ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.10.13]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
今月は『ドン・キホーテ』の全幕2作と一つのグラン・パ・ド・ドゥを観ることができた。全幕は、大分で上演された首藤康之演出・振付のヴァージョン。もうひとつはNBAバレエ団がアンナ=マリー・ホームズを招いて上演したヴァージョン。グラン・パ・ド・ドゥは、アントレ部分を堀内元が改訂振付けたものだった。今回それぞれの舞台を詳述したが、3作ともそれぞれ充分に特徴を出しており、古典バレエの将来を考える上でとても興味深かった。
首藤康之版は、新しいアイディアを加えてよく考えられた演出でしかも古典バレエの良さを充分に活かしたもの。NBAバレエ団が上演したアンナ=マリー・ホームズ版は、基となるロシア・バレエの舞台の豊かさを尊重し、今日的機微を加えて振付けたもの。堀内元のグラン・パ・ド・ドゥのアントレは、これまでは気付かなかったが、ミンクスの音楽がとてもシンフォニックに響いた新鮮なヴァージョンだった。
古典名作のグランド・バレエは汲めども尽きぬ創造の泉であり、今日、舞台を創造するアーティストの意識が高ければ高いほど、優れた結果を生み出すことができるのだ。これこそ誠に貴重な人類の遺産であることを、強く意識させられた想いである。

吉田都と堀内元が導き出した踊る喜びにあふれた豊穣の空間が出現!大輪の花が開いた一夜だった

吉田都×堀内元 Ballet for the Future
『Valse Fantaisie』ジョージ・バランシン:振付、『Attitude』『Le Reve』『La Vie』堀内元:振付、『Pandora's Box』クリストファー・ダンボア:振付、『ドン・キホーテ』マリウス・プティパ:原振付、堀内元:改訂振付(アントレ)

「吉田都×堀内元 Ballet for the Future」は、<日本の最高のバレエ芸術を次世代に伝える>というコンセプトにより、東京と金沢で1公演ずつ行われた。特別ゲストは吉田都、そしてヒューストン・バレエでプリンシパルのカップルとして活躍する加治屋百合子とジャレッド・マシューズをゲストに迎え、堀内元が芸術監督を務めて上演した舞台である。

tokyo1510a_01.jpg 『Valse Fantaisie』
撮影/瀬戸秀美(すべて)

開幕はジョージ・バランシン振付の『Valse Fantaisie』。これは1967年にバランシンがミハイル・グリンカの音楽に振付けた『グリンキアーナ』の4部構成の第2部。現在はこの部分だけがひとつの作品として残っている。
グリンカの曲に乗せて、ピンクのシースルーのチュチュの女性ダンサーと臙脂のベストを着けた男性ダンサーの1組のペア(飯島望未、末原雅広)、4人の女性ダンサーが踊った。アンサンブル、ソロ、パ・ド・ドゥと次々と様々に組み合わせを変化させながら流れるように、バランシン作品らしく古典的美しさを表わすスピーディな踊り。元ヒューストン・バレエのソリストだった飯島のエレガンスな腕の動きが、ワルツのリズムの美しさを良く表わし魅了された。カーテンコールを観て初めてコール・ド・バレエは4人だったことに気付いた。もっと多くのダンサーが踊っていたかのように錯覚させる、変化に富んだ流麗な展開だった。
続いて『Attitude』。ニコ・マーリーの曲に堀内元か振付けた。ニコ・マーリーは1981年のヴァーモント生まれでジュリアード音楽院出身。パリ・オペラ座バレエの芸術監督になったベンジャミン・ミルピエのダンスに多くの曲を提供している。現在オペラ座で上演中のミルピエの最新作『Clear, Loud, Bright, Forward』もニコ・マーリーの曲を使っている。Attitudeはバレエのポジション名だが、生意気なとかやんちゃといった意味もあり、これはセントルイス・バレエ・スクールの女子高校生のために振付けられた、という。黒いレオタードにポワントを着けた4人のダンサーが縦一列に並んで始まった。4人はやや緩やかなテンポでフォーメイションを変化させて踊り、時折、ちょっと気取った可愛いポーズを決めたりする。曲調はミニマルミュージック風だが、フォーメイションの変化の流れがじつに良く音楽と同調している。小品ながら溌剌とした若さが自然に現れていて、観ていて心地良くなるダンスだった。

tokyo1510a_02.jpg 『Attitude』 tokyo1510a_03.jpg 『Le Reve』

『Le Reve』は、セントルイス・バレエ団の常任作曲家ジョー・モッラの美しいピアノ曲に堀内元が振付けている。モッラは10代から多くのピアノ・コンクールで優勝し、デューク大学で学んだ。堀内とは『Wake Up』で初めて共作しこれが4曲目。Le Reveとは夢や幻想を意味している。現実音が流れる中、自身の夢の中に迷い込んだように、白い衣裳を着けた森ティファニーが登場。すると闇の中から岡田兼宜が姿を現す。ピアノ曲が流れて二人はデュエットを踊る。そして淡い愛が芽生える兆しを喜ぶかのように、次々と同じ衣裳の女性ダンサーが現れて、10人となり緩やかなフォーメイションを踊る。さらに男性ダンサーも登場し、ペアとなって踊る。音楽にのってペアが次々登場し、ペアの様々な組み合わせが大きな図形を描いて踊り、音楽とともに舞台はしばし盛り上がる。しかし、やがてペアは消え、森ティファニーと岡田のペアだけが残るが、岡田も闇の中に去って行く。再び現実音が聞こえてくる、という構成だった。柔らかな女性の心をそっと包み込むかのようなタッチで描かれた素敵なダンスだった。特に森ティファニーの優しい情感が印象に残った。

tokyo1510a_04.jpg 『Pandora's Box』

『Pandora's Box』はセントルイス・バレエ団の首席客員振付家、クリストファー・ダンボアが、フランツ・シューベルトの「ピアノ3重奏曲」第2番に振付けたデュエット。ダンボアはその名前からも推察されるように、50年代から80年代に掛けてNYCBのプリンシパルを務め、多くのバランシン作品を初演したジャックの子息。クリストファー自身もNYCBで踊っている。赤い衣裳を着けた荒井茜とグレイの衣裳の上村崇人が踊った。抱きとめているはずのパートナーがスッと抜け出したり、相手の心を探るように胸に手を当てたり、じっと視線を交わし合ったり、といったポーズが織り込まれたモダンな動きの踊り。シューベルトの曲が刻むリズムが、なかなか共感できない恋人たちの心の様子を表わしているかにも感じられた。
第1部の最後は『ドン・キホーテ』の第3幕グラン・パ・ド・ドゥ。原振付けはプティパだが、アントレ部分を堀内元が振付けている。
冒頭から男性3人女性8人の踊りが繰り広げられる豪華な振付。いつも見馴れているはずの『ドン・キホーテ』が、シンフォニックなバレエとして感じられてとても新鮮だった。作品の一部ではあったが、舞台のヴィジュアルを観ることによって、当の音楽がさらに優れたインパクトを与える、バランシン振付独特の現象のような印象も受けた。
そして主役の加治屋百合子とジャレッド・マシューズの登場となる。加治屋の切れの良い踊りとマシューズの端正な風貌が良く織り合い、リフトも見事に決まり、観客も躍動感のあるグラン・パ・ド・ドゥを満喫していた。

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tokyo1510a_07.jpg 『ドン・キホーテ』

休憩の後、第2部の『La Vie』が開幕した。南仏生まれのジャズピアニストで作曲家のクロード・ボリングの「室内オーケストラとジャズピアノ・トリオのための組曲」を使って、堀内元が振付けたプロローグ付き4部構成のダンス。クラシック音楽とジャズが織り合わされたように快適に展開する音楽に、呼応してクラシック・バレエとモダンな動きが融合され、見事なダンスシーンが次々と繰り広げられた。

tokyo1510a_10.jpg 『La Vie』

La Vieは人生を意味するが、冒頭、20名のダンサーが踊る中、生命のリズムを刻む鼓動が舞台に響く。アーバンな雰囲気の映像を背景に、淡いブルーの衣裳を着けた6人の女性ダンサーがたおやかに踊り、続いて黒い短パンを履いた6人の男性ダンサーも快適なテンポで踊る。やがてソリストの赤い衣裳の飯島望未と短パンの岡田兼宜が現れ、デュエットになる。この辺りでは素敵なジャズピアノが流れ、洒落たアーバン感覚が冴え、踊る喜びが溌剌と表現される素晴らしいダンスシーンが見られた。
背景が星空に変わると、プリンシパルの吉田都と堀内元が軽やかなステップを踏みながら登場、喝采を受ける。3、4部では吉田と堀内の熟達した技を駆使した踊り合い、といった雰囲気も見え、この上なく楽しい一夜の大輪の花が開いた。
日本の至宝、吉田都と堀内元のダンスの根元が表わしているものは、神代の昔から踊る喜びこそが人生の本質だ、ということだと確信させられた。
さらに一言添えると、この夜の観客もまた舞台と同等に賞讃されるべきだ。舞台の心と客席の心が自然に交流し、この上なく温かく豊穣な空間が出現したのはじつに驚くべきこと。日本にはこんなに良質な観客がいるのだと改めて知り、バレエの一隅に携わるものとして襟を正さねばならないと思わされた。これは四半世紀を越える私の劇場体験の中でも希有な、日本の舞台史上に記されるべき一夜である。
(2015年8月27日 ゆうぽうとホール)

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tokyo1510a_13.jpg 『La Vie』
tokyo1510a_14.jpg 吉田都×堀内元 Ballet for the Future 撮影/瀬戸秀美

吉田都×堀内元Ballet for the Future
芸術監督:堀内元
【第1部】
Valse Fantaisie

振 付: ジョージ・バランシン 音楽: ミハイル・グリンカ
出 演: 飯島望未 末原雅広
荒井茜 細井佑季 吉村茜 酒井那奈
Attitude
振 付: 堀内元 音楽: ニコ・マーリー
出 演: 小泉奈々 塩谷綾菜 春風まこ 森川真央
Le Reve
振 付: 堀内元 音楽: ジョー・モッラ(セントルイス・バレエ委嘱曲)
出 演: 森ティファニー 岡田兼宜
細井佑季 吉村茜 酒井那奈 北元咲和歩 今里萌恵 鹿嶋彩香 嘉本夕葉 桑田彩愛 野田美月 矢野まどか
高須佑治 栗野竜一 豊永太優 渥見直幸
Pandora’s Box
振 付:クリストファー・ダンボア 音楽: フランツ・シューベルト
出 演:荒井茜 上村崇人
ドン・キホーテ 〜第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ〜
原振付:マリウス・プティパ 改訂振付(アントレ) : 堀内元 音楽: レオン・ミンクス
出 演: 加治屋百合子 ジャレッド・マシューズ
アントレ:小泉奈々 塩谷綾菜 今里萌恵 鹿嶋彩香 嘉本夕葉 桑田彩愛 野田美月 矢野まどか
高須佑治 栗野竜一 豊永太優
第1ヴァリエーション: 塩谷綾菜
【第2部】
La Vie

振 付: 堀内元 音楽: クロード・ボリング
出 演: 吉田都 堀内元
飯島望未 岡田兼宜
森ティファニー 荒井茜 細井佑季 吉村茜 酒井那奈 北元咲和歩 今里萌恵 鹿嶋彩香 嘉本夕葉 桑田彩愛 野田美月 矢野まどか 末原雅広 上村崇人 高須佑治 栗野竜一 豊永太優 渥見直幸
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