ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2014.10.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
パリ・オペラ座バレエ団のコリフェ、オニール八菜の活躍が続いている。オペラ座バレエ団へ入団して最初のコンペティションではトップの成績でコリフェに昇級。その後、ヴァルナ国際バレエコンクールではシルヴァー・メダル(ゴールド・メダル該当者無し)を受賞した。そして先日は、オペラ座の若手有望ダンサーに与えられるカルポー賞が授与された。パリのバレエ雑誌「Danse」の表紙も飾っている。
オペラ座としてもルテステュ、シアラヴォラ、デュポンと人気と実力をそなえたエトワールの引退が相次ぎ、世代的に少し空白を感じさせるようになった。かつてのポントワ、ルディエール、ゲランの時代からの引き継ぎは、いわゆるヌレエフ世代の台頭があって、もう少し活気があったような気もする。そうした意味からも、オニール八菜には期待が高まっているのではないか。
これからも順調に力をつけて、ぜひエトワールにまで昇級してほしい、と願わずにはいられない。そうなったら日本語の話せるエトワールの誕生。史上初めてのこととなる。

マルセロ・ゴメスが演じ踊った圧巻のザ・ストレンジャー/ザ・スワン、ボーン版『白鳥の湖』

New Adventures Production
『白鳥の湖』マシュー・ボーン:演出・振付

1995年にロンドンで初演されたマシュー・ボーンの『白鳥の湖』。大ヒットを記録して、20年に至る今でもワールド・ツアーが続いている。そして今回は、日本公演にだけABTのプリンシパル・ダンサーのマルセロ・ゴメスがザ・スワンとザ・ストレンジャーを踊る、という特別の企画公演であり、大いに盛り上がった。

tokyo1410a_05.jpg マルセロ・ゴメス 撮影/瀬戸秀美

マシュー・ボーン版『白鳥の湖』は、英王室をドラマに組み込んだこと、コール・ド・バレエを純白の羽のチュチュを着けた男性だけで踊らせたこと、ザ・ストレンジャーという強烈に魅力的なキャラクターを創造したこと、などが話題を呼び、世界中から引く手数多のヒット作となった。
しかし、マシュー・ボーン自身も語っているが、この『白鳥の湖』は、まず、装置(レズ・ブラザーストーン)が見事にこの作品の構造と一致し、ダンスのセンスとも見合った舞台空間を創っていることが素晴らしい。まるでベッドが主役でもあるかのように、舞台奥中央にドンッと置かれている。セットはこれだけ。このベッドの空間は甘ちゃん王子の唯一のプライベートスペースだが、ベッドごとを180度裏返すと、英国ロイヤルの巨大なマークが現れ、民衆と向き合う王室の公務の場が出現する。そこで行われる王室の儀式は徹底的に形骸化したものとして描かれている。つまり、王室の実体はベッドをめぐって動いている。そして民衆の関心もまたそこに向いている。ということをこの装置の構造が既に語っているのだ。
この作品に出演したいと望んでいて、念願が叶ったマルセロ・ゴメスはさすがだった。動きそのものが正確でシャープ、表現力も一頭地を抜いて、際立った存在感をみせた。ザ・ストレンジャーの登場シーンはまさに圧巻だった。一桁違う人物として、突然姿を現し、すぐに王室のすべてを掌中に収めてしまった。一方、執事役は王室のあり方を示す役だが、今回はちょっと弱かった。前回観たときはもっとメリハリを利かせた演技をしていたと思ったのだが。王子も渇望の表現が少し弱かったのではないだろうか。このバランスの中でゴメスが強力な力を発揮すると、相対的に他の演技者の力が弱くみえてしまうのかもしれない。

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もうひとつ、この作品の優れた演出はラストシーンに見られる。
王子がコール・ド・バレエに襲いかかられるラストシーンでは、テネシー・ウィリアムズの戯曲を映画化した『去年の夏突然に』(ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督、エリザベス・テイラー、キャサリン・ヘップパーン、モンゴメリー・クリフト主演)の鮮烈なあのラストシーンを想起させた。かといって深刻劇には陥らず、王子が白鳥たちに襲われると、ベッドの中からザ・スワンが姿を現すアイディアは抜群。じつに卓抜したアイディアだ。さらに王子とザ・スワンは天国ならぬ天井裏で結ばれるというアポテオーズまでつけられていていて、何度みても心底感心させられてしまう。このシーンは、マシュー・ボーン畢生の名演出として後世にまで讃えられるべきだ。
(2014年9月9日 東急シアターオーブ)

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tokyo1410a_01.jpg マシュー・ボーン版『白鳥の湖』 撮影/瀬戸秀美(すべて)