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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.02.17]

華やかに気鋭のダンサーたちが踊った、新国立劇場バレエ団の新春ガラ公演

新国立劇場バレエ団「ニューイヤーバレエ 2016」
『セレナーデ』ジョージ・バランシン:振付、『フォリア』貝川鐵夫:振付、『パリの炎』パ・ド・ドゥ ワシリー・ワイノーネン:振付、『海賊』パ・ド・ドゥ マリウス・プティパ:振付、『タランテラ』ジョージ・バランシン:振付、『ライモンダ』マリウス・プティパ:振付、牧阿佐美:演出・改訂振付

今回が初めての試みとなる「ニューイヤーバレエ 2016」が、新年の華やかな気分の漂う新国立劇場オペラパレスで開催された。

tokyo1602e_01.jpg 『セレナーデ』
撮影:鹿摩隆司(すべて)

2016年の新国立劇場バレエ団の舞台は、バランシン振付の名作『セレナーデ』で幕を開けた。新国立劇場バレエ団の得意演目のひとつと言っても良いだろう。いつどのキャストを観ても、時折上演される海外のバレエ団の『セレナーデ』にも決して引けをとらない舞台を創っている。
白い上衣に淡いブルーのエレガントなロマンチック・チュチュを着けた女性ダンサーの3人のプリンシパル(本島美和、寺田亜沙子、細田千晶)、男性ダンサー2人(菅野英男、中家正博)、そして女性と男性のコール・ド・バレエが踊る。クラシック・バレエの動きを少しくずしたり、スピードアップしたりして機能性を崩し、ちょっと人間性を感じさせるムーヴメントを作り、そこをポイントとして全体を構成している。
有名な、遅れてきて舞台に上がり自分ポジションを探して参加した現実の女性ダンサーの動きを、そのまま振付に採り入れたシーンもそうした機械的ではない人間性を表している。
ここには時系列で生起する「物語」はないが、舞台で踊られている背景には何か物語的な事象が起きているのではないか、と空想させるところはあってワクワクする。男性ダンサーが登場して、一人の女性ダンサーと踊ると、観客はそこに愛に関わる何かの出来事を感じてしまう。そしてそれは現実なのか、それとも一人の女性ダンサーの空想が舞台に表されているのか、それはわからないが、青春の愛にまつわる幻想が立ちのぼってくる甘い感情の起伏を味わうことの出来るバレエである。それがこの作品の美しさであり、チャイコフスキーの時代もバランシンの時代も現代もそしておそらく未来も、変わらず感動を生み出す源泉である。
続いて新国立劇場バレエ団のファーストソリストで、振付作品も発表している貝川鐡夫の『フォリア』。「フォリア」とはポルトガルやスペインから広まった古くからある舞曲のことで、貝川は17世紀のイタリア人作曲家で、バッハやヴィヴァルディにも影響を与えたアルカンジェロ・コレッリの曲『ラ・フォリア』に振付けている。「フォリア」には、狂気、常軌を逸した、といった意味もある、という。
まずは3組の男女のペアが舞台上にバラバラに点在して踊り始め、それぞれが踊り継いでいく。それがやがてはシンクロし、ついには3組のペアが一体となって踊る。小品だが、音楽の流れの変化に応じた展開で、ダンサーたちが共鳴しあう様子が感じられる振付だった。

tokyo1602e_02.jpg 『フォリア』 tokyo1602e_04.jpg 『パリの炎』

『パリの炎』パ・ド・ドゥは、ソリストの柴山紗帆とプリンシパルの八幡顕光。柴山のテップは柔らかく、床面をソフトにタッチしてなかなか魅惑的。八幡は相変わらず元気溌剌とした踊りを見せてくれた。活力と柔軟さが融合した踊りだった。
『海賊』パ・ド・ドゥはともにソリストだが、目下売り出し中の若手のホープ、木村優里と既にたびたび主役も踊っている井澤駿。木村はのびのびとした闊達な気が溢れているダンサーで、大物の雰囲気を備えている。期待に応える踊りだった。井澤は日本人には珍しいくらいのパワフルなダンサー。逞しく堂々としているところがいい。この二人は、やがて新国立劇場バレエ団の屋台骨を背負っていくのではないだろうか、そう感じさせたたパ・ド・ドゥだった。
バランシンの傑作で、いつもガラ公演を沸かせるパ・ド・ドゥ『タランテラ』を踊ったのは、プリンシパルの米沢唯とファーストソリストの奥村康祐。こちらは今現在、カンパニーの屋台骨を支えているダンサーたちだ。このパ・ド・ドゥはスピードに乗って長いムーヴメントを踊り、共鳴しあって弾けるように踊らなければならない。二人は見事に呼吸を合わせて踊り切り、舞台の上で悠揚と共鳴しあった。さらに何度も踊ってコンビネーションの妙をいっそう深めて欲しい。

tokyo1602e_05.jpg 『海賊』 tokyo1602e_07.jpg 『タランテラ』
tokyo1602e_03.jpg 『フォリア』 tokyo1602e_06.jpg 『タランテラ』 tokyo1602e_08.jpg 『ライモンダ』

休憩を挟んで『ライモンダ』第3幕が上演された。
タイトルロールのライモンダは小野絢子、ジャン・ド・ブリエンヌは福岡雄大、という新国立劇場バレエ団の看板プリンシパルの二人が踊った。小野絢子の堂々たるライモンダは揺るぎない踊り。脱力していて余裕があり安定感が際立つ。日本を代表するプリマとして、どこに出してもまったく恥ずかしくない踊りだと思う。福岡雄大もまた落ち着いた余力のある踊り。さすがに観客を劇場に呼び出し、かつ満足して帰路につかせることが出来るペアである。鮮やかな民族色が舞巡るなか、チャルダッシュを華麗に踊ったのは、堀口純(ソリスト)とマイレン・トレウバエフ(プリンシパル)だった。
新国立劇場バレエ団は、ダンサーの粒がそろっていてこうしたガラ公演を開催しても魅力的な舞台を創ることができる。最早、海外のゲストダンサーの力に頼ることは無くなった。たいへん、喜ばしいことである。
(2016年1月9日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1602e_09.jpg 『ライモンダ』 撮影:鹿摩隆司(すべて)