ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2014.12.10]

音楽とダンスが一体となり人類愛と世界の調和を讃美、ベジャール振付『第九交響曲』

東京バレエ団‐モーリス・ベジャール・バレエ団共同制作
ベートーヴェン『第九交響曲』モーリス・ベジャール:振付

東京バレエ団が創立50周年記念シリーズの最大のプロジェクトとして、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)と共同でベジャール振付のベートーヴェン『第九交響曲』を上演した。演奏はズービン・メータ指揮のイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団(IPO)で、独唱者には著名なオペラ歌手(ソプラノのクリスティン・ルイス、メゾ・ソプラノの藤村実穂子、テノールは代演の福井敬、バスはアレクサンダー・ヴィノグラードフ)を迎えるという豪華な布陣。ダンサーは、両バレエ団の団員と最終楽章に加わるアフリカン・ダンサーも含めて80人を超え、これにオーケストラと独唱者、栗友会合唱団を合わせると、総勢350人になるという。
この『第九交響曲』は、1964年、ベジャールが37歳の時、BBLの前身である二十世紀バレエ団により初演されたもので、今年がちょうど初演50周年。また今年はスイスと日本の国交樹立150周年に当たるが、BBLがスイスのローザンヌを拠点としていることから、これを記念する催しとしても位置付けられていた。幾つもの記念年が重なり、この壮大なスケールの公演が実現したのだろう。日本では、1999年にパリ・オペラ座バレエ団が日本初演して以来である。3公演のうち、最終公演を観た。

tokyo1412b_1183.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)

オーケストラは舞台後方の壇上に、合唱はその両脇に配され、床に描かれた大小の円や様々な直線は音符を記す五線のようにも見えた。IPOの終身音楽監督であるメータとBBLの芸術監督ジル・ロマンが握手してパフォーマンスが始まった。プロローグではロマンがニーチェの『悲劇の誕生』のテキストを力強く朗読し、ベジャールがひも解く『第九交響曲』の理念を訴えた。朗読に西洋のパーカッションと民族楽器のボンゴを絡ませたのは暗示的。ベジャールは四つの楽章を、地・火・水・風という世界を構成する四大元素に描き分け、これに人間の気質を重ね、また衣裳の色を褐色・赤・白・黄とすることで四つの大陸を象徴させてもいるそうだ。第1楽章は東京バレエ団。女性は大地を思わせる褐色のレオタードで、男性はタイツだけで上半身裸。寝そべったダンサーたちが音楽に合わせてシンプルな動作を繰り返すシーンは微笑ましくも感じたが、音楽が進行するにつれ、生命が脈打つような躍動感あふれる群舞を展開し、柄本弾と上野水香が力をみなぎらせて渾身のデュエットを踊ってみせた。
第2楽章はBBLのダンサーで、東京バレエ団の女性が一人だけ加わっていた。大貫真幹とキャサリーン・ティエルヘルムが中心になり、全身からパワーを発散させ、炎のように激しく燃焼してみせた。BBLダンサーの底力を感じさせたが、柔軟かつ強靭な身体性を発揮した大貫のソロも印象に残った。

第3楽章もBBLのダンサーが主体。この楽章は水のイメージだが、衣裳は白で、裸足で床を滑るように踊られた。エリザベット・ロスとジュリアン・ファヴローのベテランが組み、しっとりと安らぎに満ちたデュエットを奏でた。大柄な二人だが、繊細さが滲み出ていて、第2楽章との対比が顕著だった。
合唱が入る第4楽章は風のイメージで、導入部でオスカー・シャコンの精悍なソロが鮮烈な風を吹き込んだ。フィナーレで登場したアランナ・アーキバルドも印象的なダンサーで、異国の女神のようにしなやかに舞い、最後に胎児のように抱きあげられるシーンは新たな命や希望を象徴するように映った。それにしても、オーケストラと大合唱に合致するように、ダンサーたちが一体となり、逆方向に渦巻くように円陣を描いて踊り続けるフィナーレは圧巻だった。肌や髪の色、国や文化の違いを越えて、“人類はみな兄弟”というこの曲にこめられた理念はもちろん、ベジャールが意図したディオニソス的な世界の調和や融合をも提示していた。

メータとIPOは2010年の〈奇跡の響演〉で東京バレエ団とBBLと共演しており、今回は2度目。メータにとって〈第九〉には特別の思い入れがあるという。実際、東日本大震災の際、公演のため来日中だったがいったん帰国せざるを得なかったため、一月後に改めて来日し、被災者支援のため在京オーケストラと〈第九〉を指揮している。試練や困難を乗り越えて勝利し、歓喜を謳い上げる〈第九〉こそ、人々を結び付け励ます作品と思ったからだろう。今回は、後ろのダンサーをたまに振り返りながら指揮していたが、総じてゆっくり目のテンポで、温かくダンサーを支え、鼓舞し、包みこんでいたように思う。私が観た11月9日が、1989年のベルリンの壁崩壊からちょうど25年目に当たっていたことも考えあわせ、様々な意味で真に感慨深い公演だった。
(2014年11月9日夜、NHKホール)

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tokyo1412b_3425.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)