ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.09.10]
吉田都と堀内元による「Ballet for the Future」公演を少し手伝わせてもらった。21世紀の東京の舞台で共演した「レジェンド」ともいうべき二人のダンサーと、加治屋百合子、ジャレッド・マシューズを中心とした舞台だったが、率直に言って、これほど大きな反響があるとは思ってもみなかった。カーテンコールの大喝采には耳を疑ったし、ごく自然に観客のほとんどすべてが、スタンディングオベーションによってダンサーたちを讃えた。白日夢に酔った1日だったのである。
この夜の観客は、日本人の身体性によって世界の舞台で活躍し続けることが、どれほど過酷な努力を強いるものか、良く知っていた。そしてそのたゆまざる努力を可能とした二人のバレエダンサーの豊かな人間性を、舞台で踊るその姿の中から鋭敏に感じとった。観客もまた、感受性に豊かな素晴らしい人たちだったのだ。ささやかだが、ぜひ、オベーションを贈りたい。
上演演目は、バランシン的なアメリカ文化を感じさせるモダンな小品が中心だった。ところが意外にもストーリーのある名作バレエをいつも観、愛している観客から、たいへんに評判が良く驚かされ、勇気づけられた。それはきっと、この舞台に妙な気取りやケレン味がなく、明快に踊ることの楽しさが満ちあふれていたからに違いない、そう思って1人納得している。

海外で活躍する若い日本人ダンサーが東京の夏の夜の花火のように華麗な舞台を競った

熊川哲也オーチャードホール芸術監督presents
オーチャード・バレエ・ガラ〜JAPANESE DANCERS〜

昨年の「オーチャードホール25周年ガラ」を契機として、今年は、熊川哲也presents「オーチャード・バレエ・ガラ〜JAPANESE DANCERS〜」が開催された。海外で活躍する若いダンサーたちが所属の垣根を超え「日本でほんとうの実力をきちんと披露できる機会を与え、お客様にも日本のダンサーの魅力を実感し、より一層応援していただくきっかけとなれば」という意を込めて開催されたイベントである。2日間の開催だったが、1回のみの上演となった金子扶生と平野亮一の『コンチェルト』(マクミラン振付)を見ることができなかったのは残念だった。

tokyo1509a_1337.jpg 「レ・プティ・リアン」
撮影/小川峻毅(すべて)

オープニングは昨年の25周年ガラと同じ山本康介の振付。モーツァルトの音楽に振付けた『レ・プティ・リアン』で、今年のローザンヌ国際バレエコンクール受賞者、金原里奈とK バレエ・スクールの田中美羽、赤名進太郎が踊った。シンフォニックな動きを構成した晴れやかな舞台だった。
続いてオーチャードホールの芸術監督として総合監修した、熊川哲也のプレゼンテーション。充分に一曲分くらいの時間を使って熱弁をふるい、日本のバレエについての熱い想いを語った。同感だったが、舞台上の姿を見るとつい踊って欲しいという気持ちが浮かんでしまう。
プログラムのプロローグ的な部分が終わると、いよいよオーロラ姫の登場となり、『眠れる森の美女』のローズアダージオが始まるという洒落た構成となっていた。オーロラ姫はバーミンガム・ロイヤル・バレエのプリンシパル・ダンサー、平田桃子。平田は心の美しさを表現する落ち着いた踊りで、「オールジャパン」の最初のアーティストにふさわしい舞台だった。続いてやはり『眠れる森の美女』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ。ボストン・バレエのプリンシパル、倉永美沙のオーロラとウィーン国立バレエのソリスト、木本全優。倉永は身体をしっかりと使って豪華な雰囲気を出し、木本の力強い踊りとの優れたアンサンブルをみせた。

tokyo1509a_1433.jpg 熊川哲也 tokyo1509a_0145.jpg 「眠れる森の美女」平田桃子 tokyo1509a_2108.jpg 「眠れる森の美女」
倉永美沙、木本全優

舞台はがらりと変わって、マクミラン振付『レクイエム』より”Pie Jesu“ ソロ。ガブリエル・フォーレの同名の曲、ソプラノは坂井田真実子、オルガン演奏は石井里乃。英国ロイヤル・バレエのファースト・ソリスト、崔由姫が哀しみの情感を深くしかし抑制して描いた祈りの姿に、冥界からのメッセージを受け取ったかのような気持ちとなった。次はブルノンヴィルの『ラ・シルフィード』よりシルフィードとジェイムズの森の中のパ・ド・ドゥ。ノルウェー国立バレエのアーティスト、野村千尋とプリンシパルの松井学郎が踊った。明るく爽やかだが、妖精の魔力を持った野村とその魅力に魅入られてしまった松井が、ステップを刻む喜びを踊り、そこに人生というか、人間が生きていることの儚さを表す。繊細なステップを構成したブルノンヴィルのバレエならではの情景が出現した。

tokyo1509a_0396.jpg 「レクイエム」崔由姫 tokyo1509a_1540.jpg 「ラ・シルフィード」野村千尋 tokyo1509a_1609.jpg 「ラ・シルフィード」野村、松井
tokyo1509a_1673.jpg 「レクイエム」崔由姫 tokyo1509a_1593.jpg 「ラ・シルフィード」松井学郎
tokyo1509a_0738.jpg 「レ・リュタン」奥野凛

休憩の後は、元ヒューストン・バレエのソリスト、飯島望未のグルナーラとイングリッシュ・ナショナル・バレエのファースト・アーティスト、猿橋賢による『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥ。哀しみを湛えていっそう美しい飯島と野性的な活力溢れる猿橋の活気ある踊りが印象的だった。元英国ロイヤル・バレエのプリンシパルだったヨハン・コポーが、初めてかつて所属したカンパニーに振付けた作品『レ・リュタン』。初演は2009年で、コジョカル、マックレー、ボルーニンだった。現在、コポーが芸術監督を務めるルーマニア国立バレエ団のファースト・ソリストの奥野凜、堀内尚平、吉田周平が踊った。ヘンリク・ヴィエニャフスキ「カプリース イ短調」よりとアントニオ・バッジーニ「妖精の踊り」よりを使って、パ・ド・トロワを中心として構成された作品。ヴァイオリンは成田達輝、ピアノは高橋望が舞台上で演奏した。ヴァイオリンの奏者を巻き込んだ女一人と男二人のコミカルな味も加えて瀟酒に仕上げられた楽しい踊り。3人のダンサーはテクニックを駆使して軽妙に動きながら表情も良くつくっていた。熊川哲也版『白鳥の湖』より第3幕のグラン・パ・ド・ドゥは、崔由姫のオディールとK バレエ カンパニーのアーテイスト、山本雅也のジークフリート、K バレエ カンパニーのファースト・アーティスト、杉野慧のロットバルト。崔由姫の演技が良く行き届いて舞台を引き締めていた。最後の演目は、初めて日本人ダンサーだけで踊られるウィリアム・フォーサイス作品『精密の不安定なスリル』。音楽はシューベルトの「交響曲8番 ザ・グレート」第4楽章が使われている。ウィーン国立バレエのソリスト、橋本清香、飯島望未、ロイヤル・ウイニペグ・バレエのアーティスト、椿井愛実、木本全優、ロイヤル・ウイニペグ・バレエのソリスト、三野洋祐が踊った。色鮮やかな衣裳を着けた5人の日本人ダンサーによる、クラシックの動きが目まぐるしくコラージュされた闊達な舞台だった。
フィナーレはK バレエ カンパニーのプリンシパル、遅沢佑介が初めて本格的に振付けた『CROIX』。音楽はチャイコフスキーの「管弦楽組曲第3番ト長調<主題と変奏>」より。出演ダンサー全員が一期一会の出会いを祝い別れを惜しんで、爽やかに踊った。
(2015年8月1日 オーチャードホール)

tokyo1509a_0531.jpg 「海賊」飯島望未、猿橋賢 tokyo1509a_0710.jpg 「レ・リュタン」堀内尚平、吉田周平
tokyo1509a_2207.jpg 「白鳥の湖」崔由姫 tokyo1509a_1131.jpg 「精密の不安定なスリル」橋本清香 tokyo1509a_1116.jpg 「精密の不安定なスリル」木本全優
tokyo1509a_0844.jpg 「白鳥の湖」崔由姫、山本雅也、杉野慧 tokyo1509a_3510.jpg 「CROIX」
撮影/小川峻毅(すべて)