ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2014.04.10]

日本の魂をリリカルに描いたラングの新作とファン・マーネン、バランシンの傑作を上演

新国立劇場バレエ団「シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ」
『暗闇から解き放たれて』(世界初演)ジェシカ・ラング:振付、
『大フーガ』ハンス・ファン・マーネン:振付、
『シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ』ジョージ・バランシン:振付

新国立劇場バレエ団のトリプルビル「シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ」では、ジェシカ・ラングの世界初演作『暗闇から解き放たれて』が上演された。ラングはかつてはトワイラ・サープのカンパニーで踊っていており、その後振付を手掛け、バーミンガム・ロイヤル・バレエ、ジョフリー・バレエ、ABTなどで作品を発表して注目を集めている。芸術監督ビントリーの推挙により新国立劇場に初めて登場した。

tokyo1404g_1089.jpg 「暗やみから解き放たれて」撮影:鹿摩隆司

舞台は色彩を押さえたモノクローム調。ダンサーたちが横たわる上には、蚕のまゆのような形状の白い灯りがいくつか吊されている。舞台空間の光りが強調され、やがて何かが発生するのではないかという予感、あるいは幽体離脱の感覚を想起させた幕開きだ。ダンサーは女性はベージュ、男性はブルーグレイのあまり色を感じさせないレオタードで踊る。群舞に続いてデュエット2組(小野絢子、米沢唯、福岡雄大、貝川鐵夫)。舞台上に黒い幕が少し下り、これとまゆの灯りは、時間に応じて上下する。そしてまゆの灯りだけがダンサーを映して、人間と天上の光りが織り成すドラマに見えた。続いて男性のトリオがリズム感のある曲で踊り、女性のトリオとなって、ミニマル音楽風の曲に変わる。そしてバラード調の曲となって、背景の黒幕も上がり広い空間の中で男女全員が群舞が地明かりの中で踊られた。
音楽はオーラヴル・アルナルズ、ヌルス・ブラーム、ジョッシュ・クレイマー、ジョン・メトカーフの4人がクレジットされている。「ポスト・クラシカル」といわれる、クラシック音楽にと電子音楽を融合させた曲が使われていた。アルナルズは、2011年に「バレエの神髄」でイーゴリ・コルプが踊った旧ソ連時代を題材としたバレエ『扉』(ヴェーラ・アルプーゾワ振付)に使われていた。他にもロイヤル・バレエの振付家、ウエイン・マクレガーにも曲を提供しているという。
ラングの新作は、希有の災害を被った日本の現在をモティーフとしたアーティスティックなダンスで、新世代の振付家らしい力強いパースペクティヴは、あまり感じられなかった。しかし、舞台幕とまゆの灯りを上げ下げして----これはしばしば行われることだが、ここではとても効果的だった。天上の光りと人間という捉え方は、日本の現在を意識したが故に生まれたものと思われるが、そこには優れて現代的なセンスが光った。

tokyo1404g_1017.jpg 「暗やみから解き放たれて」撮影:鹿摩隆司
tokyo1404g_1322.jpg 「大フーガ」撮影:鹿摩隆司

『大フーガ』は、ネザーラン・ダンス・シアターの芸術監督を務めるなど、オランダやドイツなどで活躍したハンス・ファン・マーネンの振付。新国立劇場バレエ団初演である。これはベートーヴェンの『弦楽四重奏曲第13番』の最後の第6楽章に振付けられたもの。ファン・マーネンは4人の女性ダンサーと4人の男性ダンサーを登場させた。男性は幅広いベルトに大振りな袴風の黒いロングスカートを着け、女性は淡い緑がかったレオタードで踊る。まず、女性が待機する目前で、男性4人が雄々しく逞しい踊り。女性4人も合流してやがてデュエットになる。それぞれのデュエットが踊り、またばらけて男女の群舞となり、男性は黒いロングスカートを脱ぎ、全員がペアを組んで踊った。
全体に身体全体を使った大きな動きを中心として構成されている。そして動き自体は、20世紀後半のヨーロッパのダンスを想起させるものだった。ベートーヴェンの音楽には大きな精神性があり、このパートだけをダンスの作品として観ると、フラグメンツのひとつを観た、という印象が残った。

こちらも新国立劇場バレエ団初演の『シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ』は、20世紀バレエの数々の傑作を生んだバランシン作品の中でも、代表的なものとして名を挙げられることが多い。イーゴリ・ストラヴィンスキーの曲の三つの楽章を、バランシン特有の速い動きを基本に、大寺院の伽藍を思わせるようなスケールの大きなと構想と、スピーディな複雑な動きの組み合わせで構成された圧巻の舞台である。
昨年10月には、本家のNYCBがやはり、『シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ』を上演した。元来バランシンはこうした動きのバレエを創るために、ダンサーを基本から訓練し、カンパニーも運営してきた。当然、こうした作品を踊るために、常に速い動きを基本としているカンパニーと、この作品を踊るために作られた速い動きとでは、自ずと異なってくる。もちろん、新国立劇場バレエ団のダンサーはしっかりと踊り見事だった。しかしその違いは、やはり現れていたと言わざるをえない。むろん、だからといって今回の舞台がダンスとして劣っている訳ではもちろんない。その作品世界は、新国立劇場バレエ団特有のスタイルで構築されていた。傑作とはそういう普遍性を秘めているものを言うのだろう。ぜひ、再演を重ねて素晴らしい舞台に育てて欲しい。
(2014年3月18日 新国立劇場 中劇場)

tokyo1404g_1462.jpg tokyo1404g_1535.jpg
tokyo1404g_1572.jpg tokyo1404g_1676.jpg
「シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ」撮影:鹿摩隆司