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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2017.02.10]

酒井はなのニキヤ、浅田良和のソロル、堀口純のガムザッテイが好演した『ラ・バヤデール』

日本バレエ協会
『ラ・バヤデール』法村牧緒:改訂振付・演出

日本バレエ協会が都民芸術フェスティバルの参加公演に、協会として初めて『ラ・バヤデール』を上演した。近年は、スキーピング版『ジゼル』やヴィハレフが復元したプティパ版『コッペリア』など、古典名作でも珍しいヴァージョンを取り上げてきたが、今回はプティパの原振付を基に法村牧緒が演出・振付けたもの。
初演したマリインスキー劇場の『ラ・バヤデール』は「幻影の場」で終わっているが、法村は、ガムザッティとソロルの結婚式の最中の館の崩壊とエピローグを加えて物語として完結させた。この部分の振付は元ミハイロフスキー劇場バレエマスターのユーリー・ペトゥホフによっている。
主役はトリプルキャストで、舞姫ニキヤは酒井はな、瀬島五月、長田佳世、戦士ソロルは浅田良和、芳賀望、橋本直樹、領主の娘ガムザッティは堀口純、法村珠里、馬場彩という組み合わせ。できるだけ多くのダンサーを出演させたいという思いからだろう、他の役にもベテランから若手まで多彩な顔ぶれがそろった。酒井と浅田、堀口が出演した初日を観た。

tokyo1702b-22.jpg 撮影:木上晃実(スタッフ・テス)

酒井は、最近はコンテンポラリー作品での活躍が目立つが、ニキヤ役でこれまで通りの安定したテクニックを見せた。バラモンの高僧には凜とした態度を貫き、ソロルとの密会では心身ともに柔らかに踊った。ガムザッティとソロルの婚約披露の宴での哀しみを刻むような尖ったステップと花籠を持ってのキビキビとしたステップが対比を成し、「幻影の場」では超然とした佇まいで端正にパ・ド・ドゥをこなした。場面ごとの感情表現も細やかだった。
浅田のソロルは瑞々しかったが、スリムで線が細いためか戦士としての勇壮なイメージは弱く、ベテランの酒井にリードされていたように映った。それでも、シーンごとに様々なジャンプをしなやかに卒なくこなしてみせた。ただ、ガムザッティとの婚約を受け入れる演技はやや型どおりで、領主の権力とガムザッティの美貌を前にしての心の揺れが今ひとつ伝わってこなかった。瀕死のニキヤを見捨ててガムザッティと手を取り合って去る時の心の内を、背中で語ることができれば悲劇も深まったと思う。
ガムザッティを演じた堀口は、ソロルへの恋心を素直に表す一方で、ニキヤとの確執では次第に傲慢さを露わにし、ソロルの心まで制御しようとするなど、領主の娘の勝ち気な面を際立たせていた。ソロルとのパ・ド・ドゥでは安定した踊りをみせたが、さらに磨きがかかればと思う。

tokyo1702b-25.jpg 撮影:木上晃実(スタッフ・テス) tokyo1702b-28.jpg 撮影:木上晃実(スタッフ・テス)

バラモンの高僧の小林貫太や苦行僧マグダヴェアの小山憲は役所を抑えていたが、領主の本多実男は強者としての迫力をもっと打ち出しても良かった。婚約披露の宴では、黄金の神像のアレクサンドル・ブーベルがリズムにのって正確に手足を操り、高く飛び、見応えある演技を披露。副智美の壺の踊りや、テーラー麻衣らのエネルギッシュな太鼓の踊りも宴を盛り上げていた。
「幻影の場」の精霊たちの群舞はきれいに整えられてはいたが、バランスが弱い人も見受けられ、精緻さは今ひとつ。全国からオーディションで集めたダンサーによるだけに、難しい面があるのだろう。これは他の群舞にもいえることだ。
「幻影の場」以降の展開はどうだったか。結婚式は寺院ではなく領主の館で行われ、領主がガムザッティとソロルを赤いベールで包んで結婚を成立させるが、ニキヤの亡霊が現れ、ソロルと聖なる火に愛を誓ったことを告げると同時に神の怒りで館が崩壊し、人々は下敷きになる。
エピローグでは、ニキヤとソロルの魂の昇華を象徴するように白いベールが空に昇り、高僧が悲劇の結末を嘆いて終わる。ニキヤの亡霊がガムザッティやソロルにからむシーンは緊迫感をはらんで効果的だったが、崩壊の映像は期待したほどダイナミックではなかった。また、高僧は結婚式に立ち会わなかったから生き残ったのだろうが、悲劇を招いた一因は高僧にもあるのだから、いくら激しく嘆いても、釈然としない思いが残った。
演奏はアレクセイ・バクラン指揮のジャパン・バレエ・オーケストラ。部分的にテンポが速くて、ダンサーの行進がせわしなく見えたところもあった。ともあれ、日本バレエ協会が総力を結集しての今回の公演、レパートリに入れて欲しい作品だった。
(2017年1月21日 東京文化会館)

tokyo1702b-18.jpg 撮影:木上晃実(スタッフ・テス)