ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.02.10]
♪バレエ昔も今も♪ BALLET OLD AND NEW♪
アメリカ大統領のツイッターが更新されるごとに、大きな反響をを呼んでいる。確かに世界で一番の権力者と言ってもいいと思われる人物だから、影響が大きい。日本の政府や大企業などの幹部も新しい「つぶやき」が聞こえてくると、いちいちコメントを求められて大変だろう。本来は「つぶやく」ためのツールだったはずだが、今日では世界の風向きを左右するほどの力を持っている。
バレエ界でも一部の人たちがツイッターを駆使して、様々な発言を試みている。多くが自身の活動を報告したり、新しい情報を紹介したりしているようだが、中には放言を放っている人もいる。しかし、アメリカの大統領ほどの実績を持つ人はいなようなので、ほとんど波紋も現れて来ない。それでも不満や言いたいことがあるようだ。ツイッターなどに不満をぶつけてエネルギーを費やすよりも、今はネット上でも自由に発表できるのだから、もっと論理立てたしっかりとした文章を書いて発表したらいいのではないか、と思う。そうしたらきっと、もっともっと深く考えなくてはならなくなるし、考えていることがまとまることもあるだろう。そしてさらに、自分自身というものについての理解を飛躍的に深めることができるかもしれない。

磨き抜かれたエレーナ・フィリピエワの深い表現力が圧倒的だったキエフ・バレエ団来日公演

キエフ・バレエ団
『白鳥の湖』ワレーリー・コフトゥン:振付・演出、プティパ、イワノフ、ロプホフ:原振付

タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立キエフ・バレエ団がウクライナ国立歌劇場管弦楽団とともに来日し、『白鳥の湖』、『眠れる森の美女』、『バヤデルカ』というクラシック・バレエ名作3作品を上演した。
最近では、めつきり少なくなった歌劇場付属の管弦楽団とともに来日した本格的引っ越し公演である。それはさっそくコール・ド・バレエのステップの軽やかさにも現れていた、と感じた。それぞれの動きの規律が完全に整えられている、というよりもステップが音楽にのって共振して動いている、という舞台を見ている印象。動きが一分の隙もなく完璧に一致するというおもしろさよりも、舞台上のダンサーたち全体が音楽の乗って、自由自在に変化していくのを楽しむバレエといえばいいだろうか。観客とダンサーとオーケストラが一体となっていることが感じられる公演だった。

tokyo1702a1_0127.jpg 写真提供:光藍社KORANSHA
写真:瀬戸秀美(すべて)

キエフ・バレエ団の『白鳥の湖』には歴史があり、プティパ、ゴールスキーのヴァージョンが導入され、のちにフョードル・ロプホフが演出したヴァージョンが上演されていたことがある。現在は、それらに基づいたワレーリー・コフトゥンの振付・演出したものが上演されている。全体にオーソドックスなものであり、第一幕のパ・ド・トロワにちょっと王子が参加したり、第三幕の各国の花嫁が、デヴェルティスマンの数に合わせて四人だったり、ラストがハッピーエンドになっているといった点くらいが特徴だろうか。私はハッピーエンドになっているからと言ってもあまり否定的にはにならない。それが作品のすべてを決定する訳ではない。

オデット/オディールを踊ったエレーナ・フィリピエワは長い間、キエフ・バレエのプリマバレリーナとして君臨しているが、さすがに脱力した踊りは安定感抜群だった。磨き抜かれたフリピエワならではの表現力が光った。彼女はボリショイ・バレエの大バレリーナで2015年に逝去した、マイヤ・プリセツカヤからも積極的に指導を受けていた。
ジークフリート王子はデニス・ニェダクが踊った。彼も2005年からソリストを務める大柄なダンサーだった。ロットバルトを踊ったのはドミトリー・ブコベツで、俊敏で踊れるダンサーだったが、やや小柄。ジークフリート王子と対決する第三幕では、王子が大柄であり、少しバランスが悪かった。王子のほうが強そうにみえてしまい、ロットバルトの魔的な魅力があまり感じ取れなかった。
北方的な強烈な厳しさはなかったが、全体的に音楽性が豊かで、登場人物の運命が音楽の中に響いているような独特の魅力のある舞台だった。
ウクライナ国立歌劇場は、2017〜18年に創立150周年記念を迎える。それを記念して、オペラ、オーケストラ、バレエの大規模な来日公演を行う、という。これはまた、大きな楽しみである。
(2017年1月4日 東京文化会館)

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tokyo1702a1_0162.jpg 写真提供:光藍社KORANSHA 写真:瀬戸秀美

『バヤデルカ』
ワレーリー・コフトゥン:振付・演出、マリウス・プティパ:原振付

キエフ・バレエ団が『バヤデルカ』を上演した。タラス・シェフチェンコ記念歌劇場のウクライナ国立バレエ団であるキエフ・バレエは、1926年に創立されたが、その最初に上演された記念すべき演目が『バヤデルカ』だった。
テーマを表す象徴として、インドの民族衣装サリーを彷彿させる薄絹のヴェールが使われている。バレエの舞台となっているインドの女性、バヤデルカ(踊り子)の魂をあらわしているのであろう。
キエフ・バレエのプリマ、エレーナ・フィリピエワ扮するニキヤと、ミハイロフスキー劇場バレエのプリンシパル、イリーナ・ペレンのガムザッティの対決は見ものだった。ペレンのガムザッティは登場シーンから周到に、領主の愛娘らしい気位の高さと凛とした気品、勝ち気な性格と意志の強さを表現して、フィリピエワのニキヤに対した。しかし、キエフ・バレエで20年以上もトップのプリンシパルとして君臨するフィリピエワの真迫力ある演舞には、少々押され気味に見えてしまったのは、ゲスト出演のペレンとしては、いたしかたのないところかもしれない。ちなみに、第2幕のセットの天にもバヤデルカの魂を表す薄絹のヴェールが飾られていたことも付記しておく。
火花をちらす二人のヒロインに比べて男性の主役ソロル(デニス・ニェダク)は、少し影が薄く感じられたかもしれない。ガムザッティの美貌に魅せられ権力におもねってしまい、存在の根源である愛を失った「英雄」ソロル。その慚愧の念が舞台に鮮やかに刻印されるまでにはいかなかった。
ラストシーンのニキヤとソロルのヴェールを使った踊りは実に効果的で印象深く感じられた。三幕仕立てとしているので、ブロンズアイドル(ミキタ・スホルコフ)の踊りはディヴェルティスマンとなっていた。壮大な神と人間のドラマを見ることはできなかったが、人間同士の魂を揺さぶる愛憎劇が展開された。コール・ド・バレエは若く元気良く、舞台全体に活気を与えていた。
(2017年1月6日 東京文化会館)

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写真提供:光藍社KORANSHA 写真:瀬戸秀美(すべて)