ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.09.10]

世界のバレエ界の精鋭たちによる華麗な演技の競い合いが花々しく展開した

〈第14回世界バレエフェスティバル〉
【プログラムB】

円熟のスーパースターから躍進目覚ましい新鋭まで、世界のバレエ界を牽引するダンサーを集めて3年ごとに開催される〈世界バレエフェスティバル〉が、今年で14回目を迎えた。
今回はA、B二種のプログラムのほか、全幕特別プロ『ドン・キホーテ』と掉尾を飾る恒例の〈ガラ〉が企画された。出場回数の多いマニュエル・ルグリとウラジーミル・マラーホフを筆頭に、初登場のサラ・ラムやマチアス・エイマンら多彩な顔触れがそろった。今年末での引退を宣言したシルヴィ・ギエムが不参加なのは寂しいが、往年のスター、イザベル・ゲランの復帰が話題を添えていた。会期が2週間にわたり、スケジュール調整が難しいのか、マチュー・ガニオらAプロのみのダンサーや、オスカー・シャコンらBプロのみのダンサー、しかもマルセロ・ゴメスのようにBプロの2日目から参加というダンサーもいた。今回、観たのは【プログラムB】の4日目である。

tokyo1509b_05801.jpg 「ライモンダ」
撮影:長谷川 清徳

開幕を飾ったのは『ディアナとアクテオン』。ヴィエングセイ・ヴァルデスは長いバランスや3、4回転を入れたフェッテで強靭なテクニックを誇示し、新顔のキューバ出身のオシール・グネーオも高い跳躍や滑らかなターンを見せた。サープの『シナトラ組曲』から“ワン・フォー・マイ・ベイビー”を踊ったのはイーゴリ・ゼレンスキー。恋人に去られた男の寂しさを滲ませていたが、気のせいかステップにどこかロシア色を感じた。ハンブルク・バレエから初登場のアンナ・ラウデールとエドウィン・レヴァツォフはノイマイヤーの『ペール・ギュント』。階段上に現れた女の足を男が掌に受けて始まるデュエットは、全幕のどのシーンか分からないが、シュニトケの音楽にのせ、静謐で緊張感のある対話を紡ぎ余韻を残した。『ライモンダ』より“幻想のアダージオ”では、ロシアの至宝、ウリヤーナ・ロパートキナが長い手脚を美しく操り、典雅の極地を見せた。パートナーのダニーラ・コルスンツェフはサポート役に徹したような観があった。第1部の締めはノイマイヤーの『椿姫』第1幕のパ・ド・ドゥ。出演予定のマライン・ラドメーカーがケガのためアレクサンドル・リアブコに代わったことで、マリア・アイシュヴァルトとの思いがけない初共演が実現した。アイシュヴァルトは、心の奥底に孤独感や不安を抱えながら青年の純真な愛に共振していくマルグリットの心をしっとりと伝え、アルマン役には定評があるリアブコは、甘えるように恋い慕ううぶな若者を瑞々しく表現し、熱いドラマを展開した。

第2部の幕開けは『眠れる森の美女』(ヌレエフ振付)。パリ・オペラ座から初参加のエイマンは、最初は小さな乱れもあったが次第に調子を上げ、見事なジャンプを披露。急きょミリアム・ウルド=ブラームの代演を務めたリュドミラ・コノヴァロワも卒のない演技を見せた。アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーは、リアム・スカーレットの『ノー・マンズ・ランド』の最前線に赴く男と残される女のパ・ド・ドゥを踊った。後方から現れた男が後ろから女を抱きしめる冒頭から、早くも絶望的な哀しさが漂ってきた。男は女をリフトし、女は狂おしげに回転しと、二人のやりとりは熱を帯びていくが、男は再び後方に去っていく。二人の演技はさらに深まったようで、強く印象に残った。『海賊』を踊ったのは、英国ロイヤル・バレエから初参加のサラ・ラムとワディム・ムンタギロフ。ラムはダブルを入れたフェッテなど鮮やかな回転技をみせ、王子役が似合いそうなムンタギロフもシャープなピルエットや跳躍で応じた。マウロ・ビゴンゼッティの『ヴァーティゴ(目眩)』を踊ったのはディアナ・ヴィシニョーワとゴメス。強靭な肉体を筋肉の動きも露わに操り踊る刺激的な小品で、挑戦的な眼差しで挑むヴィシニョーワと動ぜず受け止めるゴメスの迫真のやりとりに息を呑んだ。続く『ギリシャの踊り』(ベジャール振付)では、郷愁を誘う音楽にのせ、オスカー・シャコンがしなやかに快調に踊り、輝くエネルギーで舞台を満たしてくれた。

第3部はマクミランの『ロミオとジュリエット』のバルコニー・シーンで始まった。スティーヴン・マックレーは弾けるようなジャンプや回転で恋の喜びを伝え、ヤーナ・サレンコは妖精のようなジュリエットを演じた。クランコの『伝説』では、シュツットガルト・バレエのアリシア・アマトリアンとフリーデマン・フォーゲルが、難しいリフトも多い振りを滑らかにこなしていた。特に、フォーゲルの包み込むような優しさは捨てがたい。タマラ・ロホとアルバン・レンドルフは『椿姫』第3幕のパ・ド・ドゥ。病身のマルグリットがアルマンを訪れ、自分を責めるような振る舞いはやめてくれと懇願する場面で、ノイマイヤーの振りを丁寧にフォローしてはいたが、型どおりで終わってしまったようだ。アイドル的存在のダニール・シムキンは、相手役のマリア・コチェトコワが降板したため、お馴染みの『レ・ブルジョワ』に代えた。酔っ払いのふらついた足取や、空中でのひねりを入れたジャンプを鮮やかにこなすなど余裕の演技で、表現力も深まったようだ。オレリー・デュポンはエルヴェ・モローと組み、マクミランの『マノン』第1幕のパ・ド・ドゥを踊った。この5月にパリ・オペラ座の引退公演で踊った演目である。なめかしく振る舞うデュポンに、最初は淡々と応じていたデ・グリュー役のモローだが、次第に高揚し、激しくリフトし、もつれあった。けれど、その割に燃焼度は今一つのような気がした。

tokyo1509b_06964.jpg 「レ・ブルジョワ」
撮影:長谷川 清徳
tokyo1509b_07692.jpg 「こうもり」
撮影:長谷川 清徳
tokyo1509b_07818.jpg 「ドン・キホーテ」
撮影:長谷川 清徳

第4部はマラーホフとサレンコによるマラーホフ版『シンデレラ』でスタート。マラーホフはもっぱらサポート役でサレンコの伸びやかな演技を引き立てていたが、踊る意欲があまり感じられなかったのが寂しい。再登場のリアブコはシルヴィア・アッツォーニと組み、現代的解釈が加えられたノイマイヤーの『シルヴィア』を踊った。シルヴィアとアミンタの長い年月を経た後の再会のシーンで、ひしと抱き合ったり、離れようとしたり、微妙にすれ違う心を切り取ってみせた。『瀕死の白鳥』で再登場したロパートキナは、しなやかな腕の動きや哀しみを奏でるようなパ・ド・ブーレが際立ち、美の化身のように映った。ルグリとゲランが踊ったのはプティの『こうもり』。ルグリは、ピルエットを含め軽快な脚さばきで楽しげに三枚目のウルリックを演じた。昨年、12年ぶりに舞台に復帰したゲランは、夫の夜遊びに悩むやつれた妻ベラを自然体で演じ、艶やかな美女に変身してみせた。元パリ・オペラ座のエトワールによる、何とも粋な舞台だった。締めはボリショイ・バレエのペアによる『ドン・キホーテ』。マリーヤ・アレクサンドロワはコントロールも巧みに自信に満ちたパフォーマンスを展開し、フェッテはシングルでもパワーで圧倒。ウラディスラフ・ラントラートフもダイナミックなマネージュやピルエットで応じ、フィッシュダイブも軽やかにこなした。アピール力抜群の二人は大いに会場を沸かせた。フィナーレに現れたダンサーは女性15人と男性18人で、合わせて33人。演目は20作品で、4時間半近い長丁場になった。けれど、優れた舞台に接した感動が疲労感を救ってくれようだ。〈世界バレエフェスティバル〉は、バレエ界のいわば強豪による至芸の競演となることからか、“3年に一度のバレエのオリンピック”と呼ばれてもいる。第15回は2018年の予定だが、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に合わせて、特別な〈オリパラ・ガラ〉を考えているとのことなので、そちらも楽しみだ。
(2015年8月12日、東京文化会館)