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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2014.09.10]

バラエティ富んだダンサーの踊る心を大切にした素敵なガラ、ロイヤル・エレガンスの夕べ

ロイヤルエレガンスの夕べ2014
ラウラ・モレーラ、スティーヴン・マックレー、サラ・ラム、ネマイア・キッシュ、崔由姫、リカルド・セルヴェラ、ベネット・ガートサイド、佐久間奈緒、ツァオ・チー:出演

2012年に続いてダンス・ツアーズ・プロダクションズによるロイヤルエレガンスの夕べが、8月8日、9日、10日の3日間に東京・青山の日本青年館で開催された。総監督は英国ロイヤル・バレエ、K バレエ カンパニー、スコティッシュ・バレエなどで踊ったジャスティン・マイスナー。出演したダンサーは、英国ロイヤル・バレエとバーミンガム・ロイヤル・バレエのプリンシパルを中心に9名。15演目とフィナーレが踊られた。一部にダンス・ツアーズ「未来の星賞」を受賞したダンサーが参加した。
開幕冒頭は、ラウラ・モレーラ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)とツァオ・チー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)が、フレデリック・アシュトン振付、フェリックス・メンデルスゾーン曲の『真夏の夜の夢』のオベロンとティターニアを踊った。アシュトンが工夫を凝らした動き、特にティターニアの動きが人間とは別次元の、妖精同士のパ・ド・ドゥであることを表していた。ロイヤル・バレエ学校の同窓だった二人は、その卒業公演でこの演目を踊ってい以来、久方ぶりに踊ったということだった。
『レクイエム』のパ・ド・ドゥとソロは、ケネス・マクミラン振付、ガブリエル・フォーレの音楽。崔由姫(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)とネマイア・キッシュ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)が踊った。白いゆったりとした衣装で、難しいリフトを多用したパ・ド・ドゥ、そして崔由姫のソロが踊られた。兄事していたシュツットガルト・バレエ団の芸術監督ジョン・クランコの航空機での突然の死への深い悲しみ、それを高度な芸術的意識で構成しようという、マクミランの孤独な作業が垣間見られる振付だった。

tokyo1409c_01.jpg 『レクイエム』©DTP2014_Photo by Makie Taoka tokyo1409c_02.jpg 『レクイエム』©DTP2014_Photo by Makie Taoka

『エニグマ変奏曲』のトロイトのソロ(日本初演)、アシュトン振付、エドワード・エルガー曲は、リカルド・セルヴェラ(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)が踊った。近隣の人たちを活写したといわれる音楽のこのパートは、一体どれほどせっかちな人間を描写したものだったのだろうか。日常の動きをほとんど極限のスピードで表現していて、疾風のごとくだった。
『コンツェルト』のパ・ド・ドゥは、マクミラン振付、音楽はディミトリ・ショスタコーヴィチ。佐久間奈緒(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシンパル)とベネット・ガートサイド(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)が踊った。背景に大きなオレンジの輪、衣装も照明もオレンジのトーンで統一された舞台で踊られた。ガートサイドは支え役に徹して、佐久間の描く抽象的美しさを描くラインを共に創った。ロシア・アヴァンギャルドの美意識に共感を示しているかのようなマクミラン独特の抽象表現が印象に残った。
プティパとチャイコフスキーの『眠れる森の美女』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥは、サラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)とスティーブン・マックレー(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)が踊った。軽さと華やかさ、そして力強さを振付のすべての中で正確に表していて、素晴らしい舞台だった。
『ルーム・オブ・クックス』(アシュレイ・ページ振付、オーランド・ガフ曲、日本初演)はモレーラ、セルヴェラ、キッシュの3人が踊った。演劇のような設定で3人の暗い追いつめられた関係を描いた。初演は1997年で、モレーラとセルヴェラそしてアダム・クーパーが踊ったが、今回はキッシュが初めて踊った。

tokyo1409c_03.jpg 「トレスパス」©DTP2014_Photo by Makie Taoka

『メタモル フォシス:ティツィアーノ 2012』「トレスパス」のパ・ド・ドゥ(日本初演)は、アラステア・マリオット/クリストファー・ウィールドン振付、マーク=アンソニー・タネジ音楽。ラムとマックレーが踊った。片手倒立のラムをマックレーが支える、という極限的ジムナスティックなポーズで開幕した。次々と意表を突く身体の組み合わせの解放と結合が、強烈だったが、機械的な動きを超えたアーティスティックな美しさを見せたのには感心した。ティツィアーノの絵画「デイアナとアクティオン」をテーマとした振付の競作作品のひとつ。英国ロイヤル・バレエ団の芸術監督だったモニカ・メイソンの監督任期終了を記念して創られたもの。
『エリート・シンコペーションズ』より「スウィート・ハート」は、マクミラン振付、スコット・ジョップリン音楽。崔由姫とセルヴェラが踊った。初恋の情景をラグタイムの音楽に乗せてコミカルにそして微笑ましく踊った。
『アスフォルデルの花畑』の第2楽章は、リアム・スカーレット振付、フランシス・プーランク音楽。モレーラとガートサイドが踊った。モレーラはこの作品のオリジル・キャスト。スカーレットが創ったピュアな動きが新鮮だった。幼子の動きのようなイノセントな振りで構成されている、と感じたのだ。アスフォルデルの花畑とは、古代ギリシャでは、死者の魂が死後最初に送られるところだそうだ。
ダンス・ツアーズの「ダンス・ツアーズ:未来の星」賞の受賞者の五十嵐脩が『ベアトリクス・ポター物語』〜ピーター・ラピッドと仲間たちより、まちねずみジョニー(ジョン・ランチベリー編曲)を踊った。着ぐるみはなかったが、山高帽にステッキ、ステップもステッキの扱いも見事で、素速くきれいに決めた。
『デイアナとアクティオン』のパ・ド・ドゥは佐久間奈緒とツァオ・チー。振付はアグリッピーナ・ワガノワ、音楽はリッカルド・ドリゴ。ツァオ・チーの力強いジャンプ、佐久間奈緒の女性らしい表現が良いバランスを保っていた。
『Rotaryrory(ぐるぐるまわる)』はクリスティン・マクナリー振付、ビョーク音楽。崔由姫が未来の星賞受賞者4人に囲まれて踊った。
『瀕死の白鳥』(ミハイル・フォーキン振付、カミーユ・サン=サーンス音楽)を踊ったのはサラ・ラム。アンナ・パヴロワが初演して以来、多くの名人級のバレリーナが様々の工夫を凝らして踊り次いできた。
『キサス』(日本初演)はウィル・タケット振付、音楽は映画『花様年華』のサウンドトラックでモレーラとセルヴェラが踊った。
そして最後の演目はマックレーのタップダンスによる『チャルダッシュ』。マックレーの華麗な足捌きと音楽になりきったリズム感に、喝采がいつまでも鳴り止まなかった。
この公演のプログラムもまた、ダンサーの踊りたい、という意志を尊重して構成されていた。大向こうの受けを狙って大技を仕掛けるような姿勢を見せるダンサーは誰1人おらず、それぞれの踊る心を大切にし、それに理解を求めるという態度は、たいへん好感を持てた。次回もまた、素敵な作品を持ってきてもらいたい。
(2014年8月8日 日本青年館)