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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.04.10]

老いと若さのコントラストの中に父親の存在が問われる、ピーピング・トムの鮮烈な舞台

Peeping Tom ピーピング・トム
『VADER ファーザー 』
フランク・シャルティエ:構成・演出、ガブリエラ・カリーソ:ドラマトゥルク・演出補佐

ピーピング・トムの『ファーザー VADER』はおもしろかった。ベルギーを代表するコンテンポラリー・ダンスのグループ、ル・ダンス C. デ・ラ・ B. 出身のガブリエラ・カリーソとフランク・シャルティエが設立したピーピング・トム。<ポスト・ピナ・バウシュ>とも言われ、ヨーロッパを中心に尖鋭な作品を発表し活躍している。今回が3年ぶり4回目(『Le Sous Sol/土の下』2009『ヴァンデンブランデン通り32番地』2010『A Louer/フォー・レント』2014)の来日公演となる。

tokyo1704e_680xx.jpg ピーピング・トム『ファーザー』 撮影:片岡陽太
写真提供:世田谷パブリックシアター(すべて)

赤い絨毯を敷いた高い窓がひとつあるだけの部屋。どうやら老人ホームらしい。訪問客らしい女性が一人、この施設を訪れたところから始まる。
プロットというほどのものではないが、老人ホームを舞台に入所者や職員、訪問客などが様々なエピソード的なシーンを展開する。息子に無理矢理ここにに連れ込まれた車椅子の父親。息子はたいへん忙しそうに時計を見、せかせかと動き回る、そして「またくるから」と強引に去る。
老人たちはほとんどがお仕着せを着せられて職員たちに従順だ。職員たちは老人たちにはない若さのパワーがあり、時折、奇妙な動きを見せて、密かに老人を支配しようとする内面を露にする。職員たちがゴミを掃除すると、老人たちがまるでゴミと同等のようにみえたりする。そしてこのホームには奥に簡単な舞台があり、いつも何かのショーが行われていて、バラードが歌われる。職員に追い立てられた父親は、ピアノを巧みに弾いて見せ、ホームの人たちを慰め人気ものになる。老人ホームの入所者よりも、彼らを管理している職員たちのほうが、遥かに奇妙に動いている、というところがおもしろかった。
そのうちに父親を(おそらくデイサービスに)強引に連れてきていた息子は、いつしか、ホームからどうしても出られなくなり、他の入所者と同じに扱われるようになり、ついにはベッドに寝かされお尻を消毒されオムツを着けられる。そして自分の父親を判別できなくなり、車椅子に他人を乗せてホームを去っていく、と言ったようなかなり恐ろしい出来事がとりとめもなく起こっていく。

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老いの中で拭い去れない悔いの念と、若さから溢れる方向性を失ったエネルギーが交錯し、コントラストをもって描かれ、家族とは何か、父親とはどいう存在なのかが問われる。そして孤独と音楽の癒しが、天井に窓があり、正面には舞台、上手にピアノという簡素なセットの中で展開する。職員たちの踊りというか動きは、ガクガクして関節をあらぬ方向に曲げて、普段はあまり見られない身体性が現れていた。かなり粘っこく、濃密な奇態が生起し、次々と思いがけない展開が繰り広げられ「おお!」と唸っているうちに終わっていた。
前回に続いて、公演地で公募されたシニア・キャストが12人アンサンブル(老人たち)として出演している。あまり大きな動きはないが、舞台に立つことにより、観客席とは全く異なった世界が見え、特別な体験を積むことができるので、好評のようだ。
(2017年3月1日 世田谷パブリックシアター)

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ピーピング・トム『ファーザー』 撮影:片岡陽太
写真提供:世田谷パブリックシアター(すべて)