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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.04.10]

ザハロワとボッレの日本初共演が実現し、珠玉の演技を披露した東京バレエ団公演

東京バレエ団
『ジゼル』レオニード・ラヴロフスキー:振付

東京バレエ団が、創立50周年記念シリーズの締めくくりとして、ラヴロフスキー版『ジゼル』を上演した。一作年12月の『ザ・カブキ』で幕を開けた記念シリーズも、このロマンティック・バレエの名作『ジゼル』で10作目。昨年夏、アーティスティック・アドヴァイザーに迎えたウラジーミル・マラーホフが指導にあたる3作目の最後の作品でもあった。主役はダブルキャストで、“ボリショイの名花”スヴェトラーナ・ザハロワと“イタリアの貴公子”ロベルト・ボッレのペアと、バレエ団期待の若手、渡辺理恵と柄本弾が組む公演。ザハロワはボリショイのほか、ボッレと同じくミラノ・スカラ座バレエ団のエトワールを務めているが、二人の共演は日本では初めてとあって、早くから注目された。

tokyo1504b_9947.jpg ザハロワ、ボッレ
撮影:長谷川清徳 (すべて)

黒いマントを翻しながら現れたアルブレヒト役のボッレは、確かにギリシャ彫刻を思わせる、均整のとれた逞しい容姿の持ち主である。質素な身なりでも、貴族のような風格を漂わせた。ザハロワもまた見栄えのする恵まれた容姿の持ち主だが、ここでは清純なジゼルになりきり、胸をときめかせてアルブレヒトの姿を探す様も初々しかった。首の傾げ方やちょっとした手や指先の仕草で思いを伝えていたのはさすが。ボッレとは、踊りだけでなく、細かな演技のやりとりも息が合っていた。ジゼルが正気を失い、何か脅え突き動かされるように乱れる様は、オーバーな演技ではなかったが、哀れを誘った。ボッレのアルブレヒトは、いかにも恋多き青年のイメージ。素直にジゼルに惹かれたわけで、だから婚約者の前ではジゼルを無視して体裁を取り繕うが、ジゼルが狂気に陥ると事の深刻さに愕然とし、激しく後悔するというパターン。アルブレヒトがジゼルへの愛に気付いたことが、第2幕でのボッレの演技にスムースに繋がり、ウィリとしてのザハロワの演技も光った。

ウィリとなったザハロワは、見事に片足で高速回転をこなし、高々と脚をあげ、柔らかなデヴロッペや空中を漂うような跳躍を見せ、ボッレにリフトされてのポーズもこの上なく美しく決めた。人間ではなくなったウィリとしての透明感を出しながら、アルブレヒトへの思いをしっとりと滲ませた感情表現も際立った。一方のボッレは、百合の花束をジゼルをいとおしむかのように大事に抱えて登場する場面から、真摯なアルブレヒトだった。ジゼルの気配に気づき、心を尽くして彼女と踊るのが、その万全のパートナーリングにも見て取れた。自身も鮮やかなテクニックを披露したが、特に終盤のアントルシャ・シスは通常よりはるかに多く跳び続けたにもかかわらず、同じ高さを保ち、足先も美しく、着地も乱れず、まさに驚異的。そこにアルブレヒトの心の叫びがこもっていたら、もっと感動しただろうにとは思ったが、これは無理な注文かもしれない。だが、ジゼルが消えた墓で泣き崩れ、彼女が残した一輪の花に口づけし、佇む姿は胸を打った。

tokyo1504b_2938.jpg ザハロワ、ボッレ tokyo1504b_3171.jpg ザハロワ、ボッレ

東京バレエ団のダンサーたちは、人気スターを迎えたのに加え、マラーホフの指導を受けたこともあってか、皆、張り切っていたようだ。この日のヒラリオンは森川茉央だったが、ジゼルへの想いは抑えきれないといったように、少々武骨だが直情的な若者を熱っぽく演じた。第2幕でウィリたちにつかまってからの、森川の体当たりの演技は冴えていた。ミルタ役の奈良春夏は、丁寧な端正な踊りをみせたが、ウィリの女王としての凄みが弱かったようだ。バチルド姫を演じた吉岡美佳は気品を漂わせ、自身もジゼルとして舞台に立っただけに、演技の間合いもこなれていた。第1幕の「ペザントの踊り」は、ウラジーミル・ワシーリエフ振付の「パ・ド・ユイット」として8人の男女により踊られるが、みな安定していて、質の高さがうかがえた。第2幕のウィリたちは魔性のような不気味さは希薄だったが、群舞はきれいにそろっていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。今回の『ジゼル』で、東京バレエ団は創立50周年記念シリーズの幕を閉じたが、古典も現代作品も柔軟にこなし、団員たちの世代交代も進んでいることを改めて印象づけた。8月には斎藤友佳理が芸術監督に就任するが、彼女の下でバレエ団がさらにどのような発展を遂げるか、大いに期待したい。
(2015年3月12日 ゆうぽうとホール)

tokyo1504b_0153.jpg 渡辺理恵、柄本弾、:梅澤紘貴 tokyo1504b_4102.jpg 渡辺理恵、柄本弾
tokyo1504b_0417.jpg 渡辺理恵、柄本弾
撮影:長谷川清徳 (すべて)