、ブロンズ像の宮川新大は手足をきびきびと操り、ダイナミックなジャンプをみせた。幕開けの神殿の外では、バヤデール(舞姫)たちの楚々とした群舞と、苦行僧たちの荒々しいジャンプが対比を成した。「影の王国」では、バヤデールの精霊たちの群舞が見せ場でもある。精霊たちは、指先や足先まできれいにそろえて整然と踊り、たおやかに舞い、卓越した群舞で幽玄の趣をかもしていた。全体に、海外公演での成果がうかがえる、レベルの高い公演だった。
(2017年6月30日、東京文化会館)

tokyo1707d_0214.jpg tokyo1707d_9528.jpg
tokyo1707d_0171.jpg

東京バレエ団『ラ・バヤデール』Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)