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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.02.10]

古代神話時代を舞台に音楽とダンスが自立しながら融合するオペラ『水炎伝説』

神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2015
『水炎伝説』一柳慧:作曲、中村恩恵:演出・振付・美術

神奈川県民ホールが開館40周年記念に、古代神話時代を舞台にした一柳慧のオペラ『水炎伝説』を初演した。大岡信の台本を基に混声合唱とピアノのために作曲した同名の作品を、管弦楽によるオペラ版に改訂したもの。
今回は、入念な作品作りで知られるダンサー・振付家の中村恩恵が、振付に加えて初めてオペラの演出を手掛けるのが話題で、中村と共演を重ねるダンサーの首藤康之も、演出・振付補のほか、録音による語りで参加した。

tokyo1502e_01.jpg 「水炎伝説」撮影/青柳聡

『水炎伝説』は、暁の瞬間と美の化身である「アカトキ乙女」と、その姉で闇と永遠の化身である「トコヨ乙女」、アカトキに求愛する昼の国から来た「白い顔の男」と夜の国から来た「黒い顔の男」を巡り展開する。男たちは、アカトキの母「老女」から、暁の瞬間に川面の白鳥を射た者に娘をめとらせると告げられ矢を射るが、白鳥がアカトキだったと知り、彼女を追って黄泉の国に行き、争い続ける。その争いで目覚めさせられた醜い姿のトコヨは、争いの原因である生き別れの妹、アカトキを呼び寄せ、自分たちに与えられた運命を語り、美とは儚く永遠の生命を得られないものと諭し、限りある命を生きるよう地上へ帰す。1幕3場から成る40分の小品で、物語の骨格はシンプルだが、生と死、光と闇、美と醜、瞬間と永遠、現世と常世など、相反するものが様々に対置され、示唆することは奥深い。

会場が小ホールのためか、大掛かりな装置はなく、暁を象徴する水炎も後方のパイプオルガンの一部を照らして暗示する程度で、抽象的な提示がむしろ物語のイメージをふくらませた。
板倉康明の指揮する特別編成のアンサンブルは上手の袖で演奏したが、2階で歌う声楽アンサンブルの声は天から降り注ぐようで、空間の広がりを感じさせた。ソリストは4人。アカトキ乙女はソプラノの天羽明惠で、澄んだ透明感のある声を響かせ、老女とトコヨ乙女の二役を務めたメゾソプラノの加賀ひとみは、巧みに声質を変えながら広い音域をカバーした。白い顔の男を演じたテノールの高橋淳の張りのある瑞々しい声と、黒い顔の男のバリトンの松平敬の重量感のある野太い声の対比も際立った。
ダンサーは、渡辺レイ、後藤和雄、武石光嗣という経験豊かな3人。白い薄地のスカートのようなものを身に付け、上半身は裸で、アカトキや男の分身のように絡み演じた。歌唱シーンにダンスが加わる場合、ダンスが歌唱を損なうようでわずらわしく感じることはよくあるが、ここでは歌の心に溶け込むように踊られ、歌い手が棒立ちに近い状態でもダンスが加わることで不自然さを感じさせなかった。それでも大部分は“音楽が主でダンスは従”という形で進行した。だが、終わり近くのトコヨがアカトキを追いやり、二人の男と退場するシーンだろうか、渡辺が後藤と武石の間を行き交うように踊る様は魂の昇華を表すようにも映り、ダンスの雄弁さを印象づけ、ダンスが音楽と拮抗し、自立する存在であることを示してもいた。
神奈川芸術文化財団の芸術監督を務める一柳は、自身のオペラを含め、音楽とダンスなど、異ジャンル芸術のコラボレーションを積極的に試みてきたが、『水炎伝説』は優れた成功例といえるだろう。
(2015年1月18日 神奈川県民ホール 小ホール)

tokyo1502e_02.jpg 「水炎伝説」撮影/青柳聡 tokyo1502e_03.jpg 「水炎伝説」撮影/青柳聡