ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.08.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
アレッサンドラ・フェリは近年復帰して、ママさんバレリーナとして活躍している。一方、ニーナ・アナニアシヴィリは娘を育てながら、ジョージア・バレエ団の芸術監督としても活動している。ウリヤーナ・ロパートキナも愛娘を育みながら、舞台活動のための稽古に打ち込み、厳しい生活を続けている。さらにスヴェトラーナ・ザハーロワも多くの注目を集める中で出産を経験した。これは『オールスター・バレエ・ガラ』のAプロに出演した6人の女性バレエダンサーについて、私の知る範囲で書いたもの。6人のスターダンサー中の少なくとも4人までが子育て中なのではないか。もし、私がこの公演のパンフレット編集させてもらったら、間違いなく「子育てするバレリーナ」の特集を組んだろう、と思ってしまうほどである。女性が子供を育てながら、世界の超一流スターとして輝きを放っている! 誠に素晴らしいことである。近年までは「バレエを続けるために子供は諦める」という考え方が、ある程度の常識だったことを思えば、まさにまさに隔世の感がある。
長期にわたりEUを支えるドイツの首相、EU離脱という前代未聞の難問に立ち向かう英国の首相、どんな危機に陥っても常に国民に愛され続けてきた(これは日本の指導者にはまったく無縁の形容だが)ミャンマーの指導者、アメリカの大統領も初めて女性が就任することが現実的となってきている。世界は確実に変化している。過去の常識はもはや墓場に葬られてしまった、ということを誰もが認めざるを得ないほど現実が進んでしまっている。
翻って日本はどうなのか。毎回毎回現われるこの命題は「ほんとうにもう考えたくない」と、あるバレエ関連のパーティで、無味乾燥の決まり切った挨拶を無気力に喋る典型的な順送人事による「エラーイ人」の話にウ〜ンザリしながら思った。

バレエダンサーの精鋭が一堂に会して踊り、成熟した美を競ったオールスター・バレエ・ガラ

ALL STAR BALLET GALA Japan Arts 40th Anniversary
オールスター・バレエ・ガラ ジャパンアーツ40周年特別企画

ジャパンアーツ40周年特別企画「オールスター・バレエ・ガラ」が開催された。世界で活躍する超一流のバレエダンサーを一堂に会して、バレエ芸術の精髄を披瀝してもらおう、という企画。芸術監督はアレクセイ・ラトマンスキーだった。

tokyo1608a-01.jpg 『カルメン組曲』撮影:瀬戸秀美

まず、マイヤ・プリツカヤが旧ソ連時代の過酷な状況下で、バレエダンサーとしてのすべてをかけて創作した『カルメン組曲』よりパ・ド・ドゥを、ウリヤーナ・ロパートキナとアンドレイ・エルマコフが踊った。「身体性」という言葉は曖昧なところがあり一義的な意味を表しているとは言えないが、プリセツカヤとロパートキナの身体性は大きく異なって見える。ロパートキナのコンテンポラリーな身体が『カルメン組曲』を踊ると、また別の作品かと錯覚させるものがあった。クラシック・バレエにフラメンコなどのスペイン舞踊を大胆に取り入れた動きを、ロパートキナが踊ると、あたかもコンテンポラリー・ダンスを踊っているかのよう。独特の美しさを表しながら、ドン・ホセが身も心もカルメンの虜となっていく様が鮮やかに浮かび上がって見えた。
ニーナ・アナニアシヴィリはマルセロ・ゴメスと『ジゼル』第二幕のパ・ド・ドゥを踊った。ゴメスの卓越した表現力がアルブレヒトの深い想いを見事に造型し、ジゼルのウィリーを演じるアナニアシヴィリの霊に響いた、と観客には見えただろう。『Tango  y  Yo』はエルマン・コルネホの自作自演のソロ。ピアソラの音楽に軽快なピルエットを連ねて奔放なラインを辿り「タンゴの動き」を描いてみせた。
スヴェトラーナ・ザハーロワとミハイル・ロブーヒンは、『トリスタンとイゾルデ』よりデュエット「トリスタンとイゾルデ」を踊った。この作品はポーランド国立バレエ団の芸術監督クシシュトフ・パストールの振付。パストールは『ロミオとジュリエット』も振付けていて、第13回世界バレエフェスティバルでは、やはりザハーロワがメリクリエフと踊っている。ザハーロワとロブーヒンは、長い手足を絡め合いもつれ合いながら、愛の真実を探し求めていく。アレッサンドラ・フェリはケネス・マクミラン振付の『レクイエム』を踊った。マクミランが兄事していた盟友ジョン・クランコの死に捧げた曲。19〜20世紀に活躍したフランス人作曲家ガブリエル・フォーレの同名の曲に振付けている。フェリの踊る姿は清明な深い祈りを表したものだった。ABTのプリンシパル、ジリアン・マーフィーは、パリ・オペラ座バレエのエトワール、マチアス・エイマンと『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を踊った。バランシンが振付けた鮮やかな動きが優雅にに現れた。

tokyo1608a-02.jpg 『ジゼル』撮影:瀬戸秀美 tokyo1608a-03.jpg 『Tango y Yo』撮影:瀬戸秀美
tokyo1608a-05.jpg 『レクイエム』 撮影:瀬戸秀美 tokyo1608a-06.jpg 『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』撮影:瀬戸秀美
tokyo1608a-07.jpg 『トッカーレ』撮影:瀬戸秀美

後半はマルセロ・ゴメスが振付けた『トッカーレ』から。ゴメス自身とABTのソリスト、カッサンドラ・トレナリーが踊った。ヴァイオリンとピアノで伍家駿の曲を演奏しつつ、弦が奏でるメロディーを細かく当て振りのようにおいながら同時に大きな動きも表してゆく。それが男と女のふたつの身体に響き合い不思議な繋がりを感じさせた。ユニークな作品だった。ロパートキナとエルマコフは『グルックのメロディ』を踊った。愛する妻エウリディーチェを失った夫オルフェオが冥界に妻を探しに行く、という物語の有名な歌劇『オルフェとエウリディーチェ』の「精霊の踊り」にアサフ・メッセルが振付けた作品。ロパートキナが終始、薄いヴェールを持って踊ったが、それは冥界の人を表すのか、それとも絶対に顔を見てはいけないというタブーを表しているのか。恐らく両方を表現しているのだろうが、グルックの美しいメロディにのせて踊るロパートキナは、まるで身体の一部に備わっているかのように精妙に表わしていた。ジリアン・マーフィーとマチアス・エイマンは、『海賊』のメドゥーラとコンラッドの寝室のパ・ド・ドゥを踊った。意外とエイマンに海賊の衣装が良く似合った。
アレッサンドラ・フェリとエルマン・コルネホは『ロミオとジュリエット』寝室のパ・ド・ドゥ。フェリの得意中の得意の演目で一世を風靡したことはよく知られている。ジュリエットとともにフェリ自身の青春の輝きが甦った。アナニアシビリが『瀕死の白鳥』を踊った。胸に銃痕を表すルビーのブローチは着いていない。チュチュは近年流行のグレーの白鳥の羽根をまとめたもの。アンナ・パヴロワの振付とは異なり、最後は仰向けになって息絶える。現実の「死」そのものを強調してみせた。ザハーロワのロブーヒンの『海賊』こちらはメドゥーラとアリのパ・ド・ドゥ。ザハーロワの、神の手が鋭い鑿で造形したような見事な身体が圧倒的だった。
(2016年7月26日 東京文化会館)

tokyo1608a-08.jpg 『グルックのメロディ』撮影:瀬戸秀美 tokyo1608a-09.jpg 『海賊』撮影:瀬戸秀美
tokyo1608a-04.jpg 『ロミオとジュリエット』撮影:瀬戸秀美 tokyo1608a-10.jpg 『瀕死の白鳥』撮影:瀬戸秀美
tokyo1608a-11.jpg 撮影:瀬戸秀美