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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2014.02.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
毎月Dance Cubeで、パリのバレエの舞台の現在を伝えてくださっている三光洋さんから、ジャン・バビレが亡くなった、というニュースが入ってきた。
私は1990年代に入ってからだったと思うが、パリのサラ・ベルナール劇場でジャン・バビレの公演を観て、インタビューしたことがあったので感慨が沸いた。
当時のバビレは、さすがに身体の衰えは隠せなかったが、鋭い眼光と身のこなしは、やはり、刮目させるものがあった。そしてそれはローラン・プティのマルセイユ・バレエ団と再び『若者と死』を踊った後のことだが、この作品の振りは、ほとんど自分が考えたのだ、としきりに主張していた。確かに当時のプティは未だ若く、具体的な動きの構成にはダンサーの手を借りる必要があったろうな、と感じられた。そう感じさせるくらいの威力が、バビレの眼光には宿っていた、ということも言えるかもしれない。
「バビレ死す」の情報が流れた後のネットの反応の大きさを見ても、この『若者と死』という作品が後世に与えた影響の凄まじさを実感することができる。世界大戦後の混乱の中で(今は観光客が溢れて忘却されているかのようだが、パリはナチスに占領されていた)、コクトー/プティ/バビレ/フリッパールという創作者が一体になって創った作品のオーラは消えることがない。

美女が明るくのびのびと踊って豊かな情感を詠ったキエフ・バレエの『ドン・キホーテ』

Kyiv Ballet The National Academic Opera and Ballet Theatre of Ukraine In memory of Taras Shevchenko
キエフ・バレエ タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ
"DON QUIXOTE" Viktor Litvinov after M.Petipa, A. Gorsky, K. Goleizovsky
『ドン・キホーテ』ヴィクトル・リトヴィノフ:演出・振付、マリウス・プテイパ、アレクサンドル・ゴルスキー、カシアン・ゴレイゾフスキー:原振付

キエフ・バレエが来日して『くるみ割り人形』『バヤデルカ』『眠りの森の美女』『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』ほか古典名作バレエの全幕を上演した。
ウクライナ国立劇場のチュプリーナ総裁が公演プログラムの巻頭で、日本とウクライナはともに原子力事故を乗り越えていかなければならない、そのためには芸術の力が必要だ、という趣旨のことを述べておられる。さらに言えば、ウクライナも日本も古い伝統を持つ国であり、世界大戦ではともに決して忘れることの出来ない深い傷を負っている。そうしたことからも、両国民が共通して愛する音楽やバレエを通じて交流を深めていくことはたいへん意義のあることだ、という総裁の言には大きな説得力があった。

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キエフ・バレエはリトヴィノフ版『ドン・キホーテ』全3幕をレパートリーとしているが、今回公演では、幕ごとに主役のキトリ/ドルシネア姫とバジルを踊るダンサーが交代する、という趣向を凝らした舞台だった。1幕はエレーナ・フィリピエワ/ヤン・ヴァーニャ、2幕がオリガ・ゴリッツァ/ドミトロ・チェボタル、3幕はナタリア・マツァーク/デニス・ニェダク、というペアが踊った。
『ドン・キホーテ』の場合は、マイムや演技的なシーンは少なくほとんどの場面が華やかで力強い踊りで構成されているので、こうした趣向は楽しめる。

まずは、フィリピエワが全幕を踊り通す体力的負担がないこともあって、バルセロナの広場で闊達に踊って観客の心を掴み、舞台全体を盛り上げた。これで続いて踊るダンサーたちもノリ易かったのではないか。
それにしても男性ダンサーは背が高く足がながいし、女性ダンサーはみんな美人でプロポーションがすばらしい。黒い瞳は魅惑的に輝き柔軟でバランスのよい肢体。明るくてエキゾティックな雰囲気のある美女が次々と踊る。さすがに「美人の国」といわれるだけあって、キエフ・バレエ団は主役もコール・ド・バレエも美人で出来ている。
衣装や全体の色彩感は、南の国の情熱をひき立たせる鮮やかで魅惑的になものだ。しかし、装置はほとんどが書き割りで、うすっぺらでいただけない。というか、なんだか装置にはあまり関心はないよう。「踊ればいいんでしょ」といいたいのか、踊りのスペースを出来るだけ大きくとろうとしているように見えた。女性ダンサーのヴァリエーションでも舞台全体を大きく使ってのびのびとした踊りだった。男性ダンサーも背が高いので踊りが見栄えがする。踊りのエネルギーが脈打つ『ドン・キホーテ』は観客の望むところだ。
そしてこののびのびとした印象の大きな要素のひとつは、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団の演奏ではないか。近年は、指揮者だけ呼んで日本のオーケストラを指揮させるケースが多いのだが、この舞台ではダンスと演奏が息がぴたりと合って自然に溶け合っていた。常日頃、踊っていて音楽の演奏がダンサーの身体の一部になっているのだろう、安定感のある踊り。リラックスして力を発揮し、引っ越し公演の良さが感じられた。ウクライナはアジアの中のスペイン、そんな感想も生まれた公演だった。
(2014年1月8日 文京シビックホール)

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写真:瀬戸秀美 写真提供:KORANSHA (すべて)