ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.08.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルグ・バレエ団が、2016年3月に日本公演を行うことが決まった。演目はミュージカル『回転木馬』としても知られる『リリオム』、ガラ公演「ノイマイヤーの世界」、そして『真夏の夜の夢』。第1回のハンブルグ・バレエ団の日本公演は1986年だったので、それから30年が経過したことになる。私はその時、既にダンス雑誌を編集していたので、初来日のカンパニーの芸術監督ノイマイヤーにインタビューし、公演も取材した。この時にも『真夏の夜の夢』が上演された。パックを演じたのがガマル・グーダと言うダンサーで、人間くさい妖精でじつに良い雰囲気を出していた。他にもノイマイヤー自身が主演した『マタイ受難曲』。ゴルゴダの丘で自身を磔にする十字架を背負って歩むシーンが、今も瞼に浮かんでくるようだ。当時のノイマイヤーはまだ、ベジャールの弟分という感じで、初めての日本公演を成功させようと意気込んでいた。今では彼は世界を代表する振付家としてダンサーの声望も高い。しかしまた、ミルピエがオペラ座の舞踊監督に就任したことにより、バレエの世界地図にも変化が生じてきつつあるかもしれない。21世紀のバレエの方向を示すコンパスの針は微妙に揺れているのである。

少女の奇跡をロマンティックに描いた井上バレエ『シンデレラ』、秋元康臣と宮嵜万央里が踊った

井上バレエ団
『シンデレラ』関直人:振付

井上バレエ団の『シンデレラ』は、まず、1969年に故井上博文の振付で上演された。その後何回か上演されたが、2001年に関直人振付、ピーター・ファーマーの美術と衣装により、新たなヴァージョンが上演された。今回は、その舞台の6年振りの再演である。ちなみに前回の上演では、島田衣子がシンデレラを踊り、ゲストのパリ・オペラ座プルミエのエマニュエル・ティボーが王子を踊った。

tokyo1508a_01.jpg 王子/秋元康臣

やはり、何度観てもファーマーの美術が素晴らしく印象に残る。エメラルド・グリーンの深い色で全体を統一していたが、その色調自体がロマンティックで、物語全体のイメージを十分以上に表していた。装置のデザインも見事に物語の世界と融和していたし、衣装も素敵だった。
王子はグリンカ記念チェリャビンスク国立オペラ・バレエ劇場バレエ団に、2013年に入団した秋元康臣がゲスト出演。ボリショイ・バレエ・アカデミーに留学経験があり、2009年には井上バレエ団で『くるみ割り人形』の王子を踊っているほか、K バレエ カンパニーやNBAバレエ団でも踊っている。シンデレラはアメリカのメンフィス・バレエ団やデンマーク王立バレエ団で修行を積んだ宮嵜万央里。秋元は、見事に成長しすらりとした身体が見映え良く、落ち着いた踊りだった。宮嵜も良く気持ちの入った演技で応えた。
演出は物語のドラマ性を強調する展開の鮮やかさよりも、一人の少女のロマンティックな奇跡そのものの貴さを表すことに主眼を置いているように見えた。なかなか洒脱なセンスであり、丁寧な仕上がりだった。王宮の舞踏室のシーンも王子とシンデレラのパ・ド・ドゥの中に、魔法の瞬間を垣間見せて、「時」という逃れられない真実を的確に表わした。仙女(大島夏希)を始めとする妖精たちも、それぞれの役割をしっかりと踊っていた。前回は芦川欽也、堀登、坂本時彦が踊った3役は、継母(福島真瑠江)と姉(樫野隆幸)、妹(安斎毅)が踊り、熱演した。
音楽はプロコフィエフで、ロイヤルチェンバーオーケストラを指揮したのは、女性指揮者、冨田実里で、やわらかい響きが良かった。
(2015年7月25日 文京シビックホール 大ホール)

tokyo1508a_02.jpg 井上バレエ団『シンデレラ』