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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2014.03.10]

4日間で人生のすべてを燃え尽きさせたロミオとジュリエットの生き方が輝いた

東京バレエ団
『ロミオとジュリエット』ジョン・ノイマイヤー:振付

東京バレエ団の創立50周年記念イヤーの幕開けは、ドラマティック・バレエの名手ジョン・ノイマイヤーによる『ロミオとジュリエット』の同団初演。1971年、当時、フランクフルト・バレエの芸術監督だったノイマイヤーが29歳にして初めて手掛けた全幕作品で、シェイクスピアの戯曲を読み解き、登場人物に新たな解釈を加え、若い恋人たちの運命を緻密な構成で描いた傑作。これによりノイマイヤーは評価を確立した。
今回はトリプルキャストで、ノイマイヤーが芸術監督を務めるハンブルク・バレエから招いたティアゴ・ボアディンとエレーヌ・ブシェのほか、柄本弾と沖香菜子、後藤晴雄と岸本夏未のペアが主演した。このうち、初日に踊った若手成長株の柄本&沖を観た。なお、後藤にとってはこれが最後の舞台だったそうで、今は特別団員に名を連ねている。

tokyo1403b_1449.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

最初に登場するのは僧ローレンスで、キャピュレット家の屋敷の階段で眠っているロミオを起こす。ローレンスは年輪を重ねた僧ではなく、ロミオの幼なじみという設定で、ロミオたちの相談相手になり、物語の進行に関わる存在として描かれていた。起こされたロミオはものすごい速さで広場を駆け巡ったが、その勢いは彼が青春まっただ中の、エネルギー溢れる若者であることを示すもの。ロザリンデを追い掛け、仲間との付き合いも良いが、ジュリエットと恋に落ちると一途に突き進む、純真な若者である。
斬新なのは14歳のジュリエットの解釈で、乳母との人形遊びではなく、風呂上がりでバスタオルを巻きつけただけの姿で現れ、裸足で飛び回る無邪気な少女である。母親に大人のシンボルであるペンダントを渡され、胸の前に両手を尖らせて合わせる構え方を教えられるが上手くできず、踊りのステップもこなせないのは、彼女がまだ世の中の規範にとらわれない、純粋な存在だからで、ロミオを知ったことで滑らかに踊れるようになり、少女から娘へと成長する。

ロミオ役の柄本は、柔軟で弾力のある身体性を活かし、複雑で至難のステップを巧みにこなし、エネルギッシュに踊り演じた。ジュリエット役の沖もしなやかな身体の持ち主で、裸足ではしゃぎまわるシーンを自然体で演じ、瑞々しさを匂い立たせた。舞踏会で強い引力に吸い寄せられるように出会った二人は、バルコニー・シーンで情熱をほとばしらせた。柄本はジュリエットのすべてを引き受けるように沖を何度も抱き止めてリフトし、沖も全身で喜びを表し、躍動感あふれるデュエットを展開した。若い二人が無垢な心を響き合わせたようで、激しさの中に爽やかさを感じさせた。それだけに、ジュリエットの寝室での刹那的で絶望的なパ・ド・ドゥと対比を成した。

tokyo1403b_1843.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

特筆すべきはパリス伯爵との結婚を強いられたジュリエットが僧ローレンスを訪ねるシーンで、ジュリエットに舞台を斜めに右から左へ、左から右へと何度も走らせたことで、追い詰められた彼女の精神状態を鮮やかに切り取ってみせた。また、ロミオとジュリエットの運命を暗示する旅芸人の一座による劇中劇を挿入したり、ローレンスが与える毒薬の効き目やジュリエットが夢想するハッピーな結末を芝居で見せたりするなど、時空を超えた演出も効果的だった。墓所のシーンでは、後を追うことしか頭にないロミオは剣で自死し、ジュリエットも同じ剣で自身を刺して幕を閉じた。ノイマイヤーは若い二人の恋の行方に焦点を当て、ヴェローナの守護聖人、聖ゼーノの祝祭日をはさんだ4日間の出来事として描いているので、4日という短い間に人生を走り抜け、すべてを燃え尽きさせたロミオとジュリエットの生き方が、一際、輝かしく映った。

マキューシオ役の木村和夫は、ベテランながら出番の多いお調子者の若者を元気一杯に演じ、ティボルトの森川茉央は終始、冷たい表情を崩さず、凄みのある演技。二人とも死ぬ場面では、拍を刻むように身体を見事に操ってみせた。ベンヴォーリオの杉山優一は、ロミオとマキューシオと三人でマスクをつけてのダンスでは巧みに見せたが、今一つ存在感が薄かったようだ。キャピュレット夫人の奈良春夏は顔を白く塗り、はしゃぎ回るジュリエットには冷やかに接しながら、死んだティボルトをなりふり構わず抱きしめるなど、落差の激しい演技が冴えた。舞踏会のアンサンブルは整っていたし、娼婦や旅芸人たちも、皆、よく踊り演じており、記念公演にふさわしいレベルの高い舞台だった。
ところで、ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』は、日本では2009年にデンマーク・ロイヤル・バレエ団により上演された。同団がこの版を初演したのは1974年で、それ以来、今回の東京公演まで、ハンブルク以外でこのプロダクションは制作されていないという。それだけに、東京バレエ団がこの貴重な作品をレパートリーに入れことは非常な強みで、難度の高い作品とは思うが、どんどん取り上げて欲しいと思う。
(2014年2月6日 東京文化会館)

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Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)