ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.08.12]

マシュー・ボーンが描いた美しさによって破滅していく青年の愛と死

A NEW ADVENTURES PRODUCTION
"DORIAN GRAY" Devised and Directed by Matthew Bourne
『ドリアン・グレイ』マシュー・ボーン:翻案・演出

マシュー・ボーンは周知のように、アダム・クーパーを起用した男性ダンサーが羽のチュチュを着けてコール・ド・バレエを踊る『白鳥の湖』によって、世界的大ヒットを記録し、瞬く間に今日のシアター芸術の寵児となった。その後も『ザ・カー・マン』『くるみ割り人形』『愛と幻想のシルフィード』『シンデレラ』『シザー・ハンヅ』など話題作を次々と提供してきた。
ボーンは男性のセクシャリティを大胆にフューチャーし、それまでは二次的芸術と思われてきた映画の表現(世界中の多くの人々が観た)を生の舞台に積極的に採り入れて、意想外の効果を上げた。どちらも今日という時代には非常にポピュラーで理解し易い素地があったので、観客の喝采を受けた。そして「ボーンは次はいったい何を題材としてどのようなパフォーマンスを創るのか?」という期待と興味を抱かせる舞台作家となった。

tokyo1308g_01.jpg 撮影:田中亜紀

今回上演された『ドリアン・グレイ』は、1890年に発表されたオスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』を現代に翻案している。時代性がひとつのポイントともなるボーン作品にとって、初めて現代を舞台としている。2008年に英国のエジンバラ・フェスティバルで初演された。
日本公演に当たっては、すべてオーディションで選出した日本人キャストによるJP版と、タイトルロールをオリジナルキャストである英国人のリチャード・ウィンザーと日本人の混合キャストによるUK版を上演するという試みが行われた。観客はUK版か、JP版か、それとも両方のヴァージョンを観るのか、という選択をしなければならず、より興味がそそられる公演となったのではないか。
私は大貫勇輔がドリアン・グレイを踊るJP版を選択した。オール日本人のキャストが、日本人のために振付けられたのではないマシュー・ボーンの作品をどのように踊ってくれるのか、興味があったので。結局、7月12日19時からの大貫勇輔がタイトルロールを踊った日本ヴァージョンの初日を観た。

物語はウエイトレスだった一人の美貌の青年が、ファションカメラマンとカリスマ的雑誌編集長に見出され、たちまちトップスターに上り詰める、当のカメラマンや編集長とも次々と関係を持ち、他にも思うがままに振る舞う。大きなベットにドリアンと女と男が寝ていて、一人ずつ起き出していくと、毛布の下にはもう一人、さらにもう一人と出てくるといったありさまだ。その背徳的生活の中で彼と関係のあったバレエダンサー、シリルがドラックに耽溺して死ぬ。彼の心は動いたかのようにも見えたが、傍観してしまう。そして次第に傲慢不遜な人間性を曝け出して自分を見失ない、異常をきたし破滅していく、というもの。終盤では、ドリアンにはドッペルゲンガーが現れるようになり、撮影も激しく拒絶する。カメラマンと争いついにはバスタブに誘い込んで、彼のカメラで滅多打ちにして殺害してしまう。このクライマックスのシーンは、マシューボーンらしい現代人のなかに潜んでいる獣性が突如露顕する凄絶な描写だった。

tokyo1308g_02.jpg 撮影:田中亜紀

ボーンとコンビを組んで傑作を創っているレズ・ブラザーストーンのセットと衣裳が見事。中央に出入りできるドアがある壁面をセットし、シーンごとに回転させて場面転換をかなり速いテンポで行う。この切り替えの速さは映画のカットバックのようで、物語全体のリズムを創ってひとつの表現として成立している。衣裳は白を基調としたドリアン・グレイとそのほかの人物の基本は黒。(それだけに殺人シーンの血の赤が効果的だった)。舞台には白いスクリーンが張られていて、そこにモノクロームの大きな写真を映す。ドリアン・グレイは自身が被写体として映り、周辺の出来事もモノクロームもを基本とした世界であり、それがドリアン・グレイの心理をも表わし、鮮烈な陰影で構成されているファッション業界そのものを象徴している。
ダンスはストーリーを語りつつ、アクロバティックでエロティック。演技的な動きとアクロバティックな動きをうまく融合させていた。やはり、大貫勇輔が敏捷で心理的表現と動きが一体となっていながら、スケールも大きく存在感が出た。
これだけテンポ速くシーンを展開しながら、全体の動きに統一感をだすのは至難の技だったろうと推察される。
その他にも、目覚まし時計の曲が『白鳥の湖』だったり、『ロミオとジュリエット』の曲を思わせるメロディが緊迫感を高めたり、ドリアン・グレイとドッペルゲンガーの踊りなど見せ場が様々用意されていた。
日本人ダンサーによるマシュー・ボーン作品として大成功の舞台だったと思われる。
(2013年7月12日 オーチャードホール)

tokyo1308g_03.jpg 撮影:田中亜紀