ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.07.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
1982年にバランシンに認められて堀内元はアジア人として始めて、ニューヨーク・シティ・バレエ団に入団し、やがてプリンシパルダンサーに昇格した。2011年にデヴィッド・ホールバーグがアメリカ人として、初めてボリショイ・バレエ団にプリンシパルダンサーとして迎え入れられ、大きな話題となった。
この二つの出来事はバレエの歴史の中でどちらが大きな出来事だろうか? もちろん、ひいき目に見たり単純に比較すべきではない。
ホールバーグはアメリカでワガノワ・スタイルの教育を受けている。また、マラーホフを育てた教師として知られるピョートル・ペーストフの教えも短期間であるが受けている。そうした点から見ても、じつはボリショイ・バレエに受け入れられる素地はある程度備えたいたのではないか、と思われる。
堀内元の場合は、ローザンヌ・コンクールでスカラシップを得て、アメリカン・バレエ・スクールに留学し道を拓いた。ここで堀内は名教師として舞踊史上に名を残す、スタンリー・ウィリアムズの薫陶を受け、バランシンに認められてニューヨーク・シティ・バレエ団に入団した。私見で申し訳ないが、30年前にニューヨーク・シティ・バレエ団の門を押し拓いた堀内元のほうが、舞踊史上の大きな出来事だったのではないかと、どうしても感じてしまうのだが、どうであろうか。

米沢唯がムンタギロフとパートナーを組んで踊った、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』

新国立劇場バレエ団
『白鳥の湖』牧阿佐美:演出・改訂振付、マリウス・プティパ、レフ・イワノフ:振付

新国立劇場バレエ団の『白鳥の湖』は牧阿佐美の演出・改訂振付、装置・衣裳は南アフリカ出身でイギリスで踊り、バレエのデザインを手掛けるようになったピーター・ガザレットである。2006年に初演され、新国立劇場バレエ団のレパートリーとなり、再演を重ねている。

tokyo1507a_03.jpg 撮影/瀬戸秀美

米沢唯のオデット/オディール、ワディム・ムンタギロフのジークフリート王子で観ることができた。3組のキャストが組まれていて、他は小野絢子/福岡雄大、長田佳世/奥村康祐だった。
ムンタギロフは落ち着いた演技で1幕を終えた。小顔でスタイルが良く温和な性格が自然と顕れているような佇まいを見せた。2幕では米沢のオデットとアダージオを踊ったが、お互いにパートナーとしてのバランスもなかなか良く、全体に情感のある良い演舞だった。ただ米沢のほうが少しだけ固く感じられた気がしないでもない。米沢の描くラインは正確だった。だが人間の王女が白鳥に姿を変えられ、なんとか人間の姿に戻ろうとして願っているが、どうしてもその希望を見出すことができない、という悲しみの余情がその踊りのラインにもう少し残って欲しい、と思った。客席から勝手なことを言わせてもらうと、感情の表出をさらにこころの深いところに蓄えて踊って欲しいと願う。また、そうした感想をもったからだろうか、3幕の蠱惑的な表情も、最も絶望的な4幕ももう少し表情を強調しても良いのではないだろうか。もちろん、基本的なスタイルは良くできているのだが、敢えて言うと、それぞれの幕ごとの変化をもっと顕著に強調して表現して欲しい、と期待を込めて感じた。
道化(八幡顕光)も健闘し良く踊っていたが、全体を引っ張って音楽と合体してしまうまでの強力なエネルギーは、いまひとつ感じられなかった。特に1幕は道化のみならず登場人物全員で、音楽を圧倒するくらいの舞踊のエネルギーを感じさせて欲しいとも思った。
ルースカヤを踊ったのは、今年3月にバレエ研修所を終了したばかりの木村優里(ゆり)だった。7月1日に新国立劇場バレエ団にソリストとして入団したと発表された(今年ソリストとして入団したのは中家正博と彼女の二人)。木村優里は、大原芸術監督の抜擢に応えて、大きな頭の飾りを着けたルースカヤのヴァリエーションを落着いて踊り、なかなかチャーミングで観客を魅了した。大いに期待が持てる新人ソリストの出現だが、欲をいえば、音楽より先に動くくらいの大胆な気持ちで踊ってもらいたい、と思ったがこれもまた、観客の勝手な言い分である。
(2015年6月10日 新国立劇場オペラハウス)

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新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』 撮影/瀬戸秀美