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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.06.10]

裸足でシンデレラの心を活き活きと綴った平田桃子、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
『シンデレラ』デヴィッド・ビントリー:振付

4年振りに来日した英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団。前芸術監督、ピーター・ライトの振付による『白鳥の湖』(1981年初演)に続く演目は、現芸術監督、デヴィッド・ビントリーによる『シンデレラ』(2010年)で、こちらは日本初演だった。ビントリー版『シンデレラ』の特色は、シンデレラを舞踏会以外は裸足で踊らせていることと、いわゆる “ガラスの靴” がでてこないこと。“ガラスの靴”の代わりに用いたのは、シンデレラの母の形見である美しい舞踏会用の靴。シンデレラは、家に入り込んで暖を取る貧しい老婆(実は母の精霊)が裸足なのを見かねて、宝物にしている母の形見の靴を差し出すが、そんな優しさがマジックを呼び起こすという展開である。シンデレラのキャラクターにも膨らみをもたせた。辛い境遇にあっても素直さを保ち、夢や希望を失わない強さも備えた自立する女性というふうに。そうしたシンデレラの内面を、裸足で踊ることで象徴してみせた。そして最後、王子の愛を得たシンデレラは、それまで心の拠り所としてきた形見の靴を仙女に返すのである。王子も人間の本質を見抜く力のある人間として描いているようで、そこにも、おとぎ話の世界を現実に引き寄せるようなビントリーの視点が感じられた。

tokyo1506c_01.jpg photo : Kiyonori Hasegawa

冒頭、シンデレラの実母の葬儀と父と子連れの女性との再婚を伝えるプロローグが置かれていたが、続く第1幕では父親も既に亡く、意地悪な継母や義姉たちにこき使われているシンデレラの境遇が生々しくダンスで描かれた。二人の義姉を男性ではなく女性に演じさせたのは、シンデレラの存在感を弱めたくないからというが、ユニークなのは二人を「やせっぽち」と「ふとっちょ」という対極に設定したこと。その対比だけでもおかしみを生じさせるが、性格も見た目も普通ではないという皮肉も効いている。仙女や四季の精たちがシンデレラを着飾らすシーン、宮殿の舞踏会、落とされた靴の持ち主探しの騒動、王子との再会へと場面は滑らかに紡がれ、王子とシンデレラの幸せなデュエットで幕が閉じられた。四季の精たちの場面や舞踏会、最後のシーンは星の輝く夜空をイメージした背景が美しく、また、カエルの御者やトカゲの従僕、ネズミのお小姓たちなど、愛くるしい着ぐるみたちにはビントレーのこだわりが見て取れ、微笑ましく感じた。

ダブルキャストのうち、平田桃子とジョセフ・ケイリーが主演した日を観た。先に上演された『白鳥の湖』でも、オデット/オディールに予定されていたダンサーの怪我のため、平田が代演したのを観たが、現在の平田にはシンデレラのほうがピッタリくる。裸足でも高くジャンプし、つま先をしなわせ、心の内を丁寧に表現していた。特に、箒に目鼻を描き、パートナーに見立てて踊るシーンがいじらしくも、けなげにも映った。トゥシューズを履いた舞踏会では、一転して王子と流麗にパ・ド・ドゥを踊り、リフトされる姿もきれいだった。ケイリーはいかにも礼儀正しい王子という雰囲気。平田との相性も良さそうで、難易度の高いリフトを軽やかにこなした。やせっぽちの義姉のデリア・マシューズと、詰め物をしたふとっちょの義姉のアンジェラ・ポールは、意地悪ぶりや我がままぶりを存分に発揮し、不恰好に踊ってみせる演技も絶妙だった。春夏秋冬の四季の精たちは、回転や跳躍など、それぞれ個性を持たせた振りを卒なくこなしていた。『シンデレラ』には、フレデリック・アシュトンやマギー・マラン、ジヤン=クリストフ・マイヨー、ルドルフ・ヌレエフらによる独創的なヴァージョンがあるが、ビントリー版は裸足のシンデレラや靴でオリジナリティーを打ち出しながらも、全体としてはオーソドックスな構成で、観る者をファンタジーの世界にいざなうものだった。
(2015年5月2日 東京文化会館)

tokyo1506c_02.jpg photo : Kiyonori Hasegawa tokyo1506c_03.jpg photo : Kiyonori Hasegawa