ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.03.10]
♪バレエ昔も今も♪ BALLET OLD AND NEW♪
パリ・オペラ座バレエの新芸術監督オーレリー・デュポンが来日し、日本の舞台にも立った。そして『ラ・シルフィード』のジェイムズを踊った後に、ユーゴ・マルシャンがエトワールに昇格する、と発表された。ツアーの舞台でエトワールが任命されるケースもあるが、日本の舞台で発表されたのはこれが初めてのことだ、という。過日、エトワールに任命されたレオノール・ボーラックとジェルマン・ルーヴェが、エトワールとして初めて踊るのも日本の舞台となった。今後もまた、エトワールの引退が続くので、パリ・オペラ座バレエ団のダンサーの顔ぶれも新しいものとなっていくだろう。
オーレリー・デュポンが世界最高のバレエ団の一つと言われるパリ・オペラ座バレエをどのように導いていくのか、注目を集めている。

スワニルダとフランツの若い恋とコッペリウスの孤独、素晴らしいドリーブの音楽により、プティが創った傑作『コッペリア』

新国立劇場バレエ団
『コッペリア』ローラン・プティ:振付

新国立劇場バレエ団のレパートリーとなっているローラン・プティのバレエは『コッぺリア』と『こうもり』だと思うが、とても良い選択だと思う。2作ともプティでしか舞台上に表すことができないのではないかとも思われる<エスプリ>がくっきりと感じとれる。プティのバレエの中でも、情感豊かな印象深い舞台で、再演されるのが楽しみだ。ステージングを担当し、しばしば出演しているのは、マルセーユのプティの下で踊っていたルイジ・ボニノ。かつての名作も振付家の死後は、継承者が指定した人物がコーチして上演することになるのだが、中には原典の舞台の良さが失われてしまう場合も見受けられる。指定された人物も完璧というわけではないので、受け入れ側もしっかりと原典の舞台を尊重して上演しなければならないことになる。

tokyo1703a_0180.jpg スワニルダ 小野絢子、フランツ 福岡雄大 撮影・鹿摩隆司

ローラン・プティの『コッペリア』は、スワニルダとフランツが恋を成就させる物語だが、そこに「若さ」を表す巧みな表現を作り、一方、人形作りのお一人様老人コッペリウスの失恋には、切実な哀調を漂わせて描く。いわゆる「エッジ」を際出せているわけではないが、思わず知らずコントラストが感じられる瀟洒な表現により、古典名作とは異なった味わい深い舞台を見せてくれる。
第1幕は、ヨーロッパのどこにでもあるような建物に囲まれた街の広場。女性ダンサーたちには、肩や腰あるいは首をくねらせる動きで可愛らしいコケットリーを表し、男性ダンサーにはおもちゃの兵隊を思わせるちょっと大袈裟に見えるアクセントを付け、女性にアピールしたい気持ちを表現している。これがレオ・ドリーブの色彩感覚に富んだ民族的雰囲気のメロディとも良く響き合って、観客の気持ちと行き交い、豊穣感を満たした。
プティの『コッペリア』は、スワニルダに惚れてしまった人形作りコッペリウスと、彼が作ったスワニルダそっくりの人形がどうしても気になってしまう恋人フランツと、彼に不満なスワニルダの3人が繰り広げる物語。ロマンティック・バレエの名作を、プティが洒落っ気を効かせて読み直し巧みにに再構成している。

第1幕では、スワニルダを中心にした女性ダンサーの長い踊りを受け、フランツを中心とした男性ダンサーたちが踊り、見応えのあるダンスシーンを作っている。音楽と動きの一体感の中に、スワニルダとフランツの存在感が現れ、コメディ・バレエのクオリティをいっそう高めた。
また第2幕では、「人を驚かせることが大好き」と言って恐ろしい狼や容貌怪奇な怪人などをたびたび舞台に登場させているプティだが、このバレエではおどろおどろしいムードを決して強調していない。ここでは、スワニルダの若い美しさに魅了され、彼女そっくりの人形を作っている哀れな老人コッペリウスが、自作の人形と二人きりでシャンペンを開け、ディナーを食べてダンスを踊る。そこに漂う哀愁を描くのが眼目だ。そしてそれを、カーテンの陰から彼が恋してやまないスワニルダが、じーっと見ていることを彼は知らない。しかし観客はスワニルダが息を呑むようにして見つめていることを知っていて、このシーンを際立たせる重要なポイントなっている。
ここはかつてはプティ自身がコッペリウスを踊って、観衆を唸らせた有名なシーンである。プティの片腕だったルイジ・ボニノが踊った。ボニノはややテクニカルに見せたが、プティはもう少しゆっくりといくらかの喜びを表す軽い笑みを湛えながら踊った。するとその秘密の儀式に、言いようのない孤独感が浮かび上り、客席には「ジワ」がった広がったものだ。(1987年の来日公演でコッペリウスをローラン・プティ、フランツをパトリック・デュポン、スワニルダをドミニク・カルフーニが踊った)
第3幕は、フレンチ・カンカン風の流れで全体を盛り上げ、スワニルダとフランツの結婚式で物語は終わった。そしてエピローグでは、壊れてグロテスクな姿を晒すスワニルダ人形を抱いて絶望にくれるコッペリウスに、静かにスポットが当たった。若さは二度と戻ってこない、もちろん、スワニルダとフランツにも。
多くのヴァージョンではマイムで表されるストーリー部分を、プティは踊りの表現を創って語っていて、そこがなかなかおもしろかった。ただ、第2幕の展開だけはちょっとプロットに頼っていて、表現が追いついていないようにも見えた。
小野絢子のスワニルダは素晴らしかった。前髪を数本垂らしたヘアも似合っていたし、優しさを感じさせるフランツへの気持ちの表現----コッペリウスは眼中になかったが----を見るだけでも癒されるような気持ちになった。福岡雄大のフランツは圧巻だった。終始、脱力した見事な踊りで大きな表現を見せていたし、キャラクターの表現も完璧だったと思う。
(2017年2月24日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1703a_0670.jpg ルイジ・ボニノ、小野絢子 撮影・鹿摩隆司 tokyo1703a_0894.jpg 福岡雄大 撮影・鹿摩隆司