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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.04.10]

『海賊』を明快なストーリーと説得力のある舞台に新制作した、谷桃子バレエ団

谷桃子バレエ団
『海賊』エルダー・アリエフ:脚本・演出・振付(M.プティパの原振付を含む)、イリーナ・コルパコワ:監修

谷桃子バレエ団が『海賊』を新たに製作して上演した。キーロフ・バレエ団(現マリインスキー・バレエ)でプリンシパル・ダンサーとして踊ったエルダー・アリエフが脚本、演出、振付けたヴァージョンで、プティパの原振付を含む、とクレジットされている。やはりキーロフ・バレエ団のプリマバレリーナだったイリーナ・コルパコワが監修している。

tokyo1504c-01.jpg メドーラ/佐藤麻利香、コンラッド/檜山和久
撮影/根本浩太郎

『海賊』は、1856年にパリ・オペラ座でバイロン詩編を原作として、サン・ジョルジュとジョゼフ・マジリエが台本を書き、マジリエが振付けて初演された。音楽はアドルフ・アダンだった。その後、ジュール・ペローがロシア、ペテルブルクで上演したが、この時マリウス・プティパがコンラッド役を踊り振付も加えた。さらにプティパが改訂を重ね、プティパのヴァージョンが基本としてロシアで受継がれた。音楽もレオ・ドリーブ、リカルド・ドリゴ、チェザーレ・プーニ、オルデンブルク公爵他の曲が加えられた。その後アグリッピーナ・ワガノワ、ピョトール・グーセフ、コンスタンチン・セルゲイエフ、アレクセイ・ラトマンスキー、ファルフ・ルジマトフ(改訂演出)、熊川哲也などが改訂振付を行っている。じつに様々な舞踊家の手が加わっていて、登場人物、ヴァリエーション、パ・ド・ドゥなどが、その時々に挿入されているので、『ジゼル』などと異なって物語の原型が定かではない。
アリエフはそうした点に鑑みて「複雑で入り組んだ物語をもっと凝縮して分かり易いストーリーに簡素化」し、「コンラッド役の性格を強く活発でエネルギッシュな人物」に膨らませた、という。そして従来の『海賊』の主役の1人であるアリをカットしている。アリは元々の物語には登場していなかった、と言われる。恐らくは『白鳥の湖』の道化のように、後世で新たに付け加えられた登場人物なのかも知れない。単にデヴェルティスマンを加えるのと異なり、新たに主要な登場人物を加えるということは、原典の世界にに対してそれだけの理由もあるのだが、それはさておき、アリをカットしたことにより、コンラッドがよりヒロイックな存在となった。そして民衆の英雄の純愛が華やかな彩りの中に謳歌される。反対にザイードは権力者として徹底的に揶揄される、という構図が垣間見えた。
また、アリエフ版のコンラッドを観ていて、グーセフ版に基づいてルジマトフが改訂演出したヴァージョンのコンラッドを思い出した。このヴァージョンでは、アリは登場するのだが、アリを得意役としていたルジマトフがコンラッドを踊っているのだ。時代は異なるが、キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)で踊ったアリエフとルジマトフには、どこか通底するものがあるのだろうか。
コンラッドは檜山和久、メドーラは佐藤麻利香、ランディゲムは山科諒馬、ギュリナーラは加藤未希、サイード・パシャは近藤徹志というキャストだった。それぞれが意欲的に踊り、舞台には活況があった。特にメドーラを踊った佐藤麻利香はふくよかな魅力を感じさせ、存在感があった。群舞にも新しい舞台を創ろう、という気持ちがこもっていたので、華やかさが感じられた。
従来の作品と異なる物語の舞台を、乱れなく相応の説得力を持って仕上げるのは、なかなかたいへんなことだ。ダンサーとスタッフに理解力と受容する余裕がなければできない仕事である。かつてスラミフィ・メッセルの指導により『リゼット』『ドン・キホーテ』『バヤデルカ』といったボリショイ・バレエのスタイルを受け入れた谷桃子バレエ団の伝統が、世代を越えて生きていて今日の成功を導いたに違いない。
(2015年3月21日 東京文化会館)

 

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tokyo1504c-10.jpg tokyo1504c-12.jpg
tokyo1504c-05.jpg 撮影/根本浩太郎(すべて)