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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.05.11]

ラストシーンが衝撃的だった『白鳥の湖』、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団

英国バーミンガム・バレエ団
『白鳥の湖』レフ・イワノフ、マリウス・プティパ、ピーター・ライト:振付 ピーター・ライト、ガリーナ・サムソワ:演出

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団が4年振りに来日した。もともとはロンドンの英国ロイヤル・バレエ団と前身を同じくする姉妹カンパニーである。ツアーカンパニーとして活動した時期などを経て、1990年には拠点をバーミンガムに移し、名称も英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団と改めた。1995年にはピーター・ライトの後任としてデヴィッド・ビントリーを芸術監督に迎えた。カンパニーにとって、二重の意味で記念の年に当たる2015年に組まれた日本公演である。演目は、ライト振付の『白鳥の湖』(1981年初演)とビントリー振付の『シンデレラ』(2010年)という、新旧の芸術監督による作品だった。ビントリー版『シンデレラ』は日本初演と話題性は高いが、5月に入ってからの上演なので、こちらは6月号でレポートしたい。

tokyo1505b_1432.jpg 撮影:長谷川清徳

さて、『白鳥の湖』。初日と3日目はオデット/オディールをジェンナ・ロバーツが務め、ジークフリート王子に英国ロイヤル・バレエ団のマシュー・ゴールディングが客演する予定だったが、ロバーツがリハーサル中に足を捻挫したため降板した。急なことだったようで、初日は第1幕だけゴールディングが王子役を踊り、第2幕以降は2日目の主役のペア、セリーヌ・ギッテンズとタイロン・シングルトンに代わるという異例の措置が取られた。私が観た3日目は、オデット/オディールは平田桃子の代演で、王子役は予定通りゴールディングだった。急なことで、止むを得ない対応だったのだろう。

ライト版『白鳥の湖』は、緻密なドラマの構築と綿密な王子の心理描写に定評があり、最大の特色は最初と最後に顕著だ。冒頭に挿入された国王の葬列は王子が置かれた状況を端的に物語るもの。女王が王子に3人の姫君の肖像画を見せて花嫁を選ぶよう言い渡すシーンと合わせて、早急に妃をめとって王位を継がなければならなくなった王子の憂鬱な心を伝えていた。それだけに、王子の心に寄り添い、気を晴らそうと世話を焼く友人ベンノの存在が強調されてもいた。また、オデットが王子に身の上を語るマイムもあまり簡略化せずに入れており、物語を分かりやすくしていた。衝撃的なのはラストだ。舞台後方の天国で、湖に身を投げたオデットと王子が寄り添う姿と、舞台前面で王子の亡きがらを抱えて嘆き悲しむ友人ベンノの対比が強烈で、より一層印象を強めていた。国王の死で始まり、王子の死で終わる物語。そのためか、喪服の女王をはじめ、全般に黒が衣裳や装置の基調になっていたのも頷けた。

tokyo1505b_1680.jpg 撮影:長谷川清徳

ジークフリート役のゴールディングは、長身で舞台映えがするだけでなく、しなやかにジャンプしてはきれいに着地し、回転技も優雅に見せた。第1幕のソロでは沈んだ心を上手く伝えていたが、第2幕のオデットとの出会いや、第3幕の舞踏会のオディールとのやりとりは、急なパートナーの交代のせいか、やや淡泊な感じを受けた。だが第4幕でのオデットとのパ・ド・ドゥではしっとり情感を滲ませ、ロットバルトとの戦いではダイナミックな跳躍を、空中でのフォームも美しくこなして、さすがと思わせた。一方、『シンデレラ』のみ主演の予定だった平田はよく健闘したと思う。バレエ団の中にあっては小柄なためか、オデットで登場した時のインパクトは弱かったが、細くて長い腕を繊細に操って踊り演じるうちに存在感を増していった。ただ、オディールでは、したたかさが今一つ。それでもバランスを長く保ち、グラン・フェッテでは少々不安定な部分もあったがトリプルも披露してみせた。今後の進化が期待されるダンサーである。

ベンノを演じたチュウ・ツ・チャオは細かな演技のほか、第1幕で二人の高級娼婦と踊るパ・ド・トロワでは爽快なマネージュを見せた。そのパ・ド・トロワで共演したアンジェラ・ポールと水谷実喜は明るく軽快に踊った。舞踏会では各国の民族舞踊に加えて、ハンガリー(エリス・シー)、ポーランド(サマラ・ダウンズ)、イタリア(水谷実喜)の姫君たちがソロを披露したが、特にダウンズのシャープな演技が印象に残った。白鳥の群舞が18人なので、やや寂しい感じはしたが、第4幕で立ち込めるスモークの中から白鳥たちが身を起して姿を現すシーンは幻想的だった。プリンシパルやソリストに個性的な逸材を擁しているだけに、今後の展開が気になるところだ。
(2015年4月27日 東京文化会館)

tokyo1505b_1962.jpg 撮影:長谷川清徳