ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2016.08.10]

5つのオペラハウスから5人の王子様が来日し、東京バレエ団とともに楽しくユーモラスな舞台を魅せた

〈バレエの王子さま〉
L・サラファーノフ、D・シムキン、V・シクリャローフ、E・ワトソン、D・カマルゴ、S・ラム、M・コチェトコワ、東京バレエ団

〈バレエの王子さま〉は、注目の男性ダンサーに焦点を当て、彼らの個性豊かな魅力を堪能してもらおうというNBSの新しい企画。選ばれたのは、アイドル的な人気のレオニード・サラファーノフ(ミハイロフスキー劇場バレエ)とダニール・シムキン(アメリカン・バレエ・シアター)を始め、エドワード・ワトソン(英国ロイヤル・バレエ団)、ウラジーミル・シクリャローフ(マリインスキー・バレエ)、ブラジル出身のダニエル・カマルゴ(シュツットガルト・バレエ団)を加えた5人で、華を添えるべくサラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団)とマリア・コチェトコワ(サンフランシスコ・バレエ団)の2人も参加した。
プログラムは2種類あったが、どちらも第1部は男性トリオによる『同じ大きさ?』のほかはソロ作品が中心で、第2部は東京バレエ団による『エチュード』に数人がゲスト出演するというもの。初日の公演を観た。

tokyo1608b_7596.jpg 『バレエ101』撮影:長谷川清徳

オープニングは、シムキンとサラファーノフを先頭に、ダンサーが次々に登場して小技を披露するというメンバー紹介だったが、コミカルな演出で、和気あいあいとした雰囲気が伝わってきた。
最初の演目はシクリャローフの『バレエ101』(エリック・ゴーティエ振付)。バレエには101のポジションがあるというナレーションで始まり、ダンサーに基本の脚のポジションから番号順にポーズを取るよう命じる。中にはバレエに似つかわしくない奇妙なポーズも出てきて笑わせた。一通り終わると、番号がランダムになり、命じるスピードも速くなり、ダンサーが必死に身体を操るうちに照明が消える。明るくなると、ダンサーの胴体と腕と脚が床に散らばっている。もちろんこれは人形で、シクリャローフがにこやかに姿を現した。ユーモラスな作品だが、指示のままに精確にポーズを決めていくシクリャローフの優れた身体能力がうかがえた。次は『水に流して』(ベン・ファン・コーエンベルグ振付)。ピアフが歌うシャンソンにのせ、ラムが黒いワンピースの裾をひらめかせながら軽やかにターンし、飛び回った。

『ファイヤーブリーザー』(カタジェナ・コジルスカ振付)では、黒タイツだけで上半身裸のカマルゴが、鍛えられた筋肉を誇示するようにパワーを漲らせ、硬質の動きを展開していった。カマルゴのために振付けられた作品というが、アスリートのような彼の逞しさを引き立てていた。『予言者』(ウェイン・マクレガー振付)は、ワトソンがこの公演のために委嘱した小品。ワトソンも黒タイツのみで上半身裸で現れたが、しなやかに紡いでいく動きの一つ一つに精神を宿らせるといった感じ。集中度の高い、極めて内面的なパフォーマンスだった。『タンゴ』よりソロ(ハンス・ファン・マーネン振付)で再登場したシクリャローフは、ピアソラの曲にのせ、シャープな脚さばきで伸び伸びと踊った。

tokyo1608b_6405.jpg 『水に流して』撮影:長谷川清徳 tokyo1608b_6479.jpg 『ファイヤーブリーザー』撮影:長谷川清徳
tokyo1608b_6533.jpg 『予言者』撮影:長谷川清徳 tokyo1608b_6683.jpg 『同じ大きさ?』撮影:長谷川清徳

ソロ作品が続いた後、カマルゴ、サラファーノフ、シムキンの初共演が『同じ大きさ?』(ロマン・ノヴィツキー振付)で実現した。横一列でランニングしていた3人が、自分をアピールしようと技を競い合うようにして踊るというコミカルな作品。一番弾けていたのはシムキンで、持ち前のエンターテイナーぶりを発揮し、爽快な技で他の2人の競争心を刺激した。それでもサラファーノフはクラシカルなスタイルを崩さず端正に踊り、カマルゴはパワーのこもった弾力性のあるダンスをみせるといった具合で、三者三様の持ち味が楽しめた。第1部の最後はラムとワトソンによる『マノン』(ケネス・マクミラン振付)第3幕よりマノンとデ・グリューのパ・ド・ドゥ。ワトソンがぐったりしたラムを抱きしめるように横たわっている冒頭から悲愴感が漂う。彼女を慈しみ必死に抱擁するワトソンと、されるがまま、すべてを任せきったラムだが、ワトソンが空中でラムの身体を回転させ、ひしと受け止めるスリリングなリフトが繰り返されるたび、絶望感が深まっていった。悲劇を凝縮したような二人の渾身の演技が際立ち、この日、最も感動的だった。

tokyo1608b_6733.jpg 『マノン』より第3幕のパ・ド・ドゥ 撮影:長谷川清徳

第2部の『エチュード』(ハラルド・ランダー振付)は、バレエの練習風景を基礎訓練から高度の技まで見せるお馴染みの作品だが、次第に難度と速度を上げていき、ダンサーが左右からグラン・ジュテでクロスして走り抜けるシーンもあり、ショーとして見応えあるよう構成されている。東京バレエ団は女性陣が素晴らしく、特にバー・レッスンは、シルエットで見せる部分も含め、機械仕掛けのように足先まできれいにそろっていた。なかだるみしたように感じたところもあったが、ゲストで出演したシムキン、サラファーノフ、コチェトコワ、シクリャローフが盛り上げてくれた。特に、サラファーノフの足先まで繊細なアントルシャや、シムキンのダイナミックなジャンプが冴えた。
フィナーレでは、オープニング同様、それぞれがダイナミックなジャンプやパワフルなピルエットを披露。女性ダンサーとペアになろうとしてふられたシムキンのちょっとしたドラマが笑いを誘った。それにしても、〈バレエの王子さま〉と銘打ってはいたが、王子さまたちが踊ったのはモダンな作品ばかりで、いわゆる典型的な王子さまをイメージさせるパフォーマンスはなかった。招かれたダンサーは皆、秀逸だったし、演目が現代作品でも構わないが、公演タイトルには再考の余地があると思う。
(2016年7月15日 文京シビックホール)

tokyo1608b_7750.jpg 『エチュード』撮影:長谷川清徳