ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.10.13]

女性への深い共感と揺るぎない愛が感じられる素晴らしい作品、オール・チューダー・プログラム

スターダンサーズ・バレエ団
ALL TUDOR PROGAM
『Continou』『リラの園』『小さな即興曲』『ロミオとジュリエット』よりパ・ド・ドゥ 『葉は色あせて』よりパ・ド・ドゥ『火の柱』アントニー・チューダー:振付

スターダンサーズ・バレエ団のオール・チューダープログラム。
周知のように1965年に故太刀川瑠璃子がアントニー・チューダーを招いて「オール・チューダー・プログラム」の特別公演を行い、スターダンサーズ・バレエ団は活動を開始した。創設者は太刀川で、小牧バレエ団でチューダーの『下界のオッフェンバック』を上演したことがその契機となった。今年はそれから50年が経過した節目の年にあたり、「オール・チューダー・プログラム」が上演される運びとなった。改めて日本のバレエの未だ若い時期から、世界的に優れた振付家に着目してバレエ芸術の高みを目指した、太刀川瑠璃子に敬意を表したい。

tokyo1510b_01.jpg 「Continuo」金子紗也、川島治
(c)Shinnosuke Hirai 〈A.I Co.,Ltd.〉(すべて)

それから半世紀を経た「オール・チューダー・プログラム」は、ヨハン・パッヘルベル作曲の『カノン』による『Continuo』から始まった。この作品はABT復帰する以前のフリーの時代の1971年に初演された。
柔らかいサイドライトに照らされて一組のカップルが登場し、緩やかで流麗な踊り。すると気付かないうちに次のカップルが現れて踊り、最初に踊ったカップルが去り、踊るうちにまた次のカップルが姿を現して踊るなど変化しつつ、女性3人の踊りとなり、さらには男性3人の踊りと緩やかに変化しながら続いて行き、最後は全員でパ・ド・シスとなる。流れの美しさをカノンの音楽様式を使って現した作品だった。
『リラの園』は、フランスの後期ロマン派の作曲家エルネスト・ショーソンのヴァイオリンと管弦楽のための音楽『詩曲』に振付けている。結婚式を控えたおもてカップルのカロライン(渡辺恭子)とその婚約者(山本隆之)、裏カップルのカロラインとその愛人(今井智也)、カロラインの婚約者とその過去の女(永橋あゆみ)が一堂に会して、次第に露になっていく感情の揺らぎと交錯を描く。場所は心にそぐわない結婚が決まったカロラインの、お別れパーティーが開かれているエドワード王朝風の館の庭。リラの花が月明かりの中に浮かび上がって見える。
周囲を注意深く気遣いながら、それぞれの裏とおもての相手の心を覗き込む視線が、気ぜわし気に行き交う。ポアントを多用し、身体が上下に変化するステップを多く使い、張りつめた緊張感と心の動揺とそれをコントロールする心理を表わす。咲き誇ったリラの花が、そのやるせない人間模様をじっと見詰めている。

tokyo1510b_02.jpg 「リラの園」
今井智也、渡辺恭子、山本隆之、永橋あゆみ
tokyo1510b_03.jpg 「小さな即興曲」
窪田希菜、渡辺大地

休憩の後はパ・ド・ドゥ集。
ロベルト・シューマンの『子供の情景』に振付けた『小さな即興曲』は、小さな台に水色の布を掛けた小さな場所から始まる。その布をマントに見せたり、丸めて赤ちゃんにしたり、花嫁衣裳にしたりしながら、人生の様々なイベントを表し、表情豊かに踊る。次々と空想が空想を呼ぶ即興が、ダンスの表現となっていっそう愛らしく感じられる。窪田希菜と渡辺大地による微笑ましく可愛らしいパ・ド・ドゥだった。

tokyo1510b_04.jpg 「ロミオとジュリエット」よりパ・ド・ドゥ
林ゆりえ、吉瀬智弘

『ロミオとジュリエット』より寝室のパ・ド・ドゥ。これは19世紀から20世紀に掛けて活躍したドイツ系イギリス人作曲家、フレデリック・ディーアリスの音楽に振付けた全1幕の作品で日本初演。結ばれたばかりの二人の悲しい別れのパ・ド・ドゥが、林ゆりえと吉瀬智弘により抒情性豊かに踊られた。
パ・ド・ドゥ集の最後は『葉は色あせて』よりパ・ド・ドゥ。音楽はアントニン・ドヴォルザークの弦楽4重奏のための『糸杉』ほか。吉田都と山本隆之が踊った。やはり、吉田都の動きとその流れの美しさが際立つ。動きのディテールに至るまでがあでやかに見えた。この日はその背中に、完全に脱力されたナチュラルな美しさを観た。また、山本隆之が踊るのは久しぶりにみたが、さすがに落ち着いてしかも力強く踊った。

最後はアーノルド・シェーンヴェルクの弦楽合奏曲『浄められた夜』(リヒャルト・デーメルの同名の詩に基づく)に振付けた『火の柱』だった。
3人姉妹の家の前に娼館が建っている。2番目の娘ヘイガーが厳しい表情で娼館を睨むように見つめている。という設定を書いただけで、既に女性にまつわる厳しいドラマが起こりそうに思える。
ヘイガーは、オールドミスになった厳格な姉と、奔放に生きる10代の妹のどちらの人生にも共感することができない。そして、その内面は向かいの館への制御できない強い関心に苦しめられている。そのために彼女は、姉に叱責され、妹に翻弄される。さらに心を寄せていた若い男には想いを伝えることができず、妹に奪われてしまったのではないかと思い絶望する。そんな時、娼館から現れた派手な男に誘惑され、愛することもなく身を任せてしまう。その無分別な行為に、姉妹から絶縁される。呆然と失意に沈むヘイガーの前に、月の光の輝きとともに、妹に奪われたと思い込んでいた男が現れ、彼女を優しく包み込む。闇が見えるということは、光があることだ、と。
女性として生きることをメタフィジカルに描いたバレエであるが、チューダーの女性への深い共感により、描かれているように見える。
ヘイガーを踊ったのは、林ゆりえだった。女性らしい頑なさと強い憧れの潜在を表す安定感のあるダンスだった。向かいの館から出てきた男を踊った浅田良和が異彩を見せて好演だった。
(2015年9月27日 テアトロ・ジーリオ・ショウワ)

tokyo1510b_05.jpg 「葉は色あせて」よりパ・ド・ドゥ
吉田都 山本隆之
tokyo1510b_06.jpg 「火の柱」林ゆりえ、浅田良和