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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2016.03.10]

総力を挙げてドラマを息づかせ、質の高いた舞台を創った東京バレエ団、ブルメイステル版『白鳥の湖』

東京バレエ団
『白鳥の湖』ウラジーミル・ブルメイステル:改訂振付

東京バレエ団の新芸術監督・斎藤友佳理が、ブルメイステル版の『白鳥の湖』をバレエ団として初演し、長年、抱いていた夢を叶えた。

tokyo1603b_1643.jpg 撮影:長谷川 清徳

ブルメイステル版は、オデットがロットバルトにより白鳥に変えられるプロローグを付け、娘の姿に戻って王子と結ばれるエピローグを置くなど、物語に一貫性を持たせた論理的な展開や高い演劇性で評価を確立しているが、チャイコフスキーが最初に構想した音楽に基づいているのも大きな特色である。多くの版で第3幕の“黒鳥のパ・ド・ドゥ”で奏される音楽は第1幕で王子と女官の踊りに使われ、代わりに“黒鳥のパ・ド・ドゥ”ではバランシンが『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』で用いたのと同じ曲が使われている。
ブルメイステル版を初演したのはモスクワ音楽劇劇バレエで、日本でも繰り返し上演しているが、今回は斎藤が1953年の初演時の舞台を尊重して臨んだというだけに、総じて新鮮な印象を受けた。オデット/オディールとジークフリート王子はトリプルキャストで、上野水香と柄本弾、渡辺理恵と秋元康臣、川島麻実子と岸本秀雄の組み合わせ。バレエ団のトップ、上野と柄本が組んだ初日を観た。

第1幕で、王子(柄本弾)と友人の若者たちの酒盛りの場に来合わせた村娘らは、王子の一行と知って去ろうとするが、若者たちに引き留められて楽しく一緒に踊る。そこに王妃が女官たちを従えて現れると、若者たちは慌てて村娘らを隠すが、王妃に見つかって村娘らは退き、王妃は若者たちの振る舞いをたしなめた。その様を、王子は舞台の脇で苦々しい思いで見ている。身分制度が厳格だったことをさり気なく伝えるエピソードで、窮屈な宮廷生活をうとましく思う王子の気持ちも十分に伝わってきた。
柄本は滑らかにステップを踏み、楽器を抱えての踊りでは憂鬱な気分を、弓を持っての踊りでは晴れやかになった心持ちを表していた。続く第2幕で、オデットの上野水香は豊かに感情を表出するというよりは、身振りで王子との会話をしっとり紡いだ。白鳥の群舞も詩情豊かで美しかった。

tokyo1603b_7966.jpg 撮影:長谷川 清徳

ブルメイステル版の真骨頂は、第3幕で各国の民族舞踊のすべてを悪魔ロットバルトの手下たちが踊る設定にしたことにある。ロットバルト(木村和夫)が娘のオディール(上野)と民族舞踊の踊り手たちを従えてのり込んでくると、宮殿は悪魔に乗っ取られたようになった。スペイン、ナポリ、チャルダッシュ、マズルカと迫力ある踊りが続くが、ロットバルトは黒いマントでオディールを見え隠れさせ、スペインやマズルカではソリストとオディールを一瞬入れ替わらせるなど、巧みに王子を幻惑していった。真にスリルに満ちた展開で、“黒鳥のパ・ド・ドゥ”はオディールが王子の心を掌握するクライマックスとなった。民族舞踊という強力な後ろ盾を得た上野は、妖しい魅力で王子の心を絡めとっていったが、極め付けはロットバルトのマントの陰から突如現れて見せた強靭なグラン・フェッテで、ダブルを織り交ぜ、速度と迫力を保ったまま踊りきり、王子をとりこにした。柄本は、多勢に対して無勢といった格好で存在感が薄まったように見えたが、これはヴァリエーションの振付に大技が少なかったことにもよるだろう。どの民族舞踊も十分に挑発的で、加速度的に緊迫感を盛り上げていったが、中でもスペインのソリスト奈良春夏の凄みを帯びた演技や、ナポリのソリスト沖香菜子のパワフルな踊りが際立った。ロットバルトの木村はむやみに音をたててマントを振り回すようなことはせず、沈着に振る舞っていた。

tokyo1603b_2102.jpg 撮影:長谷川 清徳

第4幕で、様々にフォーメーションを変えながら踊る白鳥の群舞は清澄な美しさを湛えており、オデットと許しを乞う王子のデュエットのプレリュードのように映った。ロットバルトが湖に嵐を起こして王子をのみ込もうとするシーンでは、床を水色の布で覆って波打たせるという場面転換が鮮やかだった。王子とオデットの死を賭した愛の力により悪魔は滅び、王子が娘の姿に戻ったオディールを抱きしめるというラストが清々しく映った。
各幕の踊りは完成度が高く、また、例えば花嫁候補とその母親たちの間の芝居のやりとりも細やかで、全体にドラマを息づかせていた。衣裳はオリジナルなものをモスクワ音楽劇場から借りてきた。王妃や女官の衣裳は第1幕ではシンプルだが第3幕では豪華なドレスで、また民族舞踊の衣裳はそれぞれの国の特色を活かしているとう。ブルメイステルの意図を反映させたという装置は日本製だが、秋色で満たされた第1幕の景観や奥行のある舞踏会場など、センスの良さが感じられた。踊り以外にも斎藤芸術監督の並々ならぬこだわりが見て取れた。それだけにプロダクションとしての質は高く、これをレパートリーにできたことは東京バレエ団にとって強力な武器になるだろう。
(2016年2月5日 東京文化会館)

tokyo1603b_7843.jpg 撮影:長谷川 清徳