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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2014.05.12]

クラシック・バレエからコンテンポラリー・ダンスの現在を代表する作品が競演したNHKバレエの饗宴

NHKバレエの饗宴
『スコッチ・シンフォニー』スターダンサーズ・バレエ団、『3月のトリオ』島地保武・酒井はな、
『The Well-Tempered』中村恩恵・首藤康之、『ドン・キホーテ』第一幕より 貞松・浜田バレエ団、
『ラ・シルフィード』吉田都・バランキエヴィッチ、『ベートーベン 交響曲第7番』東京シティ・バレエ団

2012年より始まった、NHKバレエの饗宴が3回目を迎え今年も開催された。例年のように、幅広く日本のカンパニーとダンサーを招いた公演となっている。

tokyo1405c01.jpg 『スコッチ・シンフォニー』撮影/瀬戸秀美

まず、スターダンサーズ・バレエ団は、バランシン振付、メンデルスゾーン音楽の『スコッチ・シンフォニー』を踊った。群舞から始まり、プリンシパル(林ゆりえ、吉瀬智弘)のデュエット中心となり、終盤では全員が混じり合って踊る。
森の妖精と若者の出会い、そしてスコットランドの情景の中で、独特のキルトの衣裳を纏い、妖精の掟、若者の想いなどを想像させ、森の中のドラマのシーンを踊る。バランシンの振付は常にステップでリズムをとっているので、音楽が身体全体に表れる。色彩と衣装の魅力、そして動きが一体となって印象深い舞台を作っているのだ。メンデルスゾーンの音楽を重層的に捉え、時折、作曲家の曲想を超えている、とも思わせるヴィジュアルなイメージが表れることもあり、振付家の得難い才能を感じて心楽しくなる舞台だった。

続いて島地保武&酒井はなのユニット〈アルトノイ〉は新作『3月のトリオ』。バッハのチェロ曲を古川展生が演奏し、デュエットで踊った。女性のヴァリエーションを男性が見つめ、変わって自分が踊る。そして二人でユニゾンして踊り、無音となる。さらに二人のドラマティツクな踊りになる。無音の使い方を含め構成、ダンスともに美しい。コンテンポラリー・ダンスで力を培った島地の柔軟性と、クラシック・バレエから意欲的な転身を試みて成功を修めている酒井の滑らかな動きが、見事に融合して心地良かった。質の高い、ダンサーのこの時期にしか踊れないかのようなデュエットだった。

tokyo1405c03.jpg 『3月のトリオ』 tokyo1405c04.jpg 『3月のトリオ』
tokyo1405c02.jpg 『スコッチ・シンフォニー』 tokyo1405c05.jpg 『The Well-Tempered』
tokyo1405c06.jpg 『The Well-Tempered』 tokyo1405c07.jpg『The Well-Tempered』
撮影/瀬戸秀美(すべて)
tokyo1405c08.jpg 『ドン・キホーテ』撮影/瀬戸秀美

第2部は中村恩恵と首藤康之の『The Well-Tempered』。曲はバッハ、ピアノ演奏は若林顕。既に何回か再演されている作品の一部だが、独立した作品として改訂され、美しく完結性があるパ・ド・ドゥとなっている。離れていく男性の気持ちと取り戻そうとする女性のすれ違いが、微妙な関係の変化の中に描かれているかに見える。中村のしっかりとコントロールされた動きと首藤の身体に秘められた表現性が、格調あるラインを描いて見応えがあった。

続いて貞松・浜田バレエ団の『ドン・キホーテ』第一幕から。『ドン・キホーテ』は元々、ボリショイ劇場で生まれ、伝統を育んできたバレエだ。このヴァージョンは、ボリショイ劇場バレエ団でプリンシパルとして踊り、古典バレエに精細な知識を持つニコライ・フョードロフが再振付したものを、貞松正一郎が新たに演出している。キトリは安定した踊りで定評のある瀬島五月、その公私にわたるパートナーであるアンドリュー・エルフィンストンがバジルを踊った。そのほかにも芸達者なダンサーが脇を固め、じつに楽しい舞台だった。

この公演3回連続出演となる吉田都とポーランド出身のシュツットガルト・バレエ団のプリンシパル、フィリップ・バランキエヴィッチは、ブルノンヴィル版の『ラ・シルフィード』。音楽はレーヘンスヨルド。吉田都のディティールに至るまでの動きは完璧。まさに妖精の軽やかさを表わしてあますところがない。ステップが音楽と一体になり、踊る喜びにあふれているから、悲しみの表情はいっそう深い。バランキエヴィッチも吉田の動きに応えて、永遠の生命を宿したロマンティック・バレエの美しさを見事に表わした舞台を創った。

tokyo1405c09.jpg 『ドン・キホーテ』 tokyo1405c10.jpg 『ラ・シルフィード』
tokyo1405c11.jpg 『ラ・シルフィード』 tokyo1405c12.jpg 『ラ・シルフィード』
撮影/瀬戸秀美(すべて)

最後の第3部は、東京シティ・バレエ団のウヴェ・ショルツ振付『ベートーベン 交響曲第七番』。昨年7月に東京シティ・バレエ団により日本のカンパニー初演されたもの。音楽の構造とバレエの動きを巧みに構成し、モーリス・ルイスの脈打つような色彩の世界を融合させた舞台だ。しかし、今回感じた点は、ショルツの振付は、どちらかというと、ステップには重きを置かず、ダンサーの身体が作るフォルムを重視している。そのためだろうか、身体の動きと音楽の交流が思ったほど感じられなかった。初演時の衝撃が大きかったのだが、今回の多彩な動きが展開された舞台の中に置かれて、改めてそんな印象を残したのかも知れない。
(2014年3月29日 NHKホール)

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tokyo1405c15.jpg 『ベートーベン 交響曲第七番』撮影/瀬戸秀美(すべて)