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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.07.10]

コジョカルがニキヤを踊り、シクリャローフがソロルを踊って初共演、東京バレエ団『ラ・バヤデール』

東京バレエ団
『ラ・バヤデール』ナタリア・マカロワ:振付・演出(マリウス・プティパの原振付による)

東京バレエ団が、第14回世界バレエフェスティバルの前夜祭として、マカロワ版『ラ・バヤデール』を上演した。古代インドを舞台にした神秘的でエキゾティズム溢れる作品で、神殿の舞姫ニキヤと勇士ソロルという恋仲の二人に、彼を娘ガムザッティの婿に迎えようとする国王ラジャやニキヤに横恋慕する大僧正らがからみ、悲劇を招く物語である。

tokyo1507b_01.jpg 撮影:長谷川清徳 (すべて)

マカロワ版は、プティパのオリジナルに基づき、ガムザッティとソロルの結婚式とそれに続く神殿崩壊の最終幕を復活させたが、それによりソロルやガムザッティらの心理がより深く掘り下げられ、ドラマとしての迫力も増し、悲劇性も高まった。バレエ団としての初演は2009年で、今回は3年ぶりの上演。初日と3日目に、英国バレエ界で活躍目覚ましいアリーナ・コジョカルとロシアのマリインスキー・バレエの俊英ウラジーミル・シクリャローフをニキヤとソロル役に招き、2日目はバレエ団のスター、上野水香と柄本弾が主役を務めた。コジョカルは前回の2012年にもニキヤ役で客演しており、一方のシクリャローフは、昨年、アメリカン・バレエ・シアターでマカロワ版のソロルを踊っている。このふたりが共演するのは今回が初めてというので、初日の舞台を観た。

コジョカルは、舞姫として威厳を漂わせて踊り、大僧正には毅然とした態度で接し、ソロルとの密会では流れるように舞った。ソロルとの別れを迫るガムザッティをナイフで襲う場面では、殺意を抱いた自分が信じられないというように走り去った。ガムザッティとソロルの婚約の祝宴で、二人を恨めしく見やりながら踊り始めたニキヤだが、毒蛇が隠されている花籠をソロルからの贈り物と言われて素直に喜びを滲ませて踊る姿と、自分を顧みないソロルに絶望して解毒剤を飲まずに息絶える姿のコントラストがきいていた。幻影となったニキヤとソロルのデュエットでは、透明感のある静謐な踊りでソロルの魂も浄化するように映った。場面毎に変わるニキヤの心情を繊細に踊り分けたコジョカルだが、すべては抜群のテクニックに裏打ちされていた。力強いジャンプや鮮やかなシェネなど、実に見事だった。

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シクリャローフは均整のとれた身体で見栄えはするのに、最初に登場した時は衣裳のせいか颯爽さが足りないように思えた。その後は、ダイナミックな跳躍やパワフルな回転技で、勇士ぶりを発揮。一方で、ニキヤに愛を誓いながらガムザッティの美貌に惑わされる心の弱さを素直に表現し、婚約の祝宴では、ガムザッティの冷たい視線に射すくめられると、うしろめたさを感じながら状況に流されてしまう不甲斐なさを滲ませた。けれどそれが、ニキヤの幻影と踊るソロルの純真な心を引き立ててもいた。ただ、ソロの踊りは良いとして、コジョカルやガムザッティとのデュエットでは、初めて組むからか、サポートがややぎこちなくみえた。

この日のガムザッティは奈良春夏で、ラジャの娘らしく勝気に誇らしげに振る舞い、フェッテも華やかにこなした。そのため、婚礼の儀式でニキヤの幻影におびえ、罪の意識にさいなまれる姿との落差が際立った。大僧正は木村和夫で、ニキヤの美しさに囚われて神職にあることを忘れ、自制心を失ってしまう様を直情的に表現した。ブロンズ像の梅澤紘貴は集中力を保ち、パワフルな跳躍や様々な回転技を切れ味鋭くこなして期待に応えた。「影の王国」の群舞も訓練が行き届いており、ポーズも手足の動きもきれいに揃い、幻想的な白いバレエの世界を現前させた。それにしても、この作品では登場人物それぞれの愛と憎しみや思惑が複雑に交錯している。そんな入り組んだドラマなのに、踊りとマイムで緊張感を途切らすことなく連綿と綴られていった。そこに、マカロワの手法の素晴らしさを改めてみた思いがした。
(2015年6月11日 東京文化会館)

tokyo1507b_02.jpg tokyo1507b_03.jpg tokyo1507b_04.jpg
tokyo1507b_06.jpg 撮影:長谷川清徳 (すべて)