日本のバレエ団初演『イン・ザ・ナイト』、日本初上演デユポンが踊る『ボレロ』そして『中国の不思議な役人』、注目の3作品が上演された

東京バレエ団〈ウィンター・ガラ〉

『イン・ザ・ナイト』ジェローム・ロビンズ:振付『中国の不思議な役人』『ボレロ』モーリス・ベジャール:振付

東京バレエ団が〈ウィンター・ガラ〉として、ジェローム・ロビンズの『イン・ザ・ナイト』を日本のバレエ団として初演したほか、今年が没後10年に当たるモーリス・ベジャールの『ボレロ』と『中国の不思議な役人』を上演した。東京公演では、パリ・オペラ座バレエ団の芸術監督、オレリー・デュポンが日本で初めて『ボレロ』を踊るのも話題だった。公演を盛り上げる『ボレロ』はプログラムの最後で、幕開けは『中国の不思議な役人』だった。

『中国の不思議な役人』は、娘に金持ちを誘惑させて金品を巻き上げる無頼漢たちを描いた作品だが、ベジャールが娘を男性に演じさせたことで、頽廃的な倒錯の世界が濃厚になった。舞台は首領(森川茉央)が率いる無頼漢たちの荒々しい群舞で始まった。
無頼漢の"娘"を演じたのは入戸野伊織。黒い衣裳で白い脚を振り上げて狙った男に迫る様は妖しげで、官能の匂いを立ちのぼらせた。最初の犠牲者、ジークフリートを演じたのは、昨年9月にセカンド・ソリストとして入団したブラウリオ・アルバレス。剣を片手に毛皮のパンツで現れるジークフリートは何とも場違いで奇妙に映るが、ベジャールが彼に"英雄"と同時に"理想の破綻"のイメージも重ねたというから、皮肉が効いている。第2の犠牲者、若い男(二瓶加奈子)も無頼漢たちにあっさり料理された。第3の犠牲者になる中国の役人を演じたのは、バレエ団による初演時からこの役を演じて高い評価を得てきた木村和夫で、今回が踊り納めという。感情も意志も表に出さず、身体が硬直したように動き、刺されても首を絞められても蘇り、異常な執着心で"娘"に突進する役人になりきったような木村の演技に凄みを感じた。グロテスクな世界を表出するバルトークの音楽と相まって、役人が"娘"の金髪のウィグに身を横たえて果てる最後まで、底知れぬ恐ろしさを湛えたインパクトの強い舞台だった。

photo:Kiyonori Hasegawa

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ロビンズの『イン・ザ・ナイト』は、ショパンのノクターン4曲に振付けた抽象バレエ。華麗なテックニックを見せるでもなく、3組のカップルの異なる情景を、ピアノ(松木慶子)の調べにのせてソフトなタッチで描き分けたもの。1曲目のカップルを踊ったのは沖香菜子と秋元康臣。星空をバックに、互いに思いを募らせていく様を初々しいやりとりで伝え、爽やかな印象を残した。
2曲目は川島麻実子とアルバレス。シャンデリアが吊るされた舞台に、お洒落な衣裳で登場し、マイムも交わしながら流れるようにステップを踏み、しっとりとした典雅な雰囲気を醸した。
3曲目は上野水香と柄本弾。これまでのカップルと同様に男性が女性をリフトしたり、抱えたままターンしたりするものの、相手から顔をそむけたり、顔をしかめたり、左右に去ったりもした。深刻ではなさそうだが、時々すきま風が吹いているような微妙な状態を、二人は瞬間の演技で伝えていた。最後の曲ではそれぞれのカップルが次々に登場し、交錯して踊るなど、男女の愛の様々な段階をパステル画風に描写してみせた。キャスティングはそれぞれのカップルに合っていたと思う。

photo:Kiyonori Hasegawa

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締めはデュポンの踊る『ボレロ』。デュポンは、2015年5月にパリ・オペラ座バレエ団を引退後、世界を舞台に踊っていたが、2016年2月に古巣のバレエ団の芸術監督に指名された。8月に就任したが、その後も踊り続けている。彼女が初めて『ボレロ』の"メロディ"を踊ったのは2012年なので、比較的新しいレパートリーといえるだろう。ジョルジュ・ドンやシルヴィ・ギエムなど、これまで多くのダンサーが踊るのを観てきたが、デュポンのメロディからは、その誰ともかなり違う印象を受けた。冒頭の両手首を合わせる特徴的な構えや腕の動きは女性的というか独特の個性を感じさせ、腹筋をへこます振りも控えめだった。もちろん、繰り返し身体を上下させながら、脚を振り上げ、ジャンプしと、精確にリズムを刻みながら高揚していった。ただ、自身が放つオーラで"リズム"の男性陣を巻き込んで共に燃焼するというふうではなく、クールな目で自身をコントロールしながらクライマックスにもっていったように見受けられた。『ボレロ』は、確かにダンサーそれぞれの個性が滲み出るもので、同じダンサーでも年齢や状況によって変化するもの。デュポンが今後どう深化させるか、見守りたいと思う。
(2017年2月23日 オーチャードホール)

photo:Kiyonori Hasegawa

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ワールドレポート/東京

[ライター]
佐々木 三重子

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