ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.05.11]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
日本バレエのプリマバレリーナとして愛され、バレエ団を率いてロシア・バレエやクルベリー作品の導入など多くの功績を残された、谷桃子さんが4月26日、逝去された。享年は94歳だった。
さらに5月2日には、ボリショイ・バレエのダンサーとして世界の舞台で踊り、共産主義政権下でも積極的に新作の企画・制作の取り組み、『カルメン組曲』(主演)『アンナ・カレーニナ』(振付・主演)『仔犬をつれた奥さん』(振付・主演)他のロシア・バレエを一段と深化させる作品を創った、マイヤ・プリセツカヤが亡くなった。享年は89歳だった。
私はプリセツカヤのモスクワの自宅に写真・資料などを受け取りに行ったり、ラトマンスキー振付の『イワンと仔馬』初演の際にマリインスキー劇場で会ってお話をうかがうなど、いろいろとお目かかる機会があったので、とりわけ感慨が深い。プリセツカヤの人生がどれほど苛烈なものであったか、バレエの舞台をみているだけでは決して理解できない。
また、谷桃子さんも世界大戦の最中を生き、未だバレエ芸術が朧げにしか理解されなかった時代にバレエ団を設立運営されたことは、どれほど厳しい環境に身を置かれたのか、大いに察することができる。
そうした先達の過酷な環境に耐える情熱と創作の意欲があったからこそ、今日の舞台芸術としてバレエが成立・繁栄しているということを、この機会に改めて肝に銘じたいと思う。

ローラン・プティのエスプリがシュトラウスの名曲に乗って活き活きと踊られた『こうもり』

新国立劇場バレエ団
『こうもり』ローラン・プティ:振付

ヨハン・シュトラウスII世のオペレッタの傑作をローラン・プティが巧みに舞踊化した、新国立劇場バレエ団の『こうもり』(ヨハン・シュトラウスII世:音楽、ローラン・プティ:振付)は人気があり、度々再演されている。

tokyo1505a_1136.jpg 小野絢子、福岡雄大
撮影/鹿摩隆司(すべて)

今回は小野絢子のべラ、ABTプリンシパルのエルマン・コルネホのヨハン、福岡雄大のウルリックというキャストだった。福岡雄大はヨハンにも配されていたが(26日)、ウルリック役では、メイクも白塗りにして(2幕では両頬にピエロ風の赤丸まで付けた)コミカルに、いつもの王子役ではない役どころで奮闘した。プティはギャロップ風の快適なテンポで第1幕を振付けているが、その中でもウルリック役はさらにスピーディーに頭を回転させて動く。彼は亭主に不満を持つ人妻に密かに恋しているが、二人を上手く元の鞘に収めるために呼び出された、というアンヴィバレンツな屈折した演技も求められる役だ。べラよりはいつも一歩先の表現をしなければならない。表情も極端にして動きとともに変化させなければならない。
小野絢子のベラは特にこの作品では光っている。コルネホのヨハンと福岡雄大のウルリックと別々に距離をとりながら、べラ自身の一貫したペースを守らないと表現にならないし、自身の魅力を最大限に発揮して気持ちが離れつつある夫ヨハンを自家薬籠中のものにしなければならない。この役を観客に説得力をもって演じることは、やはり難しい。そうしてみるとヨハン役は、夜な夜なこうもりに変身するという得体の知れない神秘的な役ではあるが、意外と一面的で演じ易いのかもしれない、と思った。コルネホにとっては、そのまま演じれば良かったかもしれない。

2幕からは絢爛たるワルツに乗って物語が展開していく。プティの演出も振付も見事。主役とコール・ドの入れ替わりなどは、もう名人芸と言っても良い。すべてがシュトラウスのワルツのリズムに流れるように流麗に繰り広げられ、飽きるところが終幕までまったくない。
軽妙洒脱でありながら、神秘的な女性の魅力と男性の欲望がソフィストケイトされて表されている。それをまた、新国立劇場バレエ団のダンサーたちが、品良く踊っていて素晴らしいのだ。
装置もシンプルだが、狭く簡単に抜け出せそうにない外の世界を象徴する窓の形、豪華さを感じさせるがテーブルと椅子以外何もないmaximの室内、そのシンプルさと良くマッチした衣装とデフォルメされた動きとが、音楽とともにアンサンブルを巧みに奏でていた。チャールダッシュやフレチカンカンの振付も洗練された素敵なものだった。メイドとウルリックのやりとりも気が利いていて洒落ている。つまりはローラン・プティのエスプリが、ヨハン・シュトラウスの名曲を得て、活き活きと表現されている作品なのである。
私としては、奥村康祐のウルリックを見たかったのだが、残念ながらキャストされていなかった。
(2015年4月13日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1505a_1261.jpg 小野絢子、福岡雄大 tokyo1505a_1461.jpg 小野絢子、エルマン・コルネホ tokyo1505a_1472.jpg 小野絢子、エルマン・コルネホ
新国立劇場バレエ団『こうもり』撮影/鹿摩隆司(すべて)