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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2014.09.10]

華やかなゲストとともに50周年記念を祝った東京バレエ団の祝祭ガラ公演

東京バレエ団創立50周年〈祝祭ガラ〉
『ペトルーシュカ』ミハイル・フォーキン:振付、『ボレロ』モーリス・ベジャール:振付ほか

東京バレエ団が、創立50周年記念公演シリーズのメイン・イヴェントとして、〈祝祭ガラ〉を開催した。バレエ団との共演回数が最も多い3人をゲストに迎え、古典からモダンまで幅広いレパートリーから選りすぐりの演目を取り上げて、輝かしい実績を披露した。
共演最多の3人とは、シルヴィ・ギエム、ウラジーミル・マラーホフ、マニュエル・ルグリで、このスーパースターがそろって参加するとあって、早くから話題に上っていた。振り返ると、東京バレエ団の創立は東京オリンピックが開催されたのと同じ1964年。バレエがまだ一般には浸透していなかった時代でのスタートだった。だが、そこからが凄い。古典バレエばかりでなく、モーリス・ベジャールやイリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤーといった世界的巨匠に作品を委嘱し、ジョン・クランコやマッツ・エックの代表作を採り入れるなど、バラエティーに富んだレパートリーを開拓していった。一方で海外公演にも力を注ぎ、わずか創立3年目にして当時のソ連を訪れている。以来、今年6月までに、27回の海外ツアーを通じて30カ国152都市で公演を行い、世界的な評価を高めてきた。〈祝祭ガラ〉は、そんな東京バレエ団の輝かしい歴史をたどる、盛りだくさんのプログラムだった。

tokyo1409b_03.jpg 撮影/長谷川清徳

冒頭、東京バレエ団の50年のあゆみを振り返る映像が上映された。1962年に開校したチャイコフスキー記念東京バレエ学校の映像が、当時の東京・銀座の風景と共に紹介され、内外での東京バレエ団の足跡が駆け足で紹介された。今は亡きガリーナ・ウラーノワやベジャール、ジョルジュ・ドンらの短いショットが懐かしかった。
最初の演目はマラーホフ主演の『ペトルーシュカ』(フォーキン振付)。マラーホフはこの夏、ベルリン国立バレエ団の芸術監督を退任しており、〈祝祭ガラ〉を機に東京バレエ団のアーティスティック・アドヴァイザーに就任することが決まっている。『ペトルーシュカ』は東京バレエ団と共演済みだが、“貴公子”と称えられたマラーホフが、身体をかしげ、両手を前で組んだ姿勢が特徴的な人形・ペトルーシュカになりきり、虐げられ、もてあそばれる人間の哀しみや怨念を静かに燃え立たせた。バレリーナの川島麻実子とムーア人の森川芙央も人形振りを巧みに演じたが、ペトルーシュカを交えたやりとりがやや表面的だったかもしれない。

tokyo1409b_04.jpg 撮影/長谷川清徳 tokyo1409b_05.jpg 撮影/長谷川清徳
tokyo1409b_01.jpg 撮影/長谷川清徳

次はノイマイヤー振付『スプリング・アンド・フォール』。白いコスチュームの男女が様々な組み合わせで踊りつなぎ、爽やかな詩情を漂わせた。梅澤紘貴と組んだ沖香菜子が豊かな表現力を見せ、今後の更なる成長を期待させた。抽象作品の後はドラマティック・バレエで、クランコ振付『オネーギン』より第3幕のパ・ド・ドゥを、全幕で共演済みのルグリと吉岡美佳が踊った。今やウィーン国立バレエ団芸術監督として多忙なルグリだが、パリ・オペラ座バレエ団の引退公演として『オネーギン』を選ぶなど、この役への思い入れは強いと聞く。ルグリの演じたオネーギンはタチヤーナに必死にすがり、激しくリフトし、狂おしい想いを溢れ出させたが、今回はそこに絶望的な悲哀感が感じられた。吉岡も揺れ動く心の内を細やかに伝えたが、全幕上演の時に比べると、やや控え目に映った。古典バレエの中から取り上げられたのは、ナタリア・マカロワがプティパ版に基づき振付けた『ラ・バヤデール』より“影の王国”。ニキヤの上野水香は儚げで、しなやかな身体性を活かして高く脚を上げ、コントロール良く踊った。ソロルの柄本弾も力強くジャンプや回転をこなし、安定感があった。けれど、役作りというか、ソロルがどのような感情を抱いているのかが伝わってこなかった。女性3人によるヴァリエーションは遜色なかった。特筆すべきは影の群舞で、次々にスロープを下りてくる冒頭から見事に統制されており、精緻でこの上なく美しかった。バレエ団が誕生して間もない時期、プロポーションやテクニックでは外国人ダンサーに対抗できないかもしれないが、一糸乱れぬコール・ド・バレエなら太刀打ちできると、群舞を重視してきた成果の表れだろう。

tokyo1409b_02.jpg 撮影/長谷川清徳

締めはギエムを迎えてのベジャール振付『ボレロ』。ギエムはこの作品を“封印”したが、東京バレエ団創立50周年という特別の機会に当たり、また封印を解いて踊った。赤い円卓の上で “メロディー” を踊った今回のギエムは、威圧的でも孤高の存在といったふうでもなく、取り巻く“リズム”の男性陣をリードしつつ調和を求めているように思えた。しなやかに脚を振り上げ、小気味よくジャンプし、かがみこんで円卓を叩く瞳に一瞬、悲壮感のようなものが感じられた。これは、来年で現役を引退するという彼女の覚悟を知らされていたせいかもしれない。貴重な舞台に立ち会えたという思いがして感慨深かった。
最後に出演したダンサーたち全員が舞台に登場し、盛大な拍手を受けた。この50年で東京バレエ団は名実共に日本を代表するバレエ団に成長した。けれど現状にとどまることなく、意欲的にレパートリーを開拓し、若手を育ててダンサーの世代交代にも取り組み、マラーホフをアーティスティック・アドヴァイザーに迎えて、更なる発展を目指している。そんな東京バレエ団を頼もしく感じ、輝かしい歴史を刻み続けて欲しいと思った。
(2014年8月31日 NHKホール)