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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2016.05.10]

ジェイムズに抜擢された宮川新大の出色の演技と渡辺理恵の宙を舞う優雅なステップ

東京バレエ団
『ラ・シルフィード』ピエール・ラコット:振付(フィリッポ・タリオーニ原案による)

斎藤友佳理が東京バレエ団芸術監督に就任して手掛けたプロジェクトの第2弾は、ロマンティック・バレエの傑作『ラ・シルフィード』(ピエール・ラコット版)だった。バレエ団としては3年振りの上演だが、斎藤はこの題名役を国内だけでなく、名門ボリショイやマリインスキー劇場で踊って“日本のマリー・タリオーニ”と高い評価を得ただけでなく、振付のラコットのリハーサル・アシスタントを務めたこともあるだけに、この公演への並々ならぬ意欲がうかがえた。主要な役はダブルキャストで、初日は前回ラ・シルフィード役を務めた渡辺理恵と昨年入団したばかりでジェイムズ役に抜擢された宮川新大の初顔合わせで、2日目は前回もペアを組んだ沖香菜子と松野乃知が踊った。このうち、渡辺と宮川が組んだ初日を観た。

tokyo1605c_5632.jpg 撮影:長谷川清徳(すべて)

『ラ・シルフィード』は、スコットランドの農村を舞台に、エフィーとの結婚式を控えたジェイムズが、彼に恋をした妖精シルフィードに魅せられていき、その結果シルフィードもエフィーも失ってしまうという物語。渡辺は上体や腕をたおやかに動かし、ポワントの足先にも表情をこめ、繊細な脚さばきで宙を漂うように舞い、シルフィード役に求められる重力を感じさせない軽やかで優雅なステップを自分のものとしていた。
一方の宮川は、海外のコンクールでの受賞歴があり、モスクワ音楽劇場バレエやロイヤル・ニュージーランド・バレエ団を経て、昨年ソリストとして東京バレエ団に入団した新進。格子縞のキルトを着た宮川は、テクニックも表現力も初役とは思えないほどこなれていた。渡辺との演技のキャッチボールも卒がなく、エフィーを思いながらシルフィードに惹かれていくのを抑えられないといった心の揺れを細やかに伝えていた。特にジェイムズとエフィーのデュエットにシルフィードが割り込むシーンでは、彼を信じるエフィーと彼の心をとらえようとするシルフィードと、2人を相手に器用に踊り繋いでいく心の定まらぬジェイムズとの三つ巴の形を呈し、緊迫感を紡いだ。様々な跳躍もジェイムズの見せどころだが、アントルシャなど垂直に高く飛ぶジャンプや水平に宙を切るように飛ぶジャンプでは、柔らかさやスピードに自在に変化をつけて、異なる心の状態を表してもいた。大抜擢に見事に応えた宮川の今後が楽しみだ。

tokyo1605c_0465.jpg tokyo1605c_5698.jpg

脇を固めたのは、純真な村娘エフィーを演じた吉川留衣をはじめ、友人の婚約者であるエフィーに思いを募らせるしたたかなガーン役の杉山優一、ジェイムズに復讐する魔法使いマッジ役で気迫のこもった演技をみせた木村和夫など、それぞれ適材適所だった。
第2幕のシルフィードの群舞も見せ場の一つだが、妖精らしいしなやかな身のこなしや、ふわりとした跳躍が気持ちよく揃い、幻想的な雰囲気を醸し出していた。第1幕、第2幕とも舞台に隙がなく、踊りの面でも演技の面でも密度の高いシーンが続いた。これも斎藤の指導が細部まで行き届いていたからだろう。ブルメイステル版『白鳥の湖』に続き完成度の高い舞台を見せた東京バレエ団。新芸術監督の下でさらにどのような発展を遂げるか、期待される。
(2016年4月29日 東京文化会館)

tokyo1605c_5831.jpg 撮影:長谷川清徳