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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2016.10.11]

バデネスが溌剌と軽やかにキトリを、サラファーノフが陽気で闊達にバジルを踊った、ミラノ・スカラ座バレエ

ミラノ・スカラ座バレエ団
『ドン・キホーテ』ルドルフ・ヌレエフ:振付

バレエ発祥の地、イタリアから、ミラノ・スカラ座バレエ団が、日伊国交樹立150年を記念して、ルドルフ・ヌレエフ版『ドン・キホーテ』を上演した。ヌレエフ版の初演は1966年ウィーンで行われた。スカラ座では、1980年ヌレエフの主役で上演され、以来、バレエ団独自のプロダクションとして、人気のレパートリーになった。ヌレエフ版の特色は、超絶技巧を織り込んだ複雑な振付と、主役のキトリとバジル、特にバジルの踊りが増やされていることで、見所は多い。今回は、主役のペアにバレエ団の旬のダンサー、ニコレッタ・マンニ&クラウディオ・コヴィエッロのほか、ポリーナ・セミオノワ&レオニード・サラファーノフと、マリア・コチェトコワ&イワン・ワシーリエフという、海外の異なるバレエ団の人気のダンサーを組ませたのが話題だった。だが、セミオノワが妊娠のため降板したので、シュツットガルト・バレエ団の若手、エリサ・バデネスが急遽、招かれた。ヌレエフ版のキトリを踊るのは初めてというバデネスが、サラファーノフと組んで出演した2回目の公演を観た。

tokyo1610b_0093.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

ヌレエフ版はプロローグ付きの3幕構成。プロローグでは、騎士道物語に取り憑かれたドン・キホーテが、夢の中に現れたドルシネア姫を求めて遍歴の旅に出るまでの顛末が要領よく描かれていた。
第1幕は街の広場、第2幕はジプシーの野営と夢の場、第3幕は酒場と結婚式という展開。銀月の騎士とドン・キホーテの決闘は、ドン・キホーテがキトリとバジルの結婚の手助けをしたのに怒ったガマーシュとの決闘に置き換えられて酒場で行われ、ガマーシュの無様な負けで終わる。最後は、結婚式で皆が陽気に踊る中、ドルシネア姫に扮したのがばれて逃げるガマーシュを、ドン・キホーテが追いかけるようにして新たな旅に出るという形で終わる。

初共演のバデネスとサラファーノフは、身体の釣り合いも良く、踊りも演技のやりとりも驚くほどスムースだった。バデネスは元気一杯な、はつらつとしたキュートなキトリ。脚を軽やかに高く振り上げ、しなやかに舞った。サラファーノフも、足先の入り組んだ振りを鮮やかにこなし、陽気で闊達なバジルを好演。折り目正しい王子様のイメージを拭い去ってみせた。互いに愛していながら、わざとつれなくし、相手がほかの女性や男性に近づくと、怒っていさめる芝居もリアル。二人の弾けた演技が楽しめた。

tokyo1610b_0287.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

各幕のパ・ド・ドゥもそれぞれに見応えがあった。サラファーノフはバデネスを片手で高くリフトし、腕に飛び込んでくる彼女を軽やかに受け止め、フィッシュ・ダイブもきれいに決めた。ヌレエフが挿入した2幕冒頭のデュオでは、赤い三角ストールを効果的に用いて、甘い香りを漂わせて踊った。終幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、バデネスはフェッテでダブルを数回入れたものの、今ひとつ本領を発揮できなかったように思えた。一方、サラファーノフは、しなやかに背をそらせてのダイナミックなマネージュや強靭なピルエットを披露して会場を沸かせた。

スカラ座のダンサーでは、ジプシーのソロで迫力ある踊りを見せたアントニーノ・ステラをはじめ、エスパーダのマルコ・アゴスティーノや、街の踊り子のヴットリア・ヴァレリオ、ドリアードの女王のヴイルナ・トッピなど、皆、卒なく踊っていた。リッカルド・マッシミはガマーシュ役でひょうきんな味を出し、ジュゼッペ・コンテは、ひょうひょうとした孤高のドン・キホーテを演じてみせた。群舞には、ややバラつきも見られたが、キトリとバジルを盛り立てるようなエネルギーと明るさで印象づけた。
ところで、スカラ座バレエ団は、今年3月にマウロ・ビゴンゼッティを芸術監督に迎えたばかり。振付家としての評価も高いビゴンゼッティが、バレエ団をどのように発展させるか、期待したい。
(2016年9月24日夜 東京文化会館)

tokyo1610b_0455.jpg photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1610b_0649.jpg photo:Kiyonori Hasegawa
tokyo1610b_3596.jpg photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1610b_3614.jpg photo:Kiyonori Hasegawa