小野絢子のシンデレラの劇場空間全体を和ませる優しい表現が見事だった、新国立劇場バレエ団『シンデレラ』

新国立劇場バレエ団

『シンデレラ』フレデリック・アシュトン:振付

新国立劇場バレエ団は2016年末に、フレデリック・アシュトン版『シンデレラ』を上演した。主演は小野絢子のシンデレラ、福岡雄大の王子。義理の姉たちは小口邦明、宝満直也、仙女は本島美和、春の精は柴山紗帆、夏が木村優里、秋は奥田花純、冬は細田千晶、父親は輪島拓也、道化が福田圭吾、王子の友人は奥村康佑、木下嘉人、中家正博、渡邊峻郁というキャストだった。
第1幕の義理の姉たちに意地悪をされてもくじけない小野絢子のシンデレラが、華やかな宮廷のパーティを空想して箒を持って踊るシーンは、何回見ても可愛らしくておかしくて、生き生きとしていて楽しく、心なごませてくれる。アシュトンの振付では『リーズの結婚』にも、主人公のリーズが幸せな結婚生活を夢見て空想を思い切り膨らませるシーンがあるが、こちらは恋人のコーラスがものかげに隠れていて、その一部始終を見てしまう、と言う設定であり、コミカルな効果を意図したもの。シンデレラの場合は、主人公の性格というか存在そのものを表していてモティーフとも関わっているので、よりおもしろく感じられる。そして小野の劇場空間全体を、柔らかく和ませる雰囲気を醸し出す自然な演技が素晴らしいと思う。
アシュトン版では義理の母親は登場せず、シンデレラの実の父親が登場する。父親は義理の姉たちに気を使って、シンデレラの召使のような扱いを許し、宮殿の舞踏会にも連れて行こうとしない。しかしこれではちょっと父親があまりに弱すぎる、と感じた。

第ニ幕のシンデレラと王子の出会いのシーンは、純粋な感情が豊かに行き交うもので、とても良かった。福岡王子の愛の表明は、あまり時を費やさなくても率直で力がこもっており胸に迫るものがあった。福岡はしっかりとした表現力が着実に具わってきている。
小野シンデレラは、仙女の魔法により素晴らしい衣装と豪華な馬車で宮殿に着く。そして彼女がいましがた自分の家の台所で貧しい服を纏い、義理の姉たちに虐められながらも、箒とスカーフを相手に夢見ていた空想が一気に現実となる。ただし、魔法の期限は大時計が12時の鐘を打ち終わるまで。
気が付くと、美しい衣装やきらびやかな宮殿、優しい王子や高官やお付きの人も消えた。残っていたのは、宮殿で踊ったガラスの靴だけ。

撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『シンデレラ』
撮影/瀬戸秀美

小野シンデレラは、魔法時間のシンデレラと現実時間のシンデレラを上手く演じ分けていた。それはさりげない表現だったが、なかなか説得力があり、とりわけ第三幕のシンデレラは、第一幕と同じ所作をしていても、さらに艶やかで魅力的に感じられた。そしてシンデレラはまた、空想を膨らませて箒と踊る。今度はあの夢のひとときを思い出しながら踊るのだが、宮殿で豪奢な衣装を着けて王子たちと踊っていた時より、貧しい衣装ではあるが、伸びやかで優しい笑みを湛えていて本当に幸せそうに見えたのだった。
(2016年12月17日 新国立劇場 オペラパレス)

小野絢子 撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『シンデレラ』
小野絢子 撮影/瀬戸秀美

小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『シンデレラ』
小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

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